「うつせみとブラジル」について

さて、トンチトリオのレコーディングも無事終了しましたので、これから二週間、3月17日(日曜日)の旧グッゲンハイム邸ライブの宣伝を各SNSでしていこうと思います

自分の文章にどれほどの訴える力があるのかは分かんないんだけど、そんな自己客観な事柄などまじでどうでもよいくらいちょっとこれはとにかく是非とも一度聴いてほしいという音楽なんですようつせみは

ということを書いていきます

ということでほい
グ邸とチラシです
チラシの絵は中二のときの長女の作で、末っ子はなかなか絵であることを認識しなかった

うつせみの音楽をまともに認識したのはいつだったか
あれは1年前か、2年前か
季節はなんだったか
雨が降っていたかいなかったか
ツアーで黒田くんと一緒にゆすらごを車で出発し京都の街を抜けきって山科あたりを超えて京都東インターから高速に乗りかかる頃、黒田くんが
「稲田さん、ちょっと聞いて欲しい音源があるんですけど」
「を、何?きかせてよ」
「これ大好きな京都のバンドなんです」
っておもむろにゴソゴソと500ml缶ジュース態のJBLのモニターからかけだした音楽はサイケで深いグルーヴのエレクトリックドローンバンドで、音はわりと大きいのになんかとても静かに聴こえた
ゆったりとしているが遠くへ飛んでいこうとする力のある音楽だな
ライブ音源というよりライブをただ誰か客が勝手に録ったような音源なので音質は全然良くないのだが、ボーカルのざらざらした歌声もバンドの演奏もむちゃくちゃよくて
「なにこのバンドめちゃくちゃいいんだけど」
俺は運転しながら横目で確認すると黒田くんは顔の他のパーツはそのままで上唇の両端だけをクッとあげて
低い調子で
「いいでしょ」
と言ったのだ

京都の人らからすればお前は今ごろ何言ってんのというところだろうけど、全く知らん音楽だった

きけばこれは「うつせみ」と言うバンドで、水田十夢くんがベースを弾いていたりイガキアキコがバイオリンを弾いていたり、京都拠点のミュージシャン達がいろいろ参加していたものらしい

声も演奏も絶妙に抑揚のコントロールが効いていて曲もその流れもことごとく文句無くカッコいい

音源自体はもう10年以上前のライブだそうだが、いやこれは「今こそ」聴きたい新鮮でさらに新しい音だろ

「これは今やってないの?」
「たまーに、思い出したようにやってます」
「どこでやるの」
「あんまどこってこともないけどメンバーも不定で」
「へー、こんないい音楽なのになんでそんな滅多にやらないの」
「ボーカルのたかしくんが異様に無欲でマイペースな人なんで」
「たかしくんって、時々ゆすらごのカウンターでショーキーとかと一緒におってほとんど喋らず常にニコニコしてるあの人」
「そうですよ」
「あれがこんな音楽を」
「そうなんですよ」
ふーん、、その時はそんなことを言っていた

それで『うつせみ 京都 バンド』などとググってみたりするのだが、案の定ほとんど情報がでてこない

2007年のライブ情報以外には、とんかつ屋さんとか漢字で空蝉って書くインディーズバンドしか出てこない

しかしネット情報に関しては「ブラジル」も他所のことは言えない
むしろもっとひどい
バンド名はそも当然だが、セカンドアルバムの「コーヒー」は我々がブラジル産コーヒーよりも有名にならん限りヒットするはずがないしサードアルバムの「バード」もカラフルなアマゾンの鳥の画像ばかりが現れる(綺麗やけどな)

それにしてもこのうつせみはアルバムもないようだ

別に自分が発見したからとかではなく、ふとしたきっかけで知って好きになったとある音楽を純粋に誰かに聴いてほしいことあるでしょう

食べ物屋とかは「ここが混むようになったら嫌なのでむやみに他人に教えたくない」という場合はあるのかなないのかなでも親しい人には絶対教えるか

とにかくそういうときに思うことがある

俺はいわゆるメジャーな音楽や有名なグループや人に対してはまずそんなことは思わなくて、だってわざわざ自分がおすすめしなくてもすでに誰か他の大量の人らがめっちゃ広めようとしとるし実際しとんだからいまさら個人的に広めようとすることってなんも意味がなく、以前「ゼロ・グラビティ」公開時に梅田くんがあかまっちゃんにめちゃくちゃに勧められて滔滔とその作品の良さを語るあかまっちゃんの熱き言葉を聞きながら梅田くんは「(とっくにほうぼうで絶賛されてるのに)お前が言う必要ぜんぜんないやん」と本気で思ったって話はどうでもいいけどまさにそういうことをどうしても思ってしまうのだ

