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「『見たことないもの』が見たい! 問題」と向き合う

ちょうど今、3冊の本(『文庫 しないことリスト』『電通さん、タイヤ売りたいので雪降らせてよ。』『最速! 清潔感』)のカバーづくりをしていることもあって、「既視感」について書いてみます。

1「え、モノづくりとか無理なんですけど(笑)」

モヤさまのような街歩き番組を見ていると、手作り工房のようなお店で、「あなたもやってみませんか?」とモノづくりを体験するシーンを見かけます。

自由に自分で作ってみましょう!

この言葉は、ときに暴力になります。
小学校の頃「4人グループを作りなさい」と言われたときのように、まわりを見回してイヤ~な汗をかいてしまいます。
よほどクリエイティブな人でない限り、自由な発想でのびのびモノづくりなんてできません。

世の中のモノづくりは、次の3つでできていると思っています。

① 「見たことがあるもの」を作る
② 「見たことがないもの」を作る
③ ???(後で説明します)

多くの人は、「①」を作ろうとします。
凡人である僕たちが最初にやることは、あたりを見回して「見本」を探すことです。
先ほどの体験コーナーの例で言うと、隣の人が作っているものをチラチラ見ながら、そこから近すぎず遠すぎず、「空気を読みながら」作ります

なぜなら、「他の人もやってるから、自分は変なものは作ってないはず!」という安心感があるからです。

2「よっしゃ、すっげえもん作ってやんよ!」

自分の発想力に自信がある人は「②」を作ろうとします。
誰も見たことがないものを見せてやる!
そう思ってモノづくりに取りかかります。
けれど、これも「諸刃の剣」であって、本当に誰もが感動するようなものが作れればいいのですが、いざフタを開けてみたら「・・・これなに?」と、理解者が現れない可能性も十分にあります。
アーティストのように自分の世界観を作りたい人ならまだしも、サラリーマンクリエイターがやるべきことではありません。

さて、ここからは編集者としての話です。
本の企画を考えるとき、多く場合、「今、売れている本」を探すことから始まります。

「『開脚』の本が売れているのか…。じゃあ『バク転』も売れるかも」
「『アドラー』がブームなのか…。アドラーの研究者を探さなきゃ」
「『きみたちはどう生きるか』が売れているのか…。じゃあ、『きみたちはどう食べるか』って本はどうだろう?」

そんな感じで企画を考えます。
売れている本があれば、社内の企画会議が通りやすくなりますし、何より自分が作るときの見本になります。

そう、先ほどの「①」のように「安心感」をもってモノづくりができます。
けれど、ここには大きな落とし穴があって…

3「見たことないとこに連れてって!」

ある日、書店に言ったら、カップルがこんな会話をしていました。

男「最近、おんなじような本ばかりだよねー」
女「そだねー。まだ見たことない本が見たいよねー」

見たことない本が見たい…
読者は本当に勝手です(笑)
1つの書店で何万冊もの本が存在するのに、そうそう見たことない本なんて世の中に出てきません。
でも、正直僕もおなじことを感じています。

ただ、同時に、似たタイトルを付けてしまう気持ちも痛いほどわかります。
前回にもちょっと書いたように(「クリエイティブを襲う! 『夏休みの工作』現象」より)、編集者はタイトルの迷路にハマります
いいタイトルがなかなか決まらず、藁をもすがる思いで書店へ通い、ベストセラーや類書を見ながら「落とし所」を探るのです。
けれど、そうやって安心感に逃げて作った本は、どうしたって「既視感」にまみれます。

「どれもこれも、みーんな見たことある! 見たことない景色を私に見せてよ!」

女の子にそう言われたって、誰も見たことがないものを作るのなんて、凡人には不可能です…

本づくりに迷っているときに「売れている本」を見てしまうと、それに引っ張られて影響を受けてしまう。かといって、羅針盤がなければ無から有は生み出せない。うまく距離を取る方法はないものか…

そんなことをずーっと考え続けて、僕がやったことは、

売れている本は「あえて避ける」

ということでした。

「『嫌われる勇気』が売れているから『○○の勇気』も買ってくれるだろう」
「『フランス人は10着しか服を持たない』が売れているから『○○の10着』も読者は求めているはずだ」

お年寄りに向けて「間違って買わせる手法」ならまだしも、まともな読者を相手しようとしたときに、「え、あのベストセラーみたいじゃん…」と、既視感を抱かせてしまうのは絶対に避けなければいけません。

「ゼロベースで考えた結果、それでも『○○の勇気』という言葉を付けなくてはいけないんだ…!」

そういうケースもあるでしょう。それでも「勇気」というワードは全力で避けましょう(笑)
(たとえるなら、2018年8月現在、おそらく一発屋芸人になりそうな「ひょっこりはん」のモノマネをコンパで全力でやっているようなものです。そんなもので大人は絶対に笑いません。)

「既視感」を取り除くレッスン

ここで、最初の「世の中のモノづくり」の3つを思い出しましょう。
「① 見たことがあるもの」、「② 見たことがないもの」に続く「③」とは、いったい何なのか。それは、

③「 見たことありそうで見たことがないもの」を作る

ということです。
「やっぱり見たことがないんだったら『②』と同じじゃないか!」
と、反論されそうですが、②と③はまったくの別次元です。

世にベストセラーが出たとき、誰もがこう思うことでしょう。

「あ、やられた! 自分もそのアイデア考えたことあるのに!!」

誰もが「頭の中だけ」で考えたことがあるもの。これこそが、「見たことありそうで見たことがないもの」の正体です。
学校の宿題と同じで、「今、やろうと思ったのに~」というのは、すなわちやってないのと同じです。
「アイデアだけ考えて何もしていない人」と「それを実際に作っちゃう人」は、「想像妊娠」と「実際の妊娠」くらい大きな差があります

ということで、凡人である僕たちが、ベストセラーをマネずに、うまく「既視感」を取り除いてモノづくりをする方法は、こちらです。

1 「こんなのあればいいな~」というものを頭で考える
2 書店やネットで探す
3 似たようなものを見つけて…
  → めちゃくちゃ売れてたら諦める
  → 「もっとこうしたらいいのに…」という改善の余地があればやる

こうすれば、誰だって「ありそうでなかったもの」が作れます。

ベストセラーを見つけてパクるより、売れてない本(けど、ちゃんと作れば売れるはず)を見つけて、自分が想像した感覚で作り直したほうが絶対にいいものが作れることでしょう

(…と、エラソーに言い切っちゃっていいものか。ホントのところ、まだ完全に自信があるわけじゃありませんが、とりあえずご参考までに…笑)

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