「グリンディング・ザ・パウダー・ファーザー」

※2/22 14:39 タイトル名修正と全体的な微修正

去年の222に引き続き単純な起承忍殺物の短編を書いてみました。 今回は四部の時系列で書きたくなりました。四部初期がどのようなアトモスフィアか初見でも分かりやすい短編、というコンセプトです。「粉をさらに粉々にする」ニンジャスレイヤーを見届けましょう。

場所はネオサイタマ南部に位置するネツモリ・ストリートの一角。「ハハハ!!イヤーッ!!」「アイエエエ!アイエエエ!アイエエエエエ…」「アイエエエエエ…!」「ア……」周囲の非ニンジャ達が苦しんでいる。じたばたとしていた動きがだんだんと鈍くなり……やがて完全に静止した。1

その光景を今実現させたニンジャは、数日前の出来事を回想する。あれは実に現実離れした体験だった……いや、今まででもそんな事は幾らでもあった。ニンジャとなった時……今みたいにそこらの非ニンジャのクズを悶死させた時……だが、あの時はそんな事が可愛く見える異様な出来事だった。ホワイトパウダーはそう感じた。 2

ホワイトパウダーは白い粉を大量にバラ撒くコンカイ・ジツの使い手である。コンカイと呼ばれるそれは生物の体に入り込むと強い反応を示す毒物で、体内からニューロンに深刻な影響を与え、耐性の無い非ニンジャでは然程時も経たずに苦しみ、死に至る。 3

ニンジャに対しては流石にこれで殺すのは難しいが……別にそこまでする必要は無い。だがある日、彼は天啓を授けられた。黒いフードを被った謎の男に……(BWAHAHAHAHAHA!!!)笑い声が今でも思い出せる。 4

何だこの黒いトリイは……キュンキュンキュンキュンキュンキュン「「「「アバーッ!!」」」」……ああ、なんということだ。殺そうと思った非ニンジャが他の奴に殺される。八つの刃を持つスリケンによって。気付いたら、奴はこちらの目の前に……5

「ヤルヨ。ガンバレ」その胸は深淵……ホワイトパウダーはそこに手を差し入れていた。宝探しの要領で深淵に眠る塊を掴み、引き抜いた。全身を駆け巡るのは、清々しい爽快感。痒い所を掻けたような感覚。「これは……」「BWAHAHAHAHAHA!!!」 6

あの時覚えた爽快感。それはその先の生活にも反映された。先程何やら妙な組織に勧誘されたが……彼はそのような雰囲気は好かない。いつも通り殺しをするだけだ。いつも通りに。変わった事こそあったが。それは……力だ。 7

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「ハァーーー…………」この「ピザタキ」に今は特に客は来ていない。狭い部屋の中タキはブルーレーズン・コーヒーの入ったカップを片手に、眠そうな目をUNIXの画面に向けている。その後ろには赤黒のニンジャが腕を組みながら壁に寄り掛かっていた。9

「んで? なんだっけか? ホワイトソース?」「ホワイトパウダーだ」「ああ、ホワイトパウダーな……少し待てよ」「あまり時間をかけすぎるな」ニンジャスレイヤーは目を細めつつ低く言った。一刻も早くサツガイそのものの情報を得なければならない。10

雨のようなタイプ音。一瞬止まる。また再開する。また止まる。そして……「ハァ?……オイオイ、なんてバカな奴だよ……」タキは頭を抱えた。サンズ・オブ・ケオスの別のニンジャのデータ内に、ホワイトパウダーというニンジャが加入を断った事、及びその後の行き先が記されていた…… 11

「オイ、……アレ?」タキが後ろを向くと、ニンジャスレイヤーの姿は無かった。もう行動に出たというのか。「ったく…………ホント人騒がせな奴だぜ」タキは後ろに大の字で転がった。勢いあまって思わず頭をぶつけかけた。 12

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「待って下さいよニンジャスレイヤー=サン」闇に染まり始める空の下のネツモリ・ストリート。ニンジャスレイヤーの後をアオザイを着た美しいオレンジ色の髪の女が追う。コトブキだ。「奴が去る前に……」二人共足取りが急ぎ気味であった。 14

この辺りは高い壁が非常に入り組んだ地形になっている。それ故に元々が薄暗く、これに夜の闇が合わさりニンジャでもない限り周りが見え辛い。潜伏するには絶好の場所とも取れる。ネオン看板の類も無い。壁にスプレーで「バカ」「ナイス」「俺達のスパイダー・3Q」とペイントされているのが見える。15

