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生徒の「やってみたい」から、夢の実現をサポートする。兵庫県明石市に開校した青楓館高等学院の挑戦

美しく変化する。

そんな花言葉がある「楓(かえで)」を校名に含む、青楓館高等学院。

「ここに来る生徒たちはまだ青い状態かもしれないけれど、これからそれぞれの色に変化していってほしい」

校名に込めた思いを、代表の岡内大晟さんはそう話します。青楓館高等学院は、2023年4月に兵庫県明石市に開校した通信制サポート校。現在は約40名の生徒が在籍し、学校外のさまざまな立場の大人と関わるプロジェクト型学習(以下、PBL:Project Based Learning)を柱としながら、週1回の1on1面談で生徒一人ひとりに丁寧なサポートを行っています。

校舎は明石駅から徒歩10分の距離にあるビルの一室。“学校”より“コワーキングスペース”という表現が合っているこの空間で、生徒たちはそれぞれが自分の活動に取り組みます。会議や面談で使用する個室のほか、eスポーツで使用するパソコンルームまで完備。まさに「自分らしさ」を思い切り出せるような環境が整っていると感じます。

代表の岡内さんは、どのような思いで青楓館高等学院を設立したのでしょうか。現在取り組んでいることや大切にしている教育観について聞きました。

※サポート校:通信制高校に通う生徒に対して、さまざまな支援を行う教育機関

進路指導に強いから、「やりたいことをやっていい」と言える

—— まずは、どのような特徴があるサポート校なのか教えていただけますか?

一言で言うと、「社会に開かれた教育」を目指しています。週3回あるPBLでは、大学や行政の方と協力しながら地方創生プロジェクトに取り組んだり、株式会社チュチュアンナさんや株式会社パソナさんなどの企業とコラボして商品開発をしたりしています。他にも、学校の営業やマーケティング、広報には90人以上の方がプロボノとして協力してくださっているので、生徒はさまざまな業種、業界の方と関わりを持つことができます。

本校ならではの特徴は、「進路指導に強いこと」と「個別のサポートが充実していること」の2点があげられます。学院長を務めている藤原と私は、以前、AO入試専門の塾で働いていて、そこで多くの生徒を合格に導いてきました。なので、進路指導には自信があります。

本校には、難関大学を含む海外の50大学に指定校枠があり、大学進学のサポート体制も整っています。もちろん専門学校への進学や就職、起業も選択肢の一つ。さまざまな出口があるので、「やりたいことをやっていいんだよ」と綺麗事ではなく生徒たちに伝えることができると思っています。

また、週1回はすべての生徒と必ず1on1の面談をしています。個別サポートの手厚さは日本一だと思っています。1週間の出来事を聞いたり、困っていることや勉強の進捗を聞いたりしながら、生徒の個性を引き出すような関わりをしています。

—— 岡内さんは、元々AO入試専門の塾で働かれていたのですね。実績もあった状態で、なぜサポート校を立ち上げることにしたのでしょうか?

塾だと生徒が通い始めるのは高校3年生の夏頃からで、話せる時間はせいぜい週2〜3時間程度です。生徒によっては受験の1ヶ月前から塾に通い始める子もいます。それでも合格という結果につなげることはできましたが、受験だけを意識した指導にはもどかしさもありました。もちろん短期間でも受験に伴走することの価値はあると思います。けれど、私はもっと教育の根本を変えたいと思ったんです。

「バク転は簡単にできる」それを伝えるのが教員の仕事

—— 今は、開校してから5ヶ月が経ったところですね。これまでに生徒の変化を感じる場面はありましたか?

この短期間で、生徒たちは目まぐるしく変化しているなと思います。ある生徒は絵を描くのが好きで、今(2023年9月時点)山陽電車の広告には、全車両に彼女がデザインした絵が使われています。他にも、投資部では10万円の元金を投資で290万円にした子がいたり、新規事業を立ち上げた子がいたりと、それぞれが自分の好きなことや得意なことを活かして活動しています。そうなった要因は、やはり1on1の面談にあると思っています。

—— 1on1の面談では、具体的にどのような話をしているのでしょうか?

ある生徒は「将来、ホテルマンになりたい」と言っていました。その子に「ホテルマンになるための専門学校はどこにあるか知ってる?」「ホテルマンはどんな仕事をしているか知ってる?」などと聞くと、知らないことが多いと気づきます。

「専門学校に取材に行って、『どんなことを習うのか』『ホテルマンはどんな仕事をしているのか』聞いてきたらどう?」と伝えて、学校とどうやって連絡を取ったら良いのかを教えました。実際に専門学校に行って話を聞くことの必要性を感じ、それを実現する方法を知った彼女は、「取材に行ってきます!」と言って、とても張り切っています。

—— 生徒がやりたいことを実現するためのサポートをしていく。本質的なことをされていますね。

とてもシンプルなことです。比喩ですが、「『バク転は簡単にできる』と生徒に伝えるのが私たちの仕事だよ」と一緒に働いている教員には伝えています。

私は大学時代にスポーツジムで体操教室の先生をしていて、子どもたちにバク転を教えることがありました。バク転と聞くと、多くの人が「難しそう」と感じると思いますが、実は両手を高く上げることができれば、補助ありだと100%できるんです。それを実際にやってみると、「ほら、簡単でしょ」と言える。これが、私たち教育機関のやるべきことなんです。

できるのは“環境づくり”。それぞれの才能を認め、伸ばしていく

—— 生徒たちは、入学時点でやりたいことが決まっているのでしょうか?

