谷口恒平

映画監督です。 『おっさんのケーフェイ』(DVD &各種配信) 『悶絶劇場 …

谷口恒平

映画監督です。 『おっさんのケーフェイ』(DVD &各種配信) 『悶絶劇場 あえぎの群れ』(ピンク映画ベストテン2019 第1位&監督賞) 『パパがうちにいる。』NHKオンデマンドにて配信中 最新作『初情事まであと1時間』MBSドラマ特区にて7月22日スタート

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  • 『コントが始まる』感想文

    テレビドラマ『コントが始まる』の感想を書いています。ネタバレを含みます。

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東京ポッド許可局リスナーがマキタスポーツの番組を作ることになった話

今日もSNSでは誰かが何か大きな成果を出したり、ずっと憧れてた人物と仕事したりして「タイムマシンに乗って中学生の自分に伝えたい!」みたいなことを興奮気味に書き込んでいる。自分もたまに気分が乗ってタイムマシン構文を使いたくなる夜もあるが、もう一人の自分が「その感慨知らねーよ」と突っ込んでくるので、自意識が邪魔をしてなかなか使えない。でも、今回ばかりは思わずツイートしてしまいました、どころかnote公開してしまいました。 この記事を書いているのは2020年8月3日(月)午前2時

    • 『コントが始まる』第9話 「ジカンヨトマレ」

      『コントが始まる』第9話。いよいよマクベスのラストライブが近づいてきた。毎週追いかけてきた3人とのお別れの時間が、すぐそこにまで来たかと思うと寂しい…いや、そうでもないのは、このドラマが1話からずっと“終わり”について物語っていたからかもしれない。マクベスの終わりを、彼らの次の人生の始まりを、早く見届けたいという気持ちが大きい。 「ジカンヨ トマレ」 恩田店長(明日海りお)の元恋人・カルロスが空を見て言った言葉は登場人物たちの思いに重なる。冒険王になる夢を語った瞬太(神木

      • 『コントが始まる』第8話 「もうひとつのシーン121」

        「泣きながらご飯を食べたことがある人は生きていけます」 坂元裕二『カルテット』第3話 という、他のドラマの名台詞をついつい引用したくなるほど、ラストシーンの中浜さん(有村架純)の涙が全てを持っていった第8話。冒頭のコントは「ファミレス」。ファミリーレストランではなく「ファミリーレスキュー」の略である。客の無意識の要望にまで応えてしまう店員役の瞬太(神木隆之介)に、自分が嫌いなバナナをパフェから勝手に抜かれた春斗(菅田将暉)が言う。 「そういうのは自分でやりたいから」 先

        • 『コントが始まる』第7話 選ぶものと選ばれるもの

          第7話、冒頭のコントは「無人島」。コントの中でマクベスは「無人島に何を持っていくか」を選んでいた。それが重要なものだとは気づかずに。第7話は「選択」をめぐる物語だ。瞬太(神木隆之介)が選んだ国語辞典で「選択」を引いてみよう。 せん‐たく【選択】 多くのものの中から、よいもの、目的にかなうものなどを選ぶこと 登場人物たちは多くのものの中から選ばれる存在だ。ネタ見せ、就職、跡継。いつだって「選ぶのは先方」で、年齢や経歴、時には「本気かどうか」なんて抽象的な基準で、選ばれたり選

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        • 『コントが始まる』感想文
          9本

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          『コントが始まる』第6話 「奈津美の指輪がイヤリングになった意味」

          『コントが始まる』第6話。(おそらく)全10話の折り返し地点を過ぎたこの回で、ドラマはループからの脱却を宣言し、前半の物語が前振りだったことを示唆する。チェーンソーの刃のように、ぐるぐると同じ地点を回り続けていたマクベス。コント「金の斧 銀の斧」で池に落ちたチェーンソーは、金の斧と、合鍵に変わる。円環を断ち切る斧。新しい扉を開ける鍵。 マクベスが誕生した“聖地”である中華料理店・ポンペイに、解散を決めた3人と中浜姉妹が訪れる。彼らの背景に「福」の文字。中華料理店に貼られる「

