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初めてのアウェイ遠征がクラブワールドカップになってしまった件②サウジアラビア体験編

浦和レッズと共にサウジアラビアに渡り、8泊11日というとてもとても長い旅をした。その旅先であったサウジアラビアだが2019年に観光ビザが解禁されたばかりということもありまだまだよくわからないという人も多いのではないだろうか。そう思い、自分が体験したサウジアラビアという国についても書き残しておきたい。まず最初に言うと、とても良い国だったし治安はものすごくよくて快適に過ごすことができた。なお、サウジアラビアと言っても僕がいたのは大会の会場だったジェッダだけであることは最初に述べておきたい。なので観光地の話はほとんどない。普通に生活して観察したところを書いたものになっている。

車社会

サウジアラビアは車社会だ。市街地がだだっ広くとにかくどこに行くのにも車が必要。3車線以上ある道路がそこかしこにある、というのが特徴。結果観光客はタクシーなりUberなどの配車アプリなどを多用することになる。結果自分も20回以上Uberを利用した。
そして道路に信号がほとんど存在しないため、かなりスピードを出すドライバーがほとんどで一般道でも時速100km越えはざら。また、車線変更にウィンカーを出さないドライバーも多く、交通事故も結構多いようだ(自分は幸い遭遇しなかったが、事故現場を通り過ぎたことはある)。クラクションが鳴る頻度も多い。日本ではもっぱら注意の意味で使われるように感じるが、声を挙げているようにも感じられた。そして信号が少ない代わりにそこかしこにUターンポイントがあり、各所の通路案内もそれをベースにしている。

左折という概念が無いのでかなりの回り道になる

市内にメトロが走っているリャドも状況は割と似ているらしい。また、信号がないので横断歩道もない。そこで人々は道路の横断歩道がないところを普通に横切ろうとする。日本だと結構な割合で事故るやつだが、サウジアラビアではみんな慣れたものだ。自分も滞在後半時期は普通に道路の何もないところを横切っていた。

時折混雑しているところで警察が手信号をやる

人々の気質など

サウジアラビアでは2019年に観光ビザが発行されたばかりとまだまだ観光国家としての歴史は浅い。しかしながら、それゆえに人々はサウジアラビアに来てくれる人に対して大いに感謝し・優しく接しているように感じられた。ホテルの従業員に話が通じなくて嫌な顔されたり(これは自分の語学力の問題でもある)、スタジアムのタクシー降車場までの行列でめんどくさくなったUber運転手に「ここから歩いて行きなよ!」と降ろされたりするなどはあったが、そういった事象は例外と言っていいくらいみんな優しかった。ホテルの従業員も仕事がうまかったかはともかくとしてみんな笑顔で迎えてくれたし長くいたのでコンシェルジュは日本語覚えて挨拶してくれるようになったり、基本的に人との関わりでは良い体験が多かった。

そういった雰囲気の国ということもあり、基本的に身の危険を感じることはほぼ無かった。あえて言えば夜の旧市街を歩いている時は暗くて不安なところはあったが、人の多いところでひったくりに遭いそうとかそういう懸念はほぼなかった。戒律を厳しく守る国ということもあり、軽犯罪でも厳罰になるので犯罪をしようという意識にはならないのだろう。

旧市街は街頭の少ないエリアが多い
ナイトモードだと少し伝わりにくい
FIFAストアは旧市街の中心部にあった

因みに、ジェッダは港町かつメッカの玄関口的な位置付けということもあり多くの人々が往来する街だ。それゆえにオープンな気風であるというのもあるかもしれない。2017年からずっとサウジアラビア遠征を続けてるサポーターの方と話をする機会があったが、年々良くなっているのとのことで、観光に力を入れているというのは本気なんだろうと感じられるところ。

もうひとつ気になっていたのは女性の立場や生活。サウジアラビアは厳格なイスラム教の国なので女性はヒジャブやアバーヤといった顔や全身のボディラインが隠れる服装を着ることが一般的になっているという理解だった。女性が肌を見せる服装で出歩くとこがNGとも聞いていた。実際どうだったのかというと、観光ビザ解禁前の2018年に服装の自由化が発令されて上に挙げたようなことは必須の話ではなくなっていた。ヒジャブ(顔を隠すヴェール・マスクのような布)についても厳密に着ている人、顔は出してて割とサラッとかぶるような着こなしの人、そもそも被ってない人など様々だった。ロープのような服だったりアバヤだったりを着てる成人女性は多かったが子供はほぼ洋服だった。Uberの運転手はほぼ男性だったけど一度だけ女性ドライバーに乗せてもらった。小売りの現場など女性が働いている現場はそこそこ見られるものの伝統的なスークでは女性向けの衣類を普通に男性が売っていたりする。まだまだこれからなんだろうけど、思ってたよりも変わってきているんだなという実感はある。

