おすぎさん。

昔、友人とある隠れ家的な和食屋に夜、食事にいった。渋谷あたりだったと思うが、はっきりは覚えていない。そこのカウンターで食べていたら、あの特徴のあるトーンの高い声でしゃべりながら入ってくる一団があった。おすぎさんとあと2人くらいは女性だったと思う。店の主ともしたしげに会話していたので、かれ(彼女)の行きつけの店だったのだろう。
わたしたちとはむろん、知り合いでもないので話はしない。
わたしは友人としゃべりながら、あちらの話もなにげに聞いていた。どうやらおすぎさんの連れは雑誌の編集者らしかった。しばらくの時間をそこで過ごして、かれらは河岸をかえることにしたらしく、「じゃあ・・にいくわよ」とおすぎさんは連れに宣言して店をでようとした。
バーかなんかに飲みに行くんだろうな、メディアの人たちは酒飲みだからな、とかわたしは思っていた。
とそのとき、おすぎさんがふいにわたしたちのそばにきて、「ごめんなさいね。うるさかったでしょう。気をわるくしないでね」と詫びられた。肩のあたりに手をふれておっしゃったような気がする。
「いえ、ぜんぜん大丈夫ですよ」とわたしは答えた気がする。

それだけの話だ。
そのときには店には二組しかいなかった。おすぎさんチームと、わたしたちだ。だから気配りもしたのかもしれない。ただ、わたしが逆の立場だったらそういうことはしないだろうな。そこまで他人に気を遣っていきていない。

おすぎさんもピーコさんも老人の介護施設に入っているときく。ピーコさんは万引きで逮捕されたとかいう記事もあった。金がないわけではないだろうから、万引きが犯罪だという判断ができなくなっているのかもしれない。おふたりとも認知症の傾向がでているともいわれているから。
人は老いる。かれらは一つの時代をつくった。それで充分じゃないかな。



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