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ある日の出来事

ある晴れた朝、出来て間もない建物の一室に、ぼくは緊張しながら横並びで座っていた。

思い返してみれば、高校時代は部活に明け暮れて、スポーツ推薦で大学へ進学という道もなくはなかったのだが、その先にある未来を想像することができなくて、大学への進学はあきらめた。

まともに勉強もしたこともないまま18歳を迎え、正直これからなにがしたいのかも解らず、ただ将来への不安だけが、そこにはあった。
担任の先生からは旅行代理店の営業の仕事を紹介されたが、とにかくまだ働きたくないという思いだけがあり、これからぼくの進むべき道を探さなければならない状況だった。

あと数年で良いから、これからについて考える時間が欲しい。

授業中に読んでいたマンガ、ツルモク独身寮の影響を受け、インテリアデザナーという職業を知ったぼくは、意味もなく毎週のように部屋の模様替えを行い、ぼんやりと空間に関わる仕事に少し興味を持ち始めた頃だった。
それくらいの気持ちしかないまま、安易な思いで僕は専門学校を探し、まだ新しそうな建物という事に興味を持ち、その学校を受験することにしたのだった。

デッサンと面接があったことを記憶しているが、比較的器用だったので、デッサンはなんとなく書き上げた後、面接に挑んだ。
人前に出ると緊張して赤面してしまう僕の緊張はMAXを迎えていた。
集団面接で、順番に志望動機が聞かれていったが、僕は5人中の5番目だった。
次々に質問に答えていく学生を横目に見ながら、同じ事は言えないし、どうしようかと僕は焦っていた。

そして僕の前、4番目の隣の彼に志望動機の質問が回ってきた。
かれは自信満々に応えた。
「卒業生の方に学校のことを聞いて、この学校に興味を持ちました」 と。

間とはこういうときに生まれるものなのだろうか。
静かな時間が流れた。



面接官は
「この学校にはまだ卒業生はいませよ」

そう、この学校はまだできて2年。

こうやって僕の建築への第一歩が始まったのだった。


公には出来ないけれど、ここだけで書くことが出来る情報も含めて、皆さんに共有出来ればと考えています。 建築業界の凝り固まった環境を見直しながら、新しい働き方や、経営方法、ブランディングについて綴っていきます。