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風の吹く日に

 ベランダに干した洗濯物が激しく踊っているように見える。今日はとても風が強い。風の音が笛のように聞こえて外出しようとした足が止まって動かない。怖いのだ。強い風に押し倒されてしまいそうな気持ちになって。

 心許ない気持ちのまま、台所でお湯を沸かして紅茶を淹れる。薬缶からティーポットにお湯を注ぐ時、薬缶の注ぎ口がジュンジュンと音を立て、お湯が勢いよく弾けるように飛び出してきたから、加減しなくてはと、ドキドキしながら薬缶を傾けなくてはならなかった。

 ぶくぶくと泡立つように沸騰したお湯で淹れた紅茶は香り良くとても美味しくできていた。濃いオレンジ色が混じり込んだ赤色の香り高い液体はからだを静かに温めて、私に元気を与えてくれた。息をふぅと吐くと、からだに入っていた余分な力が自然に抜けて呆けたような気分になった。

 ゆるゆると少しずつ冷めてゆく紅茶を飲んで香りを楽しむ。柔らかな気持ちが私に降りてきて、自分を少し好きになる。

 濃い赤とオレンジが混じり込んだ液体がからだの中に染み込んで静かに私を癒してくれる。

 風はまだ、笛のような音を立ててベランダに干した洗濯物を激しく揺らしながら吹いている。

 春の嵐。

 地面に溜まった滓のような何かを根こそぎ吹き飛ばして、激しい風が吹き続けている。

 濃い赤とオレンジを溶かした紅茶は冷めてゆき、私は静かにそれを飲む。

 風はまだ止まない。

 

 

ありがとうございます。 嬉しいです。 みなさまにもいいことがたくさんたくさんありますように。