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【探究は、日々の生活の中でやる】TCS初代校長・市川力さん2/7 『探究対談』

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最近、学校のカリキュラムや学習塾で耳にする「探究」という言葉。なんとなく意味はわかっているつもりでも、「探究」とは、そもそも何なのか。これからの時代に必要な力についてアンテナを張っている人なら、1度は考えた問いではないでしょうか。

この「探究」の本質を、探究賢者とQ責任編集・炭谷俊樹が話していくのが、『探究対談』です。第1回目のゲストは、探究型の学びを行うマイクロスクール・東京コミュニティスクール(TCS)の初代校長であり、『探究する力』の著者である市川力さん

ラーンネットは設立から23年、TCSは設立から15年。時代に先駆けて探究型の学びを実践してきた2人が考える「本物の探究」とはなにか。実践してきたからこそ見える、今の景色とは? 「すみさん」「リキさん」と呼び合う2人が、15年前の出会いの様子から語りつくします。

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市川:「探究」というキーワードを決めた当時から、センターに「探究」がくるという図を僕らは描いていましたね。「探究」に関わるキーワードに自律やプロジェクト型というのはあるけれども、そういうのはみんな外側にある手法のひとつに過ぎない。IBもその中の一手法であるというメタな視点でとらえていた。

あくまで、目指すのは生き方としての探究。よりよく生きるために学ぶんだ、学ぶことを愛するんだと。だから「探究って何」って言ったら「学ぶことが生きることそのものになっていること」ですよね。

——そう。僕は探究というのは、行動習慣、思考習慣だと思ってるんです。間違っても、カリキュラムではない。生き方、行動ですね。思考だけじゃなくて行動するのが大事です。学校だけでやるんじゃなくて、日々の生活の中でやる。

市川:頭の中でただアイデアをこねくり回すだけじゃなくて、行動し、実践することを含むのが探究というコンセプトなんです。ジョン・デューイだってそういう意味で探究という言葉を使っているわけだし。

探究習慣を身につけることの底力を教えてくれたのはTCSの卒業生でしたね。たとえ小学校時代は漢字を書けなかったり、計算ができなかったりしても、必要に迫られたしかるべき時に急速にリカバーしてしまう。そのうえ、探究する習慣が生き方になっているから、ただ知識を記憶して終わりにならない。自分の探究を進めるための材料として生かし、どんどん新しい知識をつくっていってしまう。

——対照的に偏差値的な学力でいうと、正解のある問題をいかに早く解いて高得点を取るかに最適化された教育を受けてる人が多いわけでしょ。そういうやり方だと、自分で問題を見つけて仮説を作って解決策を考える力は、なかなかつかない。

僕自身、大学行くまでは偏差値的なことばかりやっていて、仮説をつくる力は社会人になってから磨いた感じ。子どもの頃からやっておけばよかった、もったいなかったな、って思います。

市川:今までの偏差値型教育においては、きちんと真面目に努力する勉強が有効だったわけですよね。そのやり方は偏差値型教育に対応するという意味では正しい。
保護者の心配は、小学校卒業の時の学力が高いか低いか、大学入試の時に問題が解けるか解けないかにどうしても集中しちゃう。だけどそういう相対的な評価って、本当の人間の学びのあり方ではないですよね。

——「嫌いなことも我慢してやることが重要だから、小学校で覚えさせてほしい」という親御さんは、いまだにいるんです。ラーンネットに見学に来る方でも「ここで自由に好きなことやったら我慢する力がつかないから、社会でやってけない」とか。

そうやって、子どもは我慢することを覚えていくんですよね。学校でやることは全部決まってて、自分の好きなやりたいことを出したら怒られて、出さなくなる。そこで好奇心のフタが閉じてしまう。


市川:まさにそう。本来誰もが自然に発揮できる好奇心にフタをさせないことが重要だと思うんですよ。きちっと勉強する習慣がついたとか、真面目に努力するとかじゃなくて、「面白いからやる」でいい。

もし自己肯定感を高めたい、ソフトスキルを身につけたい、コミュニケーション能力を磨きたいと思うなら、「面白い!」と思って発見したことを表現して、共有して、愛でる経験を積み重ねることが大事なんじゃないかな。

ラーンネットやTCSの真骨頂は、好奇心にフタをさせない状態を維持する環境だっていうことですよね。小学生時代に「開けっぱなし」で過ごせた子は、そのあと中学・高校で好奇心を閉じさせようとする圧力があったとしても、ものともしないんじゃないかな。

——僕もそう思いますね。6年間のベースがあれば、圧力があっても大丈夫。どっかに光を見出して、光があるところに走っていくから、抑えられない。学ぶ楽しみを知ってるから、抑えられても閉じないです。

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