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【失敗することでしか、先へ進めない】TCS初代校長・市川力さん3/7 『探究対談』

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最近、学校のカリキュラムや学習塾で耳にする「探究」という言葉。なんとなく意味はわかっているつもりでも、「探究」とは、そもそも何なのか。これからの時代に必要な力についてアンテナを張っている人なら、1度は考えた問いではないでしょうか。

この「探究」の本質を、探究賢者とQ責任編集・炭谷俊樹が話していくのが、『探究対談』です。第1回目のゲストは、探究型の学びを行うマイクロスクール・東京コミュニティスクール(TCS)の初代校長であり、『探究する力』の著者である市川力さん

ラーンネットは設立から23年、TCSは設立から15年。時代に先駆けて探究型の学びを実践してきた2人が考える「本物の探究」とはなにか。実践してきたからこそ見える、今の景色とは? 「すみさん」「リキさん」と呼び合う2人が、15年前の出会いの様子から語りつくします。

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市川:探究習慣を身につけると、表現したくなりますよね。表現したい!作りたい!と思ったら臆せずとりあえずやってみる。できあがったものがしっくりこなかったら修正して、表現しなおす。そしてみんなにその表現を発表し、フィードバックを得て、さらにつくりなおす。

そういう経験を積み重ねた卒業生たちが、自分の好きなことに寄り添って何かをつくりだすのを楽しむ生き方をしているのを見ると、探究する学びをやっててよかったと思いますね。TCSの卒業生がどんな進路を歩もうと全然気にしません。まあみんな結局そこそこの大学に進学するわけですが、そこがポイントじゃない。

これからはそもそも大学なんか行かないなんて子も出るかもしれない。どんな道を歩もうが全部、糧にして生きていくだろうし、20代なのか30代なのか、はたまた葛飾北斎みたいに60歳過ぎてから代表作を作り出すのか、「何歳までに」とか「何歳だから」じゃなくて、やりたいことを何歳だろうがやり続けようという迫力を僕は卒業生から感じますね。だからどんな花の開き方するだろうなあって楽しみなんですよ。

——表現ということでいうと、最近なんか1年生2年生のほうが物怖じせずに、好きなことぶわーって言うようになって。学校はそういうもんだと思ってるんですよ。自分の意見を抑える必要はないって。発表したくてしたくてしょうがない。

市川:いいことですよ。探究の場っていうのはいい意味でのカオスなので。カオスからいろんなことが生まれるんですけど、教育ってなるとすぐに整理するとかまとめるってなるでしょ。でも、探究って教育の逆張りなんです。ある意味混沌としてるからこそ動くわけであって、きちんと固めちゃうとダメ。

「できないことがあるんだよな、どうして先輩はできるのに自分はできないんだろう、自分もできるようになりたいな」とモヤモヤしてる時に、次どうしたらいいだろうと自分から踏み出す思考が動き始めるんですよね。そうすると自分なりに工夫して、あれこれ試行錯誤してみようとチャレンジし始める。それが探究の原体験になるわけです。

——先生や親が、「子どもができないのは自分のせいだ」って思うから、失敗させないように場を固めちゃうというのがありますよね。本当は子ども自身のことなのに、「できるようにさせないと」と干渉し、子どものチャレンジを邪魔してしまう要因になってる。僕らは「子どもが自分でやるんだから、それは待つしかないじゃない」って思うんだけど。

市川:江戸時代の寺子屋って学びの達人たちが集まっていたんじゃないかなって思ったりするんです。例えば、当時の儒学者の貝原益軒によると、「教える」の語源は「抑える」。子どもは放っておけば自然にあれこれ探し出し、動き回るから「まあまあ、ちょいと待てよ」と「抑える」。

インプットしていくことじゃなくて、子どものとめどないアウトプットを適度にコントロールして抑えるのが「教える」の語源なんだと。こういう学びの見方ができるセンスが素晴らしい。自分の経験でも、子どもをコントロールするというんじゃなくて、子どもの溢れ出るエネルギーを整えてあげるだけだというのは感覚的にすごくよくわかる。

子どもにはどんどん発言してもらう。しかし、子どもはまだワーキングメモリーが小さくてせっかくのアウトプットをすぐ忘れちゃうから片っ端から書き残すのが大人の仕事。こうしてまとめた記録があると子どもがそれを見て、自分の発言・意見・発見を落ち着いて考えることができる。あるいは相手の発言・意見・発見も落ち着いて受けとめることができる。

——「こうしたほうがいいよ」っていうことも、めったに言わないですよね。子どもがやれるように手伝おうって思わなくてもよくて、したくなるような環境を整える感じ。子どもって他の子がやっている場面を見たり、なんかやってみようって身体を動かしてると、なんとなくやりたくなってきて、そのうち自分でやり始める。

市川:でも一般的な大人は、カオスがあるとコントロールしたくなるし、よかれと思って余計なことしちゃうんですよね。

——僕も最初、「これで大丈夫なんだろうか」って心配でしたよ。でも卒業生がどんどん活躍し始めて、あの時のあれが今に活きてるんだって言ってくれてる。それで、カオスに見えるようでも、子どもの中では色んなことを整理して考えて動いてるんだと分かりましたね。それでようやく安心しました。

学校の先生にいきなりやってもらうのは大変ですけど、カオスのように見えても大丈夫だ、こういうやり方があるんだと、実際に見て知ってもらうことが大事だと思いますね。それから、子どもが何か失敗することを、先生が恐れなくて良い。先生が失敗を恐れてるから、子供も失敗を恐れてしまう。

市川:失敗の対処法を知らないんですよね。「失敗してもいい」っていうのは、いい加減にやってできなくてOKということではなく、失敗することでしか先に進めない時があるんだってことです。

僕は、「こういう準備をしたから、子どもはこう変わる」とか、「こういうやり方をしたら必ずこうなります!」みたいな言い方はできない。「100%うまくいきますよ」「失敗しません、大丈夫です」ということを親御さんにも子どもにも言いませんでしたね。

——言わない方が、勇気いりますよね。

市川:勇気いります。やってみないとわからないけれど、やりながらもし失敗したらすぐに修正して、学びをよりよいものにしていくことの積み重ねしかない。それで良かったんだって安心できたのは、卒業生がちゃんと育ってくれたおかげです。

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