ゆかいな非効率
思い出は「どこに行くか」よりも、「だれと出逢うか」だと思う。
数日間、地元に帰省をする。
高速バスでもぐっすり眠れる私は、どこでも生きていける。
前日の雨でお気に入りの靴がびしょ濡れである。読まずに溜めてしまった一昨日の夕刊を、やっとの思いでバスで開こう。読み終わったらくしゃくしゃにして、靴のなかへ。
もちろん、短い旅への期待も忘れずに。
目が覚めたら、目的もなくぶらぶら歩く。
「コーヒーにミルクとお砂糖おつけしますか。(⤴︎)」
マスターの方言ひとつで、おかえりと言われているような気持ちになる。マスクがあって良かった。
街中のちいさな本屋さん。
新品の本を買うのは、少し憚られる。しかし、いつかが一生来ないことが分かりきっているため、3冊購入した。ホントの出会いは一期一会である。
ブックカバーをつけてもらうか考えあぐねていると、「つけときましょか」と背中を押された。ありがたい。
「土屋(賢ニ)さんの本面白いですよね。ユーモアがあるのに、めちゃくちゃ知的で…!」
「はい…!」
大きく展開されていた土屋さんの本。
店員さんの好みに惹かれて購入した1人です。とは、恥ずかしくて言わなかった。
「あの…とっても素敵な方ですね!」
いつも私の言葉には主語がなくて紛らわしい。
3秒ほど間があいて、「わたしのこと?」と自分をゆび指す店員さん。
こくこくうなづいて、いかにあなたが素晴らしいかを説明する。
それというのも、この3冊との出会いは店に入る前から、始まっていたのだ。店員さんがテキパキと掃除しながら明るい声で、ご近所さんに挨拶をしている。私がその店を訪れた理由として、そこが本屋だったからではなく、その人が働くお店だったからかもしれない。
商品を購入して、そのお店を、そこで働く素敵な店員さんを、応援したいという気持ちが知らぬ間に芽生えていたからだと思う。
そんなことを語ると、引かれてしまうとわかっているので、
「明るくて、笑顔が素敵で…!」という言葉に全てを託した。
「嬉しいわ〜!この年になると褒められることなんて滅多にないからね!」と立ち上がって手をパンと合わせる店員さん。
「今日一日ハッピーやわぁ。」
「私こそ、ハッピーです…!」
本なんてどこで買っても同じと思われるかもしれない。インターネットですぐに購入できる時代であるからこそ。それでも、目的が達成されることだけが全てではないはず。どんな人と出逢って、どんな思い出を記すかも、きっと大切な旅の要素になるはず。
そう思うと、旅は短い一生のように思えてくるよね。
『あなたは、どんな風になりたい?』
それだけじゃ、物足りないから
『どんな人に出逢いたい?』
そんな風に、自分自身に問いかける1日となりました。
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