つまりうつせみは、完全に「この自分こそが自分の友達や知り合いにどうにかして聴いてもらいたい音楽」なのです

まああかまっちゃんの気持ちもわかる

、、というここまでの前振り?を踏まえて、それでこちらを聴いてほしいんです

パブリックで聴ける唯一のうつせみデモ(現在は聴けません)

アコースティック・シクステットになったうつせみ

歌詞も最高じゃないですか

こんだけ少ない言葉でやたらエモく豊かな歌もあまりお目にかからない

ところでこれなにか似てる音楽あるかなあと考えてみるけど、なかなか思い当たらない

歌だけならもちろん清志郎の流れではあると思うけどそれは俺だって(そしておそらく誰だって)そうだし

デモを聴いた妻が「耳をすませば」の合奏シーンみたいと言っていて、ああそういえばあれも実はかなりプログレやもんな

なんせこの浮世離れな感じはほとんどファンタジーかもしれない

だいたい、今回の編成ミュージシャン達の音楽のことは俺はよく知ってて、黒田くんはもとより、風の又サニー、アン・イーサ、ムーンフェイスボーイズ、ベートルズ、それぞれの演奏も知ってるし、そのうちのいくつかはがっつり録音したこともあるから「よく知ってる」と言ってもいいですよいいますよ

ところがこのうつせみのときは、みんなちょっと知らない感じになっている

さて、対バンのうつせみのことばかり書いてて、とうとう妻からうちらのことは?と言われた

もちろん書きますよーいまから

いつかは書いといてもいいかとは考えていて単に億劫なのでほったらかしてただけだから、良い機会かもしれない

我々「BRAZIL」は結成1999年ですね

まず俺はすでにパーパという自分が歌ったりするインプロバンドをやっていて(いまも時々やる)、しかし自分の声だと癖が強すぎてどうしてもポップスにならず、もともと日本の音楽は早瀬優香子と立花ハジメくらいしか聴いていないけど「ポップス」はいつかやりたいとずっと考えていた

それでそういう曲をいくつか作ってて、何人か知り合いの女の子に歌詞を作ってみてと頼んだことがあり、なかでダントツでやばい歌を書いてきたのが部活の後輩の西崎だった

「熱かんお化け」という曲で、1st.の一曲目に入っている

そういえばネットで聴ける音源もないから、これも良い機会なんであげてみようかな

※YouTubeに音源アップするためにただいまレーベルに問い合わせています※

それでついにバンドとしてやりたいなとなった時、当時神戸ビッグアップルNMAワークショップで知り合った宇波くんのバンドHOSEの太鼓の服部玲治、夙川のバートンホールで対バンしたかきつばたというバンドのギター西川文章に声をかけそれぞれ即答で了承してくれたのだ

メンバーを選んだ基準は、とにかくシンプルで音数が少なくていい音楽できるひと

バンド名は大好きな「JAPAN」にあやかって、国名がいいな、、ブラジルかベトナムか、、未来世紀ブラジルも好きだし西崎もしばらくブラジル旅行いってたし「BRAZIL」に決めた

ちなみに宇波くんはいまも時々「ブラジルはホースを踏み台にした」と服部くんに言っていて、そして毎回必ず服部くんがすごい苦い表情をしている

ブラジルはポップスをするというコンセプトより他には指標はとくになにもなく、実態ははじめからほぼインプロだったと思う

自分の音楽に染み付いてしまったのもジャズだから、テーマが終われば後は好きにやってもらってという感じで

2nd.アルバムは2日間即興で遊んだテイクを編集して作ったので、作曲の記憶がない

たしか2nd.を出した直後、服部くんがバンド辞めたいと言い出して新世界ブリッジで俺と妻(西崎美津子とそのころはすでに結婚している)で必死で引き留めたことがあったが妻は完全にその出来事を忘れていて、他のメンバーははたして覚えているのだろうか