あの時タキのUNIX画面には、ホワイトパウダーはここを中心に活動しているという文字列があった。近場だったのは幸いだ。一刻も早く見つけ出し、サツガイに近づく為に情報を聞き出せなければならない。細い道が十字に分かれている。16

「!!」曲がり角を右に曲がると、ニンジャスレイヤーは地面に横たわっている若い女の死体を発見した。見た所、特に外傷は見当たらない。コトブキは息を呑む。「こ、これは……」「ホワイトパウダーの可能性だ」ニンジャスレイヤーの禍々しい殺気が増した。 17

「こういう時は大抵すぐ近くに潜んでいますね」「周囲への警戒を怠るな」二人は身構えつつ歩む。今度は一組の男女の死体が目についた。まるでそれらを見下ろす二人のメタファーのようだった。「許せませんね!」「待て」ニンジャスレイヤーが立ち止まる。 18

「どうしました?」「ホワイトパウダーか……」彼は死体の身体に白い粉が付着しているのを見た。奴の名前通りの。「その粉が原因でしょうね」その時。曲がり角の先から先程のものと同じ白い粉が漂ってきた。コトブキは手で口と鼻を覆った。(息を止めれば大丈夫だと思います) 一方ニンジャスレイヤーは……鼻と口がメンポで保護されていた。19

「さてと、どうなってるかな……」前の曲がり角から白いニンジャ装束のニンジャが姿を現し……「え?」「イヤーッ!!」「グワーッ!?」そのニンジャ、ホワイトパウダーは殴り飛ばされ壁に叩きつけられた!! CRAAAAAASH!!! 壁に円状のヒビが入る!! 20

「お前がホワイトパウダー=サンだな」殺気に満ちた声。赤黒のニンジャは続けてこう言った。「サツガイという男を知っているか」「サツガイだと?」その名前はあの時突然現れた黒フードの男か。こいつもあの男に会った事があるのか? 21

ニンジャスレイヤーの目が細まる。「知っているな」彼は決断的に駆け出した!ホワイトパウダーは体勢を立て直し、身構える。「コンカイ・ジツ!イヤーッ!!」そして右手を振り白い粉をバラ撒いた!! だが結局鋼鉄のメンポによって防がれる!!相性が不利過ぎる!!「イヤーッ!!」22

「グワーッ!?」ホワイトパウダーは胴を両手で万力めいて掴まれる。「イイイヤーーッ!!」そしてニンジャスレイヤーは……掴んだまま後方へ跳ね、空中で身を逆さにした。そして、相手を頭から勢いよく地面に叩きつけた!!!後方へ吹っ飛ばす!「グワーッ!!!」 23

「ザマミロ!!」後ろからコトブキが戦闘態勢のままこちらに駆け寄る。相手の出方を伺っている。これでもう終わりとは正直考えにくい。「クッ……なめるな女め!」ホワイトパウダーはふらつきながらも立ち上がる。「イヤーッ!」そして間髪入れずコトブキに白い粉を発射した!!24

「ンッ……!」コトブキは身を強張らせる。粉が多い。今の状態では下手に体を激しく動かすと粉を思わず吸ってしまいかねない。普通の人間とは違うウキヨに影響を及ぼす事は無いと言い切る事もできない。「コトブキ!」「私は大丈夫です……!」25

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを四発投合!「仕方ない、イヤーッ!」ニンジャ平衡感覚を取り戻したホワイトパウダーはジャンプしてこれを回避!空中にいる彼は両手を白く光らせた!「これを使わせてもらうぞ!」26

何をするつもりだ。二人の距離はタタミ10枚分。(((グググ……マスラダよ……あれは平凡なエンハンスメント・ジツのようだ。然程強力なものではないが、奴の拳には注意を払え!)))(分かっている)内なるナラク・ニンジャの声……ニンジャスレイヤー……マスラダ・カイは両膝と両腕を曲げ、両手の指先を斜め上に向け身構える。27

ホワイトパウダーがサツガイから与えられたエンハンスメント・ジツは拳の威力を底上げする……これにより殺しの手段が追加された形となる。コンカイの通用しない相手はこれで殴り倒せばいいのだ。既にこのジツによって四人のサンシタニンジャを葬っている。その時は実に快感だった!28

「イヤーッ!!」空中から高速移動でこちらに迫るホワイトパウダー!! 両腕を振り上げ、叩きつけんとする!!スピードとパワーを兼ね備えた一撃!!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはこれを右方向へ側転回避! CRAAAAASH!!!アスファルトが粉砕され破片が巻き上がる!!29