          『コントが始まる』第6話 「奈津美の指輪がイヤリングになった意味」

          『コントが始まる』第5話 「笑わせる気あんのか」

          「『コントが始まる』の感想を次週オンエアまでに毎週書く」誰から頼まれたわけでもなく、勝手に自分が自分へ課した義務だが、心が折れそうになっている。正直、このドラマ、いろいろキツいかもしれない。多少強引にでも、一話完結型で登場人物の葛藤に決着をつけてきたこのドラマであるが、第5話では、答えが出なかった。正確に言うと、もしかしたら出ているのかもしれないが、認めたくなかった。以下、褒めてるのか貶してるのか、自分でも未整理なままの感想です。 このドラマは「コント」をタイトルに入れなが

          『コントが始まる』第5話 「笑わせる気あんのか」

          『コントが始まる』第4話 「画数が少ないテレビドラマへの期待値」

          「全然関係ない話していい?」 というのは、実は関係を見出してほしい話題を出すときの照れ隠しとして使用されるフレーズだが、全然関係ない話から始めたい。 第4話を観る前に、ニューヨーク主催の配信ライブ「さようなら花鳥風月ライブ」を観た。「花鳥風月」とは、神保町よしもと漫才劇場にかつて存在した、芸人のランク分けシステム。観客投票によって花をトップとしたヒエラルキーが出来上がり、芸人たちのパワーバランスが狂ったという「事件」がライブの発端となっている。東京若手芸人のカリスマ兄さん

          『コントが始まる』第4話 「画数が少ないテレビドラマへの期待値」

          『コントが始まる』第3話 「水が流れて川になる」

          (戸を叩く音)ああ、その音でダンカンをたたき起してくれ!頼む、そうしてくれ、出来るものなら! シェイクスピア『マクベス』より 「コンコン、ガチャ」と、ノックの音からコントが始まる。 コントのタイトル「奇跡の水」は、抗いようのない「血」を連想させる。瞬太(神木隆之介)のバイト先の大将は「双子で還暦、どっちも独身」。つぐみ(古川琴音)がパスタにバジルを振る時、同じ動きで熱帯魚に餌をやる姉・里穂子(有村架純)。春斗(菅田将暉)が実家のテーブルに置かれた白菜をつまむと、父も同じ

          『コントが始まる』第3話 「水が流れて川になる」

          『コントが始まる』第2話 「言葉と本心、サンダルとスニーカー」

          『コントが始まる』第2話。人気・実力揃った俳優陣の演技、嫌味の無いストレートな演出が響いて、思わず台本の存在を忘れてしまいそうになる。いつの間にか、居酒屋で机を囲む5人に混じって酒を酌み交わしたような気分になっていた。そして、エンターテインメント全般が苦境に立たされている今「興行が誰かの生きる力になる」という当たり前のことを思い出させてくれる物語に拍手をおくりたい。涙をふいて、ネタバレありの感想を書きます。 第1話では、4つ揃った「ぷよぷよ」のイメージが積み重なり、解散が決

          『コントが始まる』第2話 「言葉と本心、サンダルとスニーカー」

          『コントが始まる』第1話 ぷよぷよが消えて、連鎖が始まる

          『コントが始まる』第1話。菅田将暉と有村架純の最強コンビを使って大ヒット映画にあやかろうとしやがって、とか、お笑いを題材にして盛大にスベるところを見てやろう、とか、見る前は正直ナメきった態度だったのだが、あいみょんのエンディング曲が流れる頃にはボロボロ泣きながら、ハードディスクの録画予約を「毎週」に変更していました。前情報だけで穿った見方をしていた自分を反省します。以下、ネタバレありの感想と妄想。 ドラマは、菅田将暉演じる高岩春斗が所属するお笑いトリオ・マクベスのコントから