人々のサッカー受容

サウジアラビアはサウジビジョン2030というものを掲げ、2030年に向けて社会を大きく進化させようとしている。その一つにスポーツ振興があり、サウジリーグへの資金投入によるヨーロッパトップリーグからの選手の引き抜きがあったのは記憶に新しいところ。このクラブW杯ももちろんその一環であり、その先のメルクマールとして2034年のFIFAワールドカップ開催地に立候補している(ほぼ決まりだろう)。ではそんなこの国でのサッカー人気はどうなのかというと、なかなかのものではあった。Uberで乗った運転手と話をする機会もずいぶんあったがかなりの割合でサッカー好きであり、多くが市内のアル・イテハド(今大会の開催国枠。フランス代表のベンゼマやカンテが所属)やアル・アハリ・ジェッダのファンだった(たまにヒラルサポもいた笑)。準決勝の会場に行く時のUberの車には各国のサッカーが見られるテレビが搭載されていた(ずっとチャンネルいじったり見たりしてるから事故るなよと心配してた)。また、ショッピングモールではサッカー選手ステッカーが売ってて名だたる名選手のものと並んでアル・イテハドやアル・ナスル(クリスティアーノ・ロナウドが所属)のステッカーが並んでいた。

よく考えるとムバッペシールは買わなくてよかったのでは

とはいうものの、実際の会場の盛り上がりについてはまだまだイマイチと感じるところもあり。準決勝はフルミネンセvsアルアハリが34,986人、浦和レッズvsマンチェスター・シティが40,127人、決勝も52,601人で62,000人入るスタジアムにはそこそこの空席が見受けられた(なお、一番客が入ったのは準々決勝のアル・イテハドvsアル・アハリ戦の56,111人)。UAEで開催された2021年大会よりは人が入っているものの、もう少し上がっていってほしいなとも思われるところ。まあクラブW杯自体がそこまで人を集められてないという課題があるのでやむないところもあるけど。それでもこのイベントを盛り上げようという感じは街全体だけでなく個々の店にもある装飾などから感じ取られた。なんだかんだサッカー好きな人多いんだろうな。そしてそのサッカー好きの中で国内絶対王者アル・ヒラルにACLで二度勝った浦和レッズの認知度はずいぶん高かった。

空港近くのモールアラブに出てた広告
空港の到着ターミナルに貼られていた案内。関係者向け(?)の案内所につながっている
Red Sea Mall内カフェのCWC装飾。よく見るとイテハドが2つある
泊まったホテルのエレベーターにはこのディスプレイが取り付けられていた

街並みや施設、買い物

アラビア半島というと不毛の砂漠地帯みたいなイメージもあるかもしれない。実際自分もそうだろうと思っていたのだけど、各建造物はかなりモダンで新鮮な驚きがあった。とはいえ広いジェッダの中には未開発な地域も多く、めちゃくちゃ広い道路と空き地とバカ高い建物が同居している不思議な街並みだった。

道路がめちゃ広い
マンションかホテルかなんか
ショッピングモールから眺めた街並み

ジェッダの特徴としては大型の商業施設(ショッピングモール)が町の各所に存在しており人々の活動の中心となっていたことだろうか。ジェッダ自体がかなり広いのでモール間の距離はそれなりにあり、たくさんあっても成立してる感じがあった。自分は宿泊しているホテルがRed Sea Mallに直結していたので毎日のように使っていたが、グローバルブランドの店と地元ローカルなお香とかのお店、そしてアクセサリや小物(サッカーやアニメのステッカーなど)を売るミニショップ的なものが入り混じっているという構造は基本的に他のモールでも同じだった。

お馴染み日本ブランドも
モールアラブを外から撮影。デカかった
ヴァージンメガストアのゲームコーナー
ダイソーもサウジ進出してた
8.25リヤルは大体300円ちょい

ショッピングモールの店舗の特徴としては民族衣装以外の服飾系はやはりグローバルブランドが強いというところでH&MやZARAをはじめ様々なよく知った名前の店が並んでいた。そのあたりはどの国でも同じなんだなと。また、品物のパッケージや値札が英語のままのものが多かった(ゲームなどはほぼそう)し、ダイソーや無印良品の品物は日本のものそのままなものも結構多かった。

日本の値札に現地通貨価格だけ載ってるの好き
このポチ袋とか意味わかるのか?

生活品についてはスーパーマーケットがある。ジェッダに本社があるDanube(ダヌーブ)にはめちゃくちゃ世話になった。生活必需品、お菓子、家具や新聞など様々なものが売っており、ここで大体のものは手に入った。惣菜コーナーも充実していた。

DanubeのRed Sea Mall店。左側の柵みたいなのは自動ドアだ
日本の有名なキャラのおかし
24時間店舗もある

なお物価はどうだったかというと総じて日本より高い印象だった。とりわけiPhoneは日本より2割程度高く、ゲーム機も1.5倍以上。ダイソーの値段なんかからしても窺い知れるところだろう。ただし、意外なことに飲料水は日本よりもかなり安く、ミネラルウォーターは500mlでも1SAR未満(30円程度)で買えるなど「砂漠の国じゃないの…?」という感想に至るほどだった。CWCのスタジアム内でも2SAR(80円弱)だったので相当安い(コカコーラは8SARだったがそれもよく考えれば日本のスタジアム価格よりはるかに安い)。なぜかは調査に至らなかったが面白いなーと思いながら見ていた。