「イーヤヤヤヤヤヤッ!!!」続けて即座に左側へ大きく踏み込みパンチの嵐!!ハヤイ!!「ヌウーッ!!」ニンジャスレイヤーは避けきれないと判断し、防御に専念した。思ったより威力が高い。腕にダメージが蓄積される速度は時間に比例してペースを上げていく。(((侮ったかマスラダ!!)))叱責の声。「黙れナラク……!」その時!30

「ハイヤーーーッ!!」コトブキが遠心力を味方に付けた回し蹴りをホワイトパウダーの脇腹に浴びせた!!「ヌウーッ!?」「私だって居るんですよ!!ゲホッ」咳き込む動作。普通の人間程の体への被害は無いが、それでも多少の害はある。彼女は決死の覚悟で動いた。31

ホワイトパウダーの動きが微かに鈍ったのをニンジャスレイヤーは見逃さなかった。パワーとスピードが共に低下した、今!! 「イヤーッ!!」「グワーッ!!」ショットガンめいた鋭いポン・パンチが、パンチの嵐の合間を縫い顔面にクリーンヒット!!32

(((あの人形に救われるとは! ブザマめ!)))(黙れと言っている)形勢逆転だ。マスラダはコトブキに心の中で礼を言いつつ次の行動に出た!「イヤーッ!」「グワーッ!」もう一度顔面にパンチ!!「イヤーッ!!」「グワーッ!!」腹部にヤリめいたサイドキック!!「イヤーッ!!」「グワーッ!!」ギロチンめいた踵落とし!! 33

「お、おのれ……イヤーッ!」ホワイトパウダーは負けじと右手を光らせ、空気を唸らせるフックを浴びせんとする!ニンジャスレイヤーの殺意がマグマの如く煮え滾る!!こちらも右手に赤黒い不浄の炎を灯した!!「イヤーッ!!」より強く、より早く、より正確な一撃が顔面を捉えた!!「アババーーーッ!!」34

手応え有り。顔の骨を砕いてやった。不自然に歪んだ。ニンジャスレイヤーは左手で胸倉を掴んだ。「アババッ……アバッ!!」「サツガイという男を……知っているな! アユミを殺したあの男を!!」「アババッ……サツ……ガイ……」ホワイトパウダーは震える声を発した。35

「お前にジツを与えただろう。知っているだろう!!」ニンジャスレイヤーの……マスラダの目が赤黒く光る。「アバッ……ああ……そうだ……サツガイはお、俺に……」「奴の居場所は分かるか。教えろ」「し、知らないぞ……」「そうか」目が泳いでいない。嘘は言っていないようだ。36

「ならば、同じくサツガイと接触したニンジャの名を言え!!」胸倉を掴む手が再び燃える!!「アバババーーーッ!!」苦しむホワイトパウダー!「知っているか!一人くらい知っているだろう!」「アババ……アババババーッ!!知っている!!話すっ!!」「言え!!!」37

「そいつの名前は…………ブラックペーパー……アバッ」「ブラックペーパーか」その名前には見覚えがあった。タキが発見したIRC内で、ホワイトパウダーの名前と居場所を悪意なく晒していたニンジャの名だ……自身の詳しい情報もそこにあるだろう。「用済みだ!イヤーッ!!」「グワーッ!!」ホワイトパウダーの全身が燃える!! 38

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「アバババババーーッ!!!」更にニンジャスレイヤーは右手で相手の顔面を何度も破壊行動!!顔の骨が完全に粉々になり……「サヨナラ!!」ホワイトパウダーは爆発四散!!39

静寂の中、コトブキが近寄った。「終わりましたね。ケホッ」「コトブキ!平気か」「さっきより落ち着いてきたので大丈夫でしょう」「そうか。次の獲物はブラックペーパーだ」「ハイ。あ、散らばった白い粉は掃除しましょうよ!」いつの間にか彼女は何処からか箒2つとチリトリを用意していた。40

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「タキ=サン、ブラックペーパーの情報を教え…………」やがて二人は「ピザタキ」へ帰還した。マスラダはタキにブラックペーパーについて教えて貰おうとしたのだが……「あれ?タキ=サン?」UNIXの前で、肝心の彼は突っ伏していた。その横には白い粉が。 42

「ソンナ!?」コトブキは驚愕した。タキが知らない間に白い粉の餌食になっていたとでもいうのか…!?マスラダはその粉を見た。「……ただの砂糖だ」そう言った直後、タキの煩いイビキが部屋中に響き渡りコトブキの安堵の溜め息を掻き消した。43

【グリンディング・ザ・パウダー・ファーザー】終わり

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