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鳥取で育ち、NYで起業を経験。「コードアカデミー高等学校」立ち上げや途上国でのICT教育など、“IT×教育”でチャレンジし続ける理由。


インターネットビジネスを起業された後、“IT×教育”の分野で再度起業され、キャスタリアを立ち上げられた山脇智志さん。日本初のプログラミング教育を必修化した通信制高校“コードアカデミー高等学校”の設立にも携わられ、さまざまな不条理を克服していくために、海外でもオンライン学習の分野で事業を展開されています。

“学歴”で将来が決まる現実に違和感、能力重視のインターネットビジネスへ

—— 起業家という立場から「学びを変える」に関わってこられた山脇さんは、これまでどのような道のりを歩んでこられたのでしょうか。

鳥取で生まれ育ったのですが、もともと東京の大学に行きたい思いがありました。当時は田舎である自分が所属していた社会が嫌いで、全く新しい環境に行きたかったことが理由としてあります。現役では大学に受からなかったので地元のホテルで働き始めました。

そうして働いてみて気づいたのが、能力と関係なく「大卒」の社員は給料やポジションが高いという現実です。今となっては大卒という学歴が意味するものや大学を卒業していなくては就けない仕事があるのはわかりますが、行きたかった大学に落ちて田舎で劣等感の中で生きていた自分にはそれはわからなかった。

「学歴は関係ない」と言われることもありますが、まだまだ現実では学歴が重視されている。そのことを肌で感じて、就職後も「スタートラインにつくために大学は卒業しなければ」と考えていました。それで、3年経ってから東京の國學院大学に進学することに。学費と生活費を働いて稼ぎながら勉強にも励み、大学を卒業しました。

大学卒業後は、アメリカに留学しました。そして、ニューヨークでSIPS(シップス)と言われるインターネットビジネス分野で起業しました。システムやウェブの企画や開発だけでなく、広告や運営などを全て行っていました。

インターネットビジネスの世界では、学歴ではなく、個人の能力が重視されていました。何を作っていけるかが重要だったんです。

日本初、プログラミング必修化の“コードアカデミー高等学校”を立ち上げ

—— その後、日本に戻って教育分野でも起業をされていますね。どのような背景があったのでしょうか。

さまざまな経緯があって、最初に起業した会社を離れ、2005年に日本でキャスタリアを立ち上げました。教育分野で起業したのは、教育にビジネスとしての可能性を感じたからです。教育が必要のない人はいない。教育は誰にとってもなくてはならないユニバーサルなものです。

また、教育を受けることに苦労した私自身の経験も、起業と関係しています。私の地元の鳥取県では大学や学部の数が限られていました。鳥取を出て学ぶためにもお金がかかってしまう。「教育とお金の問題は関係している」と実感しました。テクノロジーの力で、そうした社会課題を解決していくこと。それがキャスタリアの目指していることです。

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キャスタリアでは、モバイルラーニングプラットフォーム「Goocus(グーカス)」を開発しました。スマートフォンを使用して学習環境を提供するサービスです。スマートフォンで学習できる環境を整備することで、学びにアクセスするための経済的・地理的な壁を超えることができないかという思いが開発の背景にあります。

また、その学習データを集めて分析し、次に役立てていきたいと思っていました。データドリブンの発想を最初から大切にしてきました。

—— その後、日本に戻って教育分野でも起業をされていますね。どのような背景があったのでしょうか。

「ニューヨーク市がCIOを置いてプログラマーを育成する高校を作る」というニュースを米ウォールストリートジャーナル紙の記事で読みました。「これだ」と思って、それを一般的な高校としてではなく、オンラインも使いながら始めようと。既存の教育ではないことをしたかったのです。

そのことをキャスタリアの株主である信学会(長野県の学校法人)に提案し、日本で初めてプログラミング教育を必修化した広域通信制高校「コードアカデミー高校」を2015年に設立しました。

国内外の学会での発表を積み重ねることで、教育業界での信用が得られた

—— これまでIT分野で活躍されてきた山脇さんですが、異業種である教育業界に参入するときに大変だったことや工夫されたことはありますか。

保守的で権威的な側面もある教育業界に、ベンチャー企業として入っていくことは難しかったです。その中で私が行ったことの一つは、学会で自分の考えを発表していくということ。

きっかけになったのが、当時慶應義塾大学の教授をなさっていた故福原美三さんとの出会いです。彼にA4用紙1枚にまとめた企画書を見せたときに「面白い」と言っていただけて、それからいろんな方にご紹介いただくようになりました。福原さんが学会発表を提案くださり、これまで国内外の学会で発表を行ってきました。

私は学部卒で学会とは縁がなかったのですが、福原さんにご推薦いただき信用の部分を担っていただいたからこそ、権威的な場所に入っていくことができました。

学会では、大学教授の方々と同じコンテクストの中で議論できる力や、これまでの当たり前ではないことを発表する力が必要でした。学会での発表を一つひとつ積み重ねてきたことが、教育業界の方々からの理解や信用につながったのかなと思っています。

自分の生きてきた価値と証はここにある。コードアカデミーで成長する子どもたち

—— 学会での発表が、教育業界に入る上で活きたのですね。コードアカデミー高校の子どもたちについて教えてください。

コードアカデミー高校は通信制高校で、もともと学校に通えていない子どもたちもいます。その子たちは、それまではなかなか友達ができなかったかもしれないけれど、ここでは同じ立場の友達に出会うことができます。