やりたいことがある生徒とない生徒の割合は、半々くらいですね。でも、やりたいことがない生徒なんていないと思っています。人には感情がありますから、必ず何かあるんです。それを引き出すのも教員の役割の一つ。入学した時点で大人への不信感を持っている生徒もいます。だから、1on1の面談や普段のコミュニケーションを通して、「あなたの味方だよ」と伝えることが大切だと思っています。

私たちにできることは、“環境づくり”だけです。大谷翔平選手のような人を教育によってつくり出すことはできません。でも、大谷翔平選手の才能を潰さないことはできます。一人ひとりが持っている才能があり、それを伸ばしていくことが私たちの役割なんです。生徒のやりたいことを認め、それをサポートしていくことで、それぞれが自分の色に変化していくと思っています。

ゴールは、自分らしい人生のスタートラインに立つこと

—— 生徒はどれくらいの頻度で通学するのでしょうか。

入学するときに授業形態をオンラインとオフラインのどちらにするかを選んでもらうのですが、オフラインを選んだとしてもその日に登校するかどうかは生徒が自由に決められます。PBLの授業やゲストスピーカーが来るときは、登校する生徒が多いですね。あとは、放課後にふらっと校舎に来る生徒もいます(笑)

—— どのような動機で入学する生徒が多いですか?

近くに生徒がいるので、彼女に聞いてみましょうか。

(高校3年生の生徒さんのお話)ここなら自分らしくいることを承認してくれる感じがしました。やりたい気持ちさえあれば、いろんなプロジェクトに関わらせてもらうこともできます。チャンスをもらえる環境が整っていると思って、入学したいと思いました。あとは、進路のサポートをしっかりしてくれることには親も安心したようで、入学を認めてくれました。

—— なるほど、ありがとうございます。

「自分を承認してもらえる」と感じてくれている生徒は多いですね。教員と生徒の壁があまりないんじゃないかなとも思います。うちでは「〇〇先生」と呼ぶのは禁止していて、教員に対しても名前にさん付けで呼んでもらっています。普段は私もラフな服装で、生徒にお菓子を配っていることもあります(笑)元々不登校だった生徒が7〜8割いるのですが、その子たちも学校に来ていて、保護者の方は驚いていますね。

—— 卒業時には、生徒にどんな状態であってほしいですか?

自分らしい人生のスタートラインに立つことが、本校の卒業要件になっています。「自分の学力だと、とりあえずこのレベルの大学に行っておこうかな」と考えるのではなく、「こんな思いを持っているから、この大学にいく」と決めてほしいと思っています。もちろん、「起業する」「就職する」など、いろんな選択があっていい。卒業時には、自分の人生を自分で切り開いていく力を身につけていてほしいですね。

「個性教育」を、日本の教育の王道に

—— これまでを振り返ってみて、どのように感じていますか?

いろんな方のサポートのおかげで、ここまで順調に進んでこれている実感があります。あとは、学費を下げることができたら理想的だなと思っています。私立学校に通うよりは安い学費を設定できていますが、各家庭への負担はもっと減らしていけるといい。今は、スポンサー企業からのお金を生徒の挑戦に還元できる仕組みをつくっています。毎学期、成果報告会をやっていて、2学期は優勝者に3万円分の食事券、3学期は1人20万円分の留学支援金を渡しています。

—— 今後は、どのようなことに力を入れていきたいですか?

たくさんありますが、広報活動と教員の採用は特に強化していきたいと思っています。私たちには「教育を変えていきたい」という情熱はありますが、まだ多くの方には知られていません。メディアに出させていただくのもそうですし、自分たちでも広報活動をして、多くの方に知ってもらえるようなアクションをしていきたいと思っています。

また、生徒数は5年後に1000人、10年後に2万人を目指しています。それに伴って、教員は増やしていかなければいけません。社会で活躍できる教員を育てていくことも私たちの役割だと思っているので、そのための一つの基準として、教員の年収をあげることも目標にしています。

学校運営以外にも新規事業を立ち上げていくことで、10年以内に25人の教員の年収を1000万円にすることを目指しています。そんな“1000万プレイヤー”が全国の学校で校長になれば、日本の教育はよくなるのではないかと思って、今はそこに向けて全力投球しています。

また、日本の教育の王道を、本校のような「個性教育」に変えることが10年以内に達成したい目標です。私たちがやろうとしていることは決してニッチなことではなく、学習指導要領の基本理念とされている「生きる力を育む教育」にも矛盾していません。

今は不登校が増えてきていますが、それは「日本の教育は変わっていかなければいけない」という子どもたちからのメッセージです。これまでの教育のあり方を問い直し、一人ひとりの個性を伸ばす教育を実践していきたいと思っています。

(取材・文:建石尚子 写真:大森彩生


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