FIFAワールドカップ2022 オランダ×カタール マッチレビュー

サマリー

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Sofascore

[参考] 試合の流れ・アタックモメンタム(Sofascore

上:🇳🇱 下:🇶🇦

イメージ程度でご参考ください。

特異な左サイドボール保持のオランダ

カタールのプレッシング配置は5-3-2。我慢と急襲を織り交ぜて相手のミスを誘いカウンターに繋げるスタイルと思われる。縦のコンパクトネスを保つため、1stプレスの位置は低くセンターサークル付近に設定されていた。また相手センターバックのボール保持は許容していてプレッシングに行くことは少なかった。

対するオランダのビルドアップは3バック+1センターの構造が多かった。横展開する場面などは例によって右肩上がりとなり4バック+2センターに可変することもあったが、カタールはビルドアップ隊へのプレスが皆無なため、左サイドのブリントも高めの位置でボールを受けることができていた。そしてセンターバックからの縦展開も狙うことができ、カタールのブロックを押し下げていた。

一方、オランダのプレッシングは配置はこちらも例によって5-2-1-2。外切りがメインの1stプレスと中盤のマンマークで不正確なロングボールを蹴らせるのが主目的となる。ゴールキックから3-2ビルドアップを試みたカタールだったが、ロングボールを跳ね返されたりプレス回避に失敗しショートカウンターを狙われる。

パスミスからカタールに1stシュートを浴びるものの、裏抜け+縦パスアタックやプレッシングでオランダが容易に序盤の主導権を握ることとなる。

主導権を握ったオランダによる相手陣内でのボール保持の振る舞いが興味深い。右サイドはやや縦の意識が強い。ダンフリースの馬力を活用するアイソレーションやトライアングルのローテーションで突破を図る。ただ効果的な場面は少なかった。

面白いのは左サイドだ。コンパクトフィールドを形成し小さなパスの連打。そのパスやコントロールの仕方はさながらロンド(鳥かご)の振る舞いに酷似することが多かった。

ここにファン・ハールの罠が仕込まれていると考える。相手をボールウォッチャーにすること、またボール奪取に来てくれれば御の字。そのような意図が見える。御大流な言い方だと挑発的なパス回しと言ったところか。相手を釘付けにしてからDF-MF間にいるアタッカーにパスを入れるのがフィニッシュワークのスイッチとなる。右サイドでも同じ振る舞いをすることもあるが、アケ、ブリント、デ・ヨング、クラーセン、メンフィス・デパイがいる左サイドの方で行うことが多い。

ライン間あるいは裏抜けでボールを受けた後は前線の3枚がセントラルで密集アタックを仕掛ける。トラップと奇襲を組み合わせたアタックは少人数でゴールまで近づく。そのため中盤は予防マーキングへの移行が容易でトランジションによる相手のチャンスが発生することも少ない。ファン・ハールの左サイドへの仕込みはそんなところではないだろうか。

主導権を握っている内にオランダがこの形で先制点を奪った。欧州予選の頃からチャンスを与えていたガクポがブレイクの兆しを見せ、ファン・ハールの若手育成、老いてますます健在というところだ。カタールにとっては反撃に転じる兆候を見せ始めた矢先の失点だったのでやるせない。まあそれもファン・ハールの罠ということで。

カタールの反撃で思うファン・ハールのリスク管理

ここからはカタールが打開を図る時間帯となる。まずは縦志向とゲーゲンプレス。そのためのビルドアップではゴールキーパーがサイドに流れて放り込みを支援していた。ただ攻撃がアウトオブプレーかキーパーのキャッチで終わってしまうと、序盤のボール非保持展開アゲインとなってしまいトランジションゲームへの移行は狙っていない様子だった。

先制したオランダであるが、このゲームでもパスミスが目立つ。ショートパスやチャレンジパスもそうだし、全体的にミドルレンジのパス精度も低い。これはロンドのトレーニングばかりしているせいじゃないかと思ったりする。因果関係があるのか気になるところで有識者の意見を聞きたいところだ。

オランダのミスをきっかけに試合の流れが変わる。カタールのサイドチェンジにオランダの1stプレスは無効化される。となるとウイングバックが出てくるがカタールは対面で交わしにいくチャレンジを行う。右センターバックのペドロ・ミゲルの突撃はFWの囮の動きも相まって効果的で、カタールは遂にはボール保持からのアタックも振る舞えるようになった。

オランダは自陣守備では5-2ブロックを敷く。そしてクラーセンが中盤を補間する。ロングボールだけであれば問題なく対応できていたが、ドリブルによって侵入されると話は変わってくる。相手がスピードに乗った状況でのデュエル、そしてワンツーにはめっぽう弱い。ボールホルダーへの対峙はあまり相手の効き足を考慮せずボールに行ってしまうため剥がされる傾向が強い。

おそらくロンドとチャレカバによる弊害であろう現象はこのように世界でも見られる。ファン・ハールの哲学には最後まで付きまとう問題となった。そして以降の展開や今までの5-3-2のゲームを思うと、出したマネジメントの解はリスク保有なのではなかろうかと考えてしまう。

最後で跳ね返して序盤アゲインを図るオランダ、やはり自陣に戻ってしまうカタールではあったが、スイッチの入ったカタールの守備はオランダからボールを奪いカウンターへと繋げる。超攻撃プレッシングを仕掛ける場面も出てきた。対するオランダもゲーゲンプレスを敢行しバチバチの展開も見られるようになってきた。

後半開始も同じノリだった。おそらくカタールはオランダのコンビネーション警戒とカウンターの人の動きは調整していそう。

だったのだが序盤アゲイン再び。オランダのゴールキックに対して高い位置からプレスする姿勢を見せたカタールであったが、横展開を繰り返されて自陣に押し込まれてしまう。そしてオランダに左サイドからチャレンジパスを入れられてしまい、ゴール前でサイドを変えられてクロスから最後はデ・ヨングに押し込まれてしまう。起点となるアケの運ぶドリブルとパスを受けるメンフィスのポストワーク、デ・ヨングの受け方と交わし方は上手かった。カタールはいけそうな雰囲気になっていたのにやるせない。まあそれもファン・ハールの罠ということで。

おわりに

その後の展開はワールドカップに爪痕を残したいカタールと、試合を寝かせられないのでやり合うオランダと言った感じで見応えのあるバトルが続くのだが時間となりましたのでレビューはここまで。

カタールはオランダから2点差を覆すのは厳しかったが、失点以降、徐々に良くなっていったので、最初からアグレッシブに出来ていればと意見したくなる気持ちは分かる。

一方のオランダ。2点差が付いた後にゲームを落ち着かせることが出来なかったのは懸念だと思う。3点目を奪いにいくと言えば聞こえが良いが、アタックの仕方を変えずに試合を進めて良かったのだろうか。

ポセッション志向のボール保持のままでいくにしろ、自陣深くでビルドアップし相手を誘って縦を狙うアタックおり込めるはずだがそれも振る舞わなかった。ファン・ハールがワールドカップにおいて自陣ビルドアップとボールを奪われた後の主導権譲渡をリスキーと考えている気はする。ただ同じやり方でも攻め込まれている。質の高い相手であればやはり覆る恐れはある。それとも控え選手のレッスンをしているのか。

師の思考を追うことは喜びである。そして間もなくのアメリカ戦で答えが出るかもしれない。

それではまた。

ちなみにオランダについてはW杯のまとめ考察をしたいと思っているので気長に待っていていただければと思います。やるやる詐欺もよくやりますけど。


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