前に、卒業生のお父さんと一緒に焼肉を食べる機会があったのですが、途中から私の手を握って泣き崩れ、「コードアカデミー高校があってよかった」と話してくれたんです。その卒業生は、コードアカデミーでやる気を取り戻して難関大学に進学した生徒でした。

私が生きてきた価値と証はここにあると思いましたね。「誰かの役に立つことができた」と実感を持てる出来事でしたし、コードアカデミー高校の立ち上げを担ったことは、私にとって大きな達成感があります。

—— コードアカデミー高校が子どもたちの可能性を広げているのですね。山脇さんが "学びを変えた"と感じられた子どもたちとのエピソードはありますか。

コロナウイルスが流行してから、コードアカデミーの高校生を集め「子どもたちがつまらない思いをしているから、プログラミングを教えてほしい」と提案したんです。

結果的に、40-50人の小学生たちが日本全国から参加してくれました。いろんな背景を持った子たちが、日本中の子どもたちにプログラミングを教えている姿に、達成感を覚えました。

また、2021年7月に、福島県磐梯町でプロデュースさせていただいた町の子どもたちの学びと交流の拠点がオープンします。

これまでは図書館の自習室のような場所がなかった磐梯町に、インターネットを活用して自由に学べる居場所として、町交流館の一部を町内の小中学生専用の学習スペースとし、最新型のパソコンを導入しました。

スペースには町学習環境コーディネーターが常駐し、学習支援やインターネット利用のサポートを行います。

不平等なく本人のやりたいことができる環境を、テクノロジーの力で実現する

—— 山脇さんは日本だけでなく、海外でも事業を展開されていますね。

どこに生まれたとしても不平等なく、本人のやりたいことができる環境をテクノロジーで実現していきたいです。そのために、世界で活躍できる会社になっていくことがとても重要でした。

今は日本だけでなくアフリカや中東、アジアなどでも、オンライン学習やプログラミング教育を提供するサポートをしています。経済的な理由で教育にアクセスできないということがないように、安価な値段で学習できる環境を整えていく活動も行っています。

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例えば、新型コロナウイルスで学校が休校となっていたモンゴルでも活動を開始しました。現地の会社と連携し、大学入試に向けた学習が自宅でできるアプリを高校生に提供しています。

モンゴルでは家庭の経済状況により、学習機会に格差がある現状があります。キャスタリアでは、地方の公立高校に在籍している高校生に注目し、スマートフォンで学習できる環境を整備しています。

高校生が使用しているアプリは日本円で月額1000円ほどで利用でき、専門的なスキルのある講師の講義やミニテスト、資料の閲覧などの機能などが備わっています。テクノロジーの活用を通して、安価で質の高い教育を受けられる環境をつくり、教育機会の格差を是正していきたいです。

「Google(グーグル)」は誰でも無料で使えるサービスですよね。テクノロジーの力を使って、必要なものを作り、それをいろんな人に届けていく。それをビジネスの中で運営していこうというのが私の考えです。

誰にとっても使いやすいものを生み出し続けたい。そういう意味で、これからもチャレンジを続けていきたいです。

デジタルは手段。人が幸せになるために、データドリブンな教育学習をしたい

—— これから山脇さんが行っていきたい教育はどのようなものでしょうか。

私には「テクノロジーは人が幸せになるためにあるべきだ」という根本的な思想があります。デジタルを手段として使いながら、データドリブンな教育学習をしていきたいです。いわゆる既存の教育とデジタル教育の絶対的な違いは、データが残るか残らないかです。

そうしたデータを活用することこそ、デジタル教育の絶対的な差別化要因だと私は考えています。人ができないことや見れないようなことを可視化してくれるのがデータであり、それに基づいた教育学習をやっていきたいです。

—— 具体的にはどのようなデータを活用していかれるのでしょうか。

既存の教育では、紙の教科書とノートと鉛筆を使って、先生が授業をする。でも、そこで残るものは限られています。一方、デジタルを使うと、何月何日の何時何分にログインして、いつログアウトしたか。またその学習時間の中でどのようなコンテンツを学んだか、問題を一つ解くのにどれくらい時間がかかったかが全てデータになります。

私は非認知的なデータの信憑性がわからないので、確実なデータのみを扱っています。性格や態度ではなく、学習内容に関するものです。

人が幸せになるために学習データは使われるべきです。例えば、一人の先生が生徒全員の能力に基づいた進路指導をしようとしても、それは実質的に難しい。でもデータが集まっていれば、先生が持っている情報と組み合わせて、エビデンスに基づいた進路指導を行うことができます。

自分でもわからない自分というものを教えてくれるという点において、データは非常に役立つものだと思います。そうした、アナログのみでは不都合のある部分にデータが使われるようになるといいなと思っています。

—— 山脇さん、ありがとうございました。

山脇智志(やまわき さとし)
1970年鳥取県生まれ、國學院大学卒。英語通信教育会社勤務を経て、その後ニューヨークへ留学。 Radio Pacific Japan(Los Angeles,CA)に勤務しネットとFMラジオのメディアミックスによる番組を制作。その後U.S.Japan Business News Inc.(New York)のマーケティング/セールスディレクターを経て、2000年にBusium Inc.をNew Yorkに設立。 2005年4月より本社移転で東京に移り、ネットでの音声コンテンツ販売事業の担当役員を経て同年11月末同社退社。キャスタリア株式会社を設立し、同社代表取締役就任。情報経営イノベーション専門職大学(iU )客員教授、中央大学国際情報学部兼任講師を務める。



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