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森見登美彦的文通生活ーーB氏との場合(No. 1)

前略

 令和の時代に文通なんかに手を染めるのは我々くらいであろう。そんなもの好き・好事家は絶滅危惧種に近い。我々は晴れてレッドデータブックに名を連ねることになった。

 「何故今時文通なんぞ?」と人は問うかもしれない。我々はこの問いに対して、毅然とした態度でこう答えねばならぬのだ。「森見登美彦に、そして『恋文の技術』に魅了されるからだ」と。しかし相手は森見アンチかもしれない。そんなときのための僕の答えはこうだ。

 我々を取り囲む環境の脱物質化は急激に進んでいる。電子書籍は普及し、やり取りされる書類の多くも電子化されている。これらの動きは一方ではペーパーレスなど資源の節約にも役立っている(とはいうものの、電気を生み出すため依然として資源は用いられている)。しかし反面、周囲の環境が脱物質化していく中で、我々の身体がどこかふわふわとした、根拠のないものになっているのもまた事実ではないか。

 というのも畢竟我々の身体は物質であって、身体性は物質を媒介として強く喚起されるからである。我々の身体性は所与のもののように思われるかもしれないが、実は周囲の物質によって担保されている面も大いにあるのではないか。

 この文通は僕にとって、文字によるコミュニケーションの脱物質化に対抗する試みである。LINEやSNSでのコミュニケーションが主流となった昨今、最早自分の身体を通じて文字を「書く」事すらなくなってきた。あれだけ一生懸命に勉強したのに、簡単な漢字すら忘れてしまうのも当然だ。今はスマホやPCが「予測」してくれるのだから。「予測」されてたまるか!!我々のコミュニケーションには偶然があるから面白いのだ。ミスが、誤読があるから面白いのだ。

 ここから始まる文通は森見登美彦信者として当然の行いであると同時に、現代文明に対するささやかな抵抗である。君がここに加わるかは君の勝手だが、Twitterを見る限り、素質は十分だと思うぞ。

                              不尽

令和三年十月四日

               「現代文明に抵抗する会」会長 みたか

未来の副会長B様

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