谷影栄一

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谷影栄一

株式会社ミリアッシュ企画『灰のもと、色を探して。』を毎週金曜日更新しております! ■ミリアッシュHP https://www.myriashue.co.jp/ ぜひご感想やシェアよろしくお願いします!!

最近の記事

『灰のもと、色を探して。』第19話:四人

 むいているとは、思ったことがない。  まだ払暁から少し経ったほどで、外は快晴である。ところどころに穴の空いた天井から、強めの明かりが差しこんでいた。  街からやや距離のある、まだ踏破されていない遺跡にミリアはいた。  見通しがよく、入り口から近いところを拠点とし、ミリアはそこに即席の椅子と机を作っていた。作るといっても、都合のよさそうな石や木切れを探しては、寄せたり乗せたりする程度だ。机はもうできていて、椅子をあとひとつ作るだけだった。  周囲を見渡して、瓦解したと

    • 『灰のもと、色を探して。』第18話:再創世

       もがいている。  気づくのが遅れるほど、ヒューから返ってくる力は弱かった。  慌てて、アッシュは顔を離した。唇の余韻に、心が波立つ。  息を忘れていたらしい。途端に、荒々しい呼吸の音が、躰の内側から聞こえる。  ヒューの顔を、ようやく見る。その表情から、憑き物が落ちている、とアッシュは思った。それは精神に巣食っていた魔だけではなく、躰にまとわりついていたものも、剥がれるように取れていた。 「ヒュー? わかる?」  眼を見つめる。光が宿り、潤っていた。同時に、わず

      • 『灰のもと、色を探して。』第17話:奥の手

         暗がりが、濃くなってきていた。  短いとも思えば、長時間を打ち合っている気もしてくる。  多くいた魔物は、一掃できていた。あとはゾヴを残すのみだが、当然に圧倒的な強さだった。  斃され、消えた魔物たちの跡には、大剣、斧槍、棍棒など、さまざまな武器が転がっている。それらを拾っては、ゾヴへの攻撃で壊していた。  いかに、ミリアの持つ斧が強靭に作られているかがわかる。それでも、刃こぼれを見せはじめていた。  自らの傷のことは、わからない。気にしていないのではなく、躰の内

        • 『灰のもと、色を探して。』第16話:アッシュとヒュー

           螺旋状に、下っていた。  階段の段差は低く、幅は広い。そして、円周がとてつもなく長い。  扉を壊し、アッシュはヒューをすり抜けて中に入っていた。逃げようと思ったわけではない。戦うなら、囲まれるおそれのある広場より、狭い場所のほうが有利だと思ったからだ。  等間隔に松明が設置され、地下にもかかわらず明るい。しかし、まるで同じところを巡っているのだと考えてしまうほど、階段の幅や造形はすべて一様だった。現在地が地下の何階なのかも、わからなくなっている。  走ることは、苦手

        『灰のもと、色を探して。』第19話:四人

          『灰のもと、色を探して。』第15話:覚醒

           いくらか、躰に熱が沁みている。  アッシュの魔法により、攻撃を受けても、損傷には至っていなかった。ただ、少しずつその熱が失われていく感覚がある。時間の経過か、損傷の累積か。いずれにせよ、敵からの攻撃を防いでくれることが、とてもありがたかった。  掴もうとしてくる手を弾き、足を払う。その鳩尾に、斧の柄で打ちこんだ。声をあげることもなく、魔物は動かなくなる。  時間はかかる。これは、そういう戦いなのだ。アッシュが再創世を終えるまで、ゾヴを引きつける。ゾヴを斃せなくとも、時

          『灰のもと、色を探して。』第15話:覚醒

          『灰のもと、色を探して。』第14話:決戦

           雪と灰は似ている。  徐々に、冬は終わろうとしていた。それでも、雪が降ると手がひどくかじかんだのを、ミリアは思い出す。  ミリアは手を開き、降りゆく灰の感触を確かめる。雪ではない。ただ、寒空から届いているからか、冷ややかさを指先に感じた。  ひと月ぶりの灰の国は、一段と寒くて暗い。しかし、その大気に抵抗するかのように、手は熱を保ち、躰の芯も固まってはいなかった。心がそうさせているのだろう。  門前まで来ていた。ここから、三人とも満身創痍で、逃げるように出てきた。今か

          『灰のもと、色を探して。』第14話:決戦

          『灰のもと、色を探して。』第13話:決断

           月は、やや翳っている。  窓から入りこむわずかな光を見て、アッシュは思った。  灰の国から帰着後、まずはスミスに報告を入れることになっている。日暮れに伴って戻るため、常にそれは夜に行われていた。  道行く間に見つけた動植物の観察記録や、魔物との戦闘結果、そして、新たに身につけた魔法の詳細。  しかし、ここまで暗鬱な夜は、はじめてだった。 「認められん」  スミスは、先ほどから発言を変えない。 「行かせて」  姉も、同じ言葉を紡ぎ続けている。  灰の国から戻

          『灰のもと、色を探して。』第13話:決断

          『灰のもと、色を探して。』第12話:ギマライ

           祈ることが、生きることだった。  日々、神を模したと言われる像を父は愛おしそうに見つめ、生命の感謝を述べる。母もできる限り父に寄り添い、結果、ギマライも祈りに同席することが多かった。  祈るとはいえ、父から出る言葉は願望や希望ではなく、謝恩と決意だったように思える。  今日も素晴らしい一日をありがとうございます。日々の繋がりを意識し、欲に溺れず、人を愛し愛されるように生きます。そんなような内容だ。  教会は、人々が祈るために建てられたものだった。そこの牧師の息子とし

