家人が金髪

 家人の金髪がごっそりなくなってしまった。美容師さんの軽快な鋏さばきのあとには、小型犬が一匹編めそうなくらいの物言わぬ毛の山が足元にこんもりと生成された。私と家人はいつも隣り合わせで髪を切ってもらう。家人が変貌していくさまをすぐそばで目の当たりにできるのはいつだって愉快だが、今回はまた格別だった。

 昨夏、家人は頭髪の一本一本をその先端まで金色の光で満たした。それは、それまで時折行っていた、世間的な信用があり安定しているとされる資格を用いた季節労働との決別を意味していた。漫画を描く人になる、と宣言した家人の無器用な矜持と身を割るような不安とを思う。
 金髪は決意表明であり、願掛けであり、お守りでもあった。

 作業用の白手袋をいくつもだめにし、首筋と肩甲骨をこわばらせながら、金髪を振り乱し家人は描いた。それは祈りと嘔吐を兼ねており、おそらくそのほかの行為も担っていた。そうこうしているうちに、家人の漫画は人目にとまった。
 金色の飴細工のようなうつくしい鎧を手放しても大丈夫になった家人の頭には、流星の尾のように毛先だけ金色に色のぬけた髪の毛たちが踊っている。この半年は絶え間なく彗星が落ちそれをまた打ちあげるような、怒濤の日々であった。

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楽しい人生

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