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夜桜

桜の蕾がほころぶ頃 大切なものを失った

時が止まったように感じた
けれど 日常に紛れ始めたなら 意外と前へ進んでいく

毎日働きに行き きちんと仕事に成っている
ちゃんと食べられて ちゃんと笑える

今年もまた 桜の花が咲いたね
桜(はな)の盛りは 今日明日
家路を急ぐには惜しい

じゃあ また後で
宛てのない約束

結局 皆には会えずじまい
川沿いの桜並木 独りの花見 
砂利道 踏みしめながら 歩いてゆく

ふと あの日の景色が 川面に揺れる

凍ったままの 絶望
もつれたままの 怒り

それでも
自分の足音が 歩を前に進める

一歩が連なり ここへ
一片が重なり 桜(はな)へ 
いま共にこの場所で

本当は この時を
桜(はな)と映しあう その時を
待っていたのかもしれない

風が吹き 花びらが舞い 夜に佇む

心の底の雪洞に 灯る薄紅(うすくれない)の夜桜
ほどけることの無い 祈り

きっとこの先
これ以上美しい桜を見ることは
もう無いだろう

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