          『灰のもと、色を探して。』第12話:ギマライ

          『灰のもと、色を探して。』第11話:焚火

           灰は、いつにも増して、強めに降っている。  ヒューが言うには、この地方は特に積もるのだそうだ。最初はうっとうしいと感じた灰も、今では慣れて、気にならなくなっている。姉は、髪に絡むのがどうしても許せないらしい。  どちらにせよ、今日で終わりなのだとアッシュは思った。灰の空は、今日で最後。明日からは、自分たちの世界と同じく、太陽と月の巡りが空に浮かぶ。  昨日、造物主の石庭には到着していた。日暮れが近い、とヒューから指摘され、時間に余裕のある翌日に改めるべきだ、と指摘され

          『灰のもと、色を探して。』第11話:焚火

          『灰のもと、色を探して。』第10話:焚火

           明と熱。  火を熾す理由は、大別するとそんなところだ。暗がりをなくすためか、暖を取るためか。徐々に勢いの強まる火を見ながら、ヒューは思った。今回は、熱のためである。 「いつ見ても、うまいなあ」  のんびりと、アッシュが言った。火口を作り、発火させる一連の流れを、先ほどから近くで見られていた。 「好きなんですよね、この一連の作業が」 「ヒューがそうやって着々と焚き火を進めてくの、俺も好きだよ」  アッシュは、労せずして火を呼び出すことができる。それでも、火を作る時

          『灰のもと、色を探して。』第10話:焚火

          『灰のもと、色を探して。』第9話:少女二人

           やわらかさとあたたかさを、背中から感じる。  来た時に比べれば、いくぶん空は暗がりを見せていた。 「寝ていいからね、ヒュー?」 「はい。ありがとうございます。重くないですか?」 「まったく。やわらかくて気持ちいいくらいよ」  彼女の眼は、閉じているようだった。いかにも眠そうな声が、耳裏から届く。もとの世界の自分だったら、いかに女の子で軽いとはいえ、背負った状態で悠長に歩くことなどできなかった。灰の国ならそれも容易なのだと、身をもってわかる。  斧は置いてきていた

          『灰のもと、色を探して。』第9話:少女二人

          『灰のもと、色を探して。』第8話:三人の旅路

           空は変わらず、灰色だった。  天気などないのだ、と言うかのように、降灰の強さにも変化はない。時間としては朝だとしても、やはり暗いとミリアは思った。  昨日と同じ場所にいた。ヒューと、話をしていたところだ。  視線を戻して周囲にむける。弟が、勢いよく顔を四方八方に振っていた。 「姉ちゃん、ヒューがいない」  緊迫した声だった。確かに、見渡す限り灰と廃墟しかない。 「どうしよう、昨日の獣に追われていたら」 「ヒューはあなたの呼びかけに、待ってると応じたわ。どこか遠

          『灰のもと、色を探して。』第8話:三人の旅路

          『灰のもと、色を探して。』第7話:帰還

           眼を開くと、灰色の空が見えた。輪郭の定まらない頭で、ミリアはまず少女のことを考えた。無事なのだろうか。 「アッシュさん、ミリアさんが起きました」  こちらを、覗いてくる顔がある。少女だった。肩まで届きそうな金色の髪に、透き通った、大きな青い瞳。年齢は弟と同じくらいだろうか。ミリアたちの住む街には、ちょっといない種類の美貌だ。  少し暗くなっていた。結構な時間、眠ってしまっていたのかもしれない。 「あなた、無事だったのね。よかった」 「ミリアさんのお蔭です。ありがと

          『灰のもと、色を探して。』第7話:帰還

          『灰のもと、色を探して。』第6話:遭遇

           少し、ゆっくりしすぎた。  灰をすくい、皿にかけて火を消す。消えたあたたかさに、すぐさま恋しさを覚えてしまう。  空を見あげる。雲の色合いからして、今は昼をいくらか過ぎたところだろうと思った。夜まではまだ猶予があるが、そこまで悠長にしてもいられない。  顔が冷えていき、ヒューは次第に現状の悪さを認識していく。本日の寝床が、まだ確保できていなかった。早く旅を再開できるよう、慌てて用具を袋へ詰めこむ。  早歩きで、建物群へむかう。外から見る限りでは脆そうな建物しかないが

          『灰のもと、色を探して。』第6話:遭遇

          『灰のもと、色を探して。』第5話:起動

           騒々しさで、ミリアは眼を覚ました。横を見ると、弟はもういなかった。どうやら、かなり眠っていたらしい。  慌てて着替え、階段をおりる。予想するまでもなく、騒ぎの中心は工房からだった。弟の声が混じっているのに、ミリアはさらなる不安を覚える。  辿りつくと、弟がスミスに取り押さえられていた。その先に会員がひとりいて、あとはその周りを囲むようにしている。 「アッシュ」  堪らず叫ぶと、会員たちがミリアの存在に気づいたのか、スミスまでの道を空けた。元へ駆け寄っても、弟はこちら

          『灰のもと、色を探して。』第5話:起動

          『灰のもと、色を探して。』第4話:弟

           撫でてもらうには、いいことをしなければならない。  何度かお願いはしてみても、母はただ撫でることはしなかった。手伝いを頑張ったり、言いつけをしっかり守ったりすると、母はひんやりとした手をアッシュの頭に乗せ、くすぐったくなるような優しさで、ゆっくりと動かした。  少し恥ずかしくて、とても嬉しかった。言葉で褒めてもらうより、撫でられることが大好きだった。足らない、と文句を垂れても、母は時間を延ばそうとはしない。おしまい、の一言のもと、洗濯や掃除に戻ってしまう。姉が撫でられて

          『灰のもと、色を探して。』第4話:弟