それからは色々実験も重ねつつ、でもことさらインプロへ向かうということもなく、とにかく自分はひたすら曲の骨組みだけを作っていく

当時はちょこちょこ演奏の指示もしていたが、だんだんなにも言わなくなるのは言って(その通りやってもらって)もとくになんともないことに気づいたからだろう

いまは自分のベースラインと構成と大まかな歌だけ決めておいて、後はライブ当日のリハで各々即座にアレンジして微調整をしてもらうという流れ

100%集中してやってもらっているから、ライブはいつもあっという間に終わる

あと、近年バンドとしては「西川のギター問題」というのがある

4年ほど前は彼は普通に愛機のセミアコギターを弾いていて、ある回のゆすらごライブのリハで音がでず黒田くんのレスポールを借りた

ところがしばらくして、ベアーズでのライブだったか、彼は同じギターをそのまま持ってきて(修理にはだしていない)、やはり音がでないので対バンの ann ihsa ウエニシくんのストラトを借りた

音が出ないギターをほっといてしばらくすると出るようになるかどうかは知らないが、おそらく出るようにはならないと思う
※この宇宙にはエントロピー増大の法則もあるので

そしてまただいぶ間が空いたけど次のライブの前にギターを修理したか確認すると、修理はしていないとのこと

むっちゃん(西川妻)によると、この数年家でギターケースを開けたことがないらしい

ライブの当日、彼はその修理していないギターを一応もってきたものの勿論音はでるわけなく、念のためにと自分がもってきていたテレキャスを貸した

それで最近は俺がテレキャスを持っていくようにしていて、西川くんはもはやギターを持ってこない

中島敦の小説に「名人伝」というのがあるけれど、きっと西川くん晩年はギターをみてもそれが何かすら分からなくなるはず
(もしかしたらあれは年老いた人が痴呆になり何もかもが不明になるってだけの話なのかもしれないが)

しかし気づけば20年もやっていて曲もそれなりにあるから記念に長時間のワンマンライブだってやってみたいのだが、メンバーの集中が持つかどうか

我々の集中力は全て短期記憶に費やされていて、それはライブが終わった瞬間ほぼきれいにリセットされてしまう

自分も毎回譜面を観ながら思い出しているし、一度ライブでやったけどコード譜を残していない曲でなにをやっていたかどうしても思い出せないものもいくつかある

毎回新鮮な気持ちで音楽をやれるのは良いことなので良いのだが、やはり問題は人間の集中力が1時間以上続かないことだ

たぶんうちら、2時間なんてライブは、持たない

話は変わるけど、E.E.スミスのレンズマンシリーズにウォーゼルという龍型異星人のキャラクターがいて、そいつは圧倒的な精神力及び肉体的な能力の持ち主だが「意志を貫く力」があまりないという設定だった

ウォーゼルの種族のDNAレベルに埋め込まれた諦念や快楽に抗えない性質、そのせいで主人公キニスンが危ない目にあったりする(その他の場面では頼もしい助っ人なのだが)

そしてキニスンは「意志の力」以外は全てにおいてウォーゼルに劣っているけれど、ただその力ゆえに世界を動かすことができるというお話

物事(物語)を完遂するのは才能ではなく「断固たる決意」かもしくは「深く深い思い込み」のどちらかだ

「そもそも完遂する必要があるのかないのか?」はまた別のメタな話で、メタではなくコアにはやはり死ぬまで音楽やりてえなあというのがあって、そういう意志を感じるバンドと対バンしたい

まあワンマンはいつかやってみたいけども、俺は2マンってのが凄く好きなのです

ということで、うつせみはその意志のある対バンしたいバンドです(ああ帰ってきた)

こんな音楽があってくれて、ありがたくてありがたいです

なのでみなさん3月17日の日曜日、お待ちしておりますよ

そんでお待たせしました

こちら、熱かんお化けをYouTubeに上げてみましたー

いよいよ明日です!

西川くんからギター貸してとメールも来ました

あ、書くの忘れてたけど、ブラジルはイヤホンかヘッドフォンで聴かないとベースほぼ聴こえないのでおそらくなんにも伝わらないですが、それでも伝わらないとすればそれは、、、(終)

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