物欲日記

12
ノート

物欲日記 11

2019/2/21

 ひと目見たときからそのメルヘンと不吉を愛さずにいられなかった。星は飛び交いながら堕ち月は死んだ太陽よりなおぎらぎらと輝きペガサスが高笑いをしている。強すぎる星も月の異変も神秘的な獣も古来より凶兆だ。「そうそう私はこういうこの世の終わりを見たかったんだよね」とにこにこしてしまう。何の話かって、SRETSISの優雅で豊かなチュールスカートの話です。
 たっぷりした深い紺色のチュ

もっとみる

物欲日記 10

2018/7/1

おおよそ三年前の春、私も家人もどこにも属さず寒気がするぐらい不安定で自由だったあのころ、家人がつくったベーグルサンドを持って近所の川べりで夢みたいなお花見をした。
満開になりたての花がひっきりなしに強風のせいで散らされて、泥色をした水面がだんだんと薄紅色になっていくのを見た。天気のよい平日の昼間、家人とふたり手をつないで、亡霊のように歩いた。
そもそもが限界だったのだ。ふたりき

もっとみる

物欲日記 9

2017/10/21

働きはじめたら自分のために買おうと決めていたものがふたつある。ひとつはヨックモックの缶入りクッキー詰め合わせ、もうひとつはRepettoのバレエシューズだ。Repettoのバレエシューズはこのあいだの春、淡い泡みたいな金色をした、踵のないものをついに購入した。働き始めてからちょうど1年が経つころだった。
お姫さまみたいな憧れの靴は、いざ手元にくると驚くほどお姫さま扱いからは

もっとみる

物欲日記 8

2017/10/2

 ふたりで暮らすには丁度いい大きさの部屋なのに、クローゼットだけいやに手狭だ、と思っていたが、それはどうやら違うらしい。先だっての春、しばらく身にまとう予定のない冬物のコートたちに埋もれて呆然としながら気が付いた。とりあえず問題を先送りにしようと、クリーニング店の冬物衣類預かりサービスにコートを持って行った。そのコートたちは近々、箱に押しこめられた状態でわが家にもどってくる予

もっとみる

物欲日記7

2017/9/10 

   5月の頭、少なくともあと半年は生き延びようとISSEY MIYAKEの秋冬ものストールを予約した。布地自体の畝と布全体のうねりとがあわさって、有機物のようだがまるきりそうとも判じ難い独特の気味悪さがあり、それが良かった。首に巻けば毒を吐く海藻のようだし、身体を覆うように纏えば大きな獣の内臓を切り開いて洗って干した野性味あふれるマントになる。穏やかなはずのグレーベージュ

もっとみる

物欲日記 6

2017/1/28

現実を綻ばせないといけない、と思う。
嫌いではないはずの人が滲ませてきた悪意の気配に足をとられてしまったとき、これから乗り込む電車のなかに眉間の皺たちが無数に踊っているのを見たとき、今の仕事を続けている自分の姿も他の仕事に乗り換えた自分の姿もうまく想像できないことに気が付いてしまったとき、「そんなに付き合ってるならもう妊娠しちゃえばいいじゃん」と初対面の人に言われたとき。現実

もっとみる

物欲日記 5

2017/1/3

「コーディネートのポイントとして一点だけハズす」ことができない。なぜならCLAMP作品で育ったオタクであり世界観が一貫していることに無上の喜びを感じるからである。家人も同じたぐいの人種なので、ふたりで出かけるときはいつも世界観が一貫するようにお互いの装いを整え、また我々の服装が行く先の空間にどういった影響(主に違和感)を与えるかも考慮する。服を選ぶのは、我々にとって一番身近なイ

もっとみる

物欲日記 4-2

2016/12/12

袖を通すのは一瞬だった。本当の半身に再会できたときには涙は出ず、何事もなかったかのようにただ馴染むのだと知った。

物欲日記 4-1

2016/12/11

ボーナスが出た。魂が貴族なため労働には不向きなのだが、生憎、魂しか貴族じゃないので勤めに出ている。忸怩たる思いがないではない。しかし、私が持ち合わせているのは労働ごときですり潰されるような柔な貴族らしさではないのでそれなりにやっている。それはそれとして、ボーナスが出た。

ボーナスが出るまで気が気じゃなかった。どうしても手に入れなくてはならないものがあったからだ。COMME

もっとみる

物欲日記 3

2016/11/28

先日、アイヌ語で「こんにちは」「ありがとう」と彫られた判子を活用するチャンスがあったのに、使いそびれてしまった。アイヌ語で「こんにちは」は「イランカラプテ」というらしい。躍動感あふれる鮭の横っ腹にその言葉が彫られている。「ありがとう」は「イヤイライケレ」、ふくろうの目一杯に広げられた両翼に単語がまたがっている堂々としたデザインだ。どちらもたいへん格好よいのに間が抜けていて、

もっとみる