携帯電話はドコモのローミングでstc(サウジテレコム)の5Gネットワークに繋ぎ、ジェッダ内ではほぼ不便しなかった。スタジアム内での試合前後でも普通につながっていたので助かった。

また、クレジットカードの普及率がとても高いので買い物で現金を使うシーンはほぼなかった。どこの店にも決済端末が据え付けられていた。Apple PayにVISAタッチ決済できるカードを取り込んでいたため、ほぼそれでどうにかなったので財布をいちいち出さなくて済んだのは安全上の観点からしてとても良かった。

こんな感じの端末を各店舗に置いてる(これはアブダビ空港のマクドナルドに取り付けられていたもの)

食事・グルメ

来る前には期待半分・不安半分だったサウジアラビアグルメ。結果としてはおいしいものが多くて満足。砂漠の中の質素な食べ物というイメージは大いに解消された。

サウジアラビア(というかアラブ地方)の代表的な料理は肉やスパイスを混ぜた炊き込みご飯である「カブサ」だ。ビリヤニに似ているんだけど、ビリヤニより炊き方はドライで、肉が大きく、あとスパイス薄めであっさり味だ。チキンカブサが多く見掛けられたがマトンやシーフードなどもあった。

アル・ロマンシアのチキンカブサ
アル・サッダーのマトンカブサとグルサン(左)、サンブーサ(右)
ショッピングモールで食べたイエメン料理もかなりおいしかった

また、ジェッダは港町ということもあり水産業も盛んなようで魚料理も食べられる。Uberの運転手に勧められて行った「Saedi Fish Restaurant」はめちゃくちゃおいしくて滞在中に合計三度通うことになったくらい気に入っている。日本にも出店してくれないかなあ。

Saedi Fishは街の北〜中部とキング・ファハド噴水前の2店舗ある
魚を選んでグリルかフライかを選択する形式
初手のこのグリルが最高においしかった
2回目に行った時はシーフードカブサも注文
3回目は3位決定戦後に5人で行ったのでいろいろ注文

食の面でも結構グローバリゼーションが起きていて、様々な国の料理が入り込んでいる印象を受けた。特に自分が行き来した範囲ではハンバーガーやピザなどのチェーンが多数入り込んでいてかつ地元のチェーンなんかもあったりするのでサウジアラビアの人達はこのあたりの料理が好きなんだろうなと思ったりした。

マクドナルドのアラブ限定メニューであるマックアラビアチキン
ナンぽい生地とチキンバーガー、ガーリックマヨ風味ソースでとてもおいしい
サウジアラビアのファストフード、アル・バイク。いつも混んでいた
このナゲットがかなりおいしい。量はかなり多い
ペプシコーラのアル・バイクオリジナルパッケージ
サブウェイも
日本でもチェーン展開しているPAUL。朝ごはんの大半をここで食べた

日本食レストランもいくつか出ていたので行って見た。しかし個人的にはイマイチ感あり。現地の人に合わせるための香草が寿司に乗ってたのが合わなかったなあ。日本食レストランに行く機会を現地のおいしいご飯を食べる機会に充てればよかったと少し後悔。

この上のやつがイマイチ

あと厳格なイスラムの国なのでお酒は存在しない。UAEやカタールなどの他のアラブの国では外国人なら飲めたりする(というか空港にたくさん売ってた)が、サウジアラビアは持ち込みもできないし外国人向けの販売などもない。僕はまあ1週間くらいならいいかな…と思って普通に酒を飲まずに過ごしていたが、まわりのサポーターの方々は我慢できないって言って試合と試合の間の日には酒の飲める近隣諸国に出かけてる人も結構いた。

日本食レストランでJAPANESE BEERとして売られてた

全体的な感想

サウジアラビア、行く前は不安が大きかったけど安全だしいい人も多いしご飯もおいしいしで良い思い出がたくさんできた。基本良い思い出ばかりなのでサッカー的な面以外でも行って良かったと思う機会多数だった。12月でも昼の温度が30℃越えで普通に日差しも強くてなかなか大変だったけど、夜は25℃くらいで湿度もそこそこなのでとても過ごしやすかった。暑いからかホテルの部屋のエアコンがめちゃくちゃ効きまくってて、最初入室した時に14℃くらいだったのはビビった。風邪ひかないの?

旅行情報の仕入れ先は今年出たことりっぷサウジアラビア版が大いに役に立った。かなりコアなところも載っていたのでためになった笑。あとは現地でUberの運転手やホテルのコンシェルジュに聞くことでいろいろ教えてもらえたのが良かった。

2034年のW杯もおそらくサウジアラビアで開催されることになるだろうから、その時はまた行ってみたい。その前にACLやインターコンチネル杯(現行クラブW杯の形式を一部引き継いで来年から新設される大会)で行くことになりそうな気がするが。笑

キング・アブドゥルアズィズ空港のデカ水槽
ジェッダ一の観光名所、キング・ファハドの噴水

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