          『コントが始まる』第1話 ぷよぷよが消えて、連鎖が始まる

          『橘アヤコは見られたい』のカオスをOP+フェスで早く見たい

          佐藤周は、学生時代からの友人でありライバルで、いつも彼が作る映画を複雑な気持ちで眺めていた。期待、不安、嫉妬、羨望…純粋に作品を観れてはいないだろう。作品評価には必ず僕の「主観」が入る。友人に傑作をものにしてもらいたい、という願いと、自分より面白いものを作ってほしくないという本音が入り混じった気持ちで、スクリーンやテレビを見つめてきた。 彼の新作『橘アヤコは見られたい』は、企画がOP PICTURES新人発掘プロジェクトの優秀賞を獲って製作された“ピンク映画”である。R-1

          『橘アヤコは見られたい』のカオスをOP+フェスで早く見たい

          『根矢涼香、映画監督になる。』を観たせいで眠れなくなってる。

          公式サイト 芹明香はカメラに向かって「なんや逆らいたいんや」と宣言したが、サード助監督・根矢涼香は「だって…」と逆らおうした瞬間、チーフ助監督に台本で頭を叩かれる。 「お前はハイとスイマセンだけ言ってりゃいいの!」 32歳、確定申告の際は職業欄に「映像ディレクター」と書くようになった。24歳の時に初めてついた現場で、先輩スタッフから言われた言葉が蘇る。 「サードに人権無いからね」 苦笑いで返すしかなかったあの言葉は、ブラックジョークではなくて、彼なりの「逃げろ」とい

          『根矢涼香、映画監督になる。』を観たせいで眠れなくなってる。

          『れいこいるか』は、おもくてかるい

          観た映画について書きます。『れいこいるか』を観る予定の人は、観てから読んでください。現時点で観るつもりがない人、この映画を初めて知った人は、読んでもらえると嬉しいです。 最近、歯にやたらとものがつまるようになった。歯茎の衰えにより、歯が細くなっているのだろう。まだ32歳で何を言うか、と言われるかもしれないが、確実に老いが迫っている。10年前は居酒屋でおじさんたちが爪楊枝を咥える意味が分からなかったが、肉を食べた後に楊枝がマストな口になってきた。 歯が細くなることは不可逆だ

          『れいこいるか』は、おもくてかるい

          映画『横須賀綺譚』を観てほしい

          少し前に観た映画について、内容には触れずに書きます。 2020年7月23日、新宿のK's cinemaで映画『横須賀綺譚』を観た。その日、東京都の新型コロナウイルス感染者数が300人台に乗った。新宿駅東南口から劇場までの道は閑散としており、まるでパラレルワールドに紛れ込んだようだった。劇場に入ると数人の観客がロビーで開場を待っている。世の中がどうなろうと映画館に映画を観に来る人はいる、と少し安心する。映画は、そんな終末っぽい街で観るのにふさわしい物語だった。 とにかくスク

          映画『横須賀綺譚』を観てほしい

          東京ポッド許可局リスナーがマキタスポーツの番組を作ることになった話 〜その2〜

          ※この記事のつづきです。 NHKで新作ドキュメンタリー『パパがうちにいる。』が放送された。見てくれたみなさん、ありがとうございます。個人的には今までに無い反響があり、古い友人や親戚からも連絡が来て嬉しかったです。再放送や配信の情報はこちらをチェックしてください。NHKオンデマンドでも視聴可能です。 あっと驚く展開、衝撃のラストがあるような番組ではないですが、ネタバレに敏感な方は是非、見てから読んでください。また、すべての表現は、作り手の意図だけが唯一の正解ではないと思って

          東京ポッド許可局リスナーがマキタスポーツの番組を作ることになった話 〜その2〜

          Twitterに「『全裸監督』サイコー!」と書いて、やっぱり消した。(※ネタバレあり)

          『全裸監督』を観た。仕事をほったらかして一気に観てしまった。1988年生まれの自分にとっては、画面の中で描かれる出来事はもはやファンタジーだったが、村西とおるは確かに実在したのだ。「AVで世界を変える」と信じられた時代があったのだ。自分の中で何かが燃え上がるような感覚になった。それと同時に、燃えかすのようなものが残った。Twitterに「『全裸監督』サイコー!」と書いて、やっぱり消した。この燃えかすは、ちゃんと言語化しておいた方が良いと思ったからだ。 Netflixが流して

          Twitterに「『全裸監督』サイコー!」と書いて、やっぱり消した。(※ネタバレあり)