【インタビュー】劇団四季を3回契約解除!?これまでのキャリアについて/TAPサポーター仙名智子さん①
芸能に特化したメンタルサポートサービスTAP(ティーエーピー)。
TAPサポーターへのインタビューシリーズ第2弾として、今回は元劇団四季俳優・現公認心理師/臨床心理士の仙名智子さんへお話をお伺いしました!
俳優という職業の中で、プロの舞台の厳しさや自分の能力の限界を超え続ける日々を過ごされてきた仙名さん。今回は臨床心理士になるまでのキャリアについて詳しくお聞きしました。
ミュージカル俳優になるまで
――まずは、仙名さんの臨床心理士になるまでのキャリアについてお話しいただけますでしょうか。
仙名:はい、ありがとうございます。私は元々劇団四季の俳優をしていたのですが、きっかけは高校生の時に友達の誘いで地元のミュージカルスクールに入った事と、そのころに見た劇団四季の作品に感銘を受けて “私は劇団四季に入りたい!入るんだ!”って決めたんですね。
ただ劇団四季のオーディションの募集要項を取り寄せたら、クラシックバレエやダンスであれば10年以上のキャリア、歌であれば音楽大学卒業程度の技術があるのが望ましいと書かれていて、じゃあ私は音大に行くしかないと思って(笑)。それまでピアノを弾いたことがなく楽譜も読めなかったので、受験曲だけ弾けるようにして。音大を受験して合格して大学に通いながら、歌と色んな種類のダンスを習いました。それで、劇団四季のオーディションを受けて合格したんですね。
――今さらっとお話しされてますけど、難しいことですよね?
仙名:そうだったのかもしれません。なんとか紛れ込んだみたいな、そんな感じでしたね。
入ってからはプロの現場の厳しさを痛感することばかりでした。
研究生での初舞台、プロの厳しさと楽しさ
仙名:初舞台を踏んだのが、劇団四季研究所の研究生の頃です。本番が迫った作品で、他の演目の関係で出演できなくなったキャストがいて、じゃあ研究生から1人呼ぼう、という感じで舞台出演するチャンスを偶然にも得たんですね。
そこから1つの作品を3日くらいで覚え、舞台稽古をやって、1週間程度で本番に出るということを、初舞台でやりました。
当時まだどっちが上手(かみて)なのか下手(しもて)なのかというのもまだよく分からなくて、ワイヤレスマイクをつけたこともない、歌いながら踊ったこともない、ヒールで踊ったこともない、ペアダンスを踊ったこともない。本当に初めてのことの連続でした。なんとか出演はできたのですが、「まだ本番に出せるレベルじゃなかった」と、1週間でキャストを降りることになりました。本当に悔しくて家に帰ってワンワン泣きました。プロの現場の厳しさと、それを乗り越える楽しさみたいなのをすごく体験しましたね。
—―そうなんですね。聞いている方からすると、まだ研究生になったばかりの頃に、その稽古期間でやられていたことがまずすごいと感じるんですが。
仙名:でも、当時の劇団四季の俳優として必要なことでした。一日に何演目も同時に上演されているので、キャストが怪我をしてしまった時は誰かがそこに行く必要があったりして。そういうことができるのが、劇団四季の俳優の一側面みたいなところがあったので。やっぱりそこはプロの洗礼を受けましたね。
――怪我との付き合いも、関係してきますよね。
仙名:そうですね。当時は怪我をしてもキャストチェンジができなければ出続けなきゃいけない、そういう大変さもありましたね。
今はミュージカルの世界って「スウィング制度」と言われるものがあって。複数人分の役を覚えて、怪我や病気をした俳優の代わりに出演するために、舞台でスタンバイしているキャストがいたりするんです。私もスウィングを経験したことがあるんですけが、そうやって怪我をして誰かが急に出れなくなったとしても、完璧なものをお届けするというようなシステムが、少しずつ日本でも導入されてきていますね。
――確かに、怪我のまま無理して続けると、それこそ俳優生命に関わるようなことにもなりかねないですよね。
仙名:そうですね、おっしゃる通りです。日本でも上手に正しくスウィング制度を使ってもらえると良いなと思っています。
自分の能力の限界を超え続ける日々。
キャスティングされても出演できるかわからない?
仙名:そんな風にしてデビューを飾ったのですが、その後ある時から、演出家の目に留まるようになってきて、舞台出演のチャンスを頂ける機会がすごく増えてきたんですよ。
ただ、“ピンチはチャンス、チャンスはピンチ”という言葉ありますよね。すごくチャンスを頂いたんだけれども、やっぱりそのチャンスはピンチでもあって。自分の能力の限界を超えていかないと辿り着けないような役を頂くことがとても多くて。
すべての人がチャンスを頂けない中で、私はそのチャンスを頂けている訳なので、自分の能力は足りないんだけれどもなんとかそこに食らいつけるようにと、劇団四季時代はそれを必死に繰り返していました。
仙名:当時の劇団の特徴としては、キャスティングされても、初日まで出演できるかどうかは決まっていないんです。舞台稽古の途中でも、演出家が「あなたのパフォーマンスは良くない」と言ったら、もうキャストチェンジ。1つの役をダブルとかトリプルでつけて、その中の誰が出るか分からない。もしシングルキャストでやっていたとしても、そのキャストが良くないと判断されたら次の俳優がキャスティングされて、その次の俳優がそれにトライするという形で。
そんな風にチャンスを貰うと、降ろされる機会も増えるわけで。当時の劇団の特徴としては、その作品から降ろされる場合もありますし、「明日から劇団に来なくても良いですよ」と言われる場合もあるんです。毎日が戦場のようで、私が選ばれたことによって同じ役をやっていた人が、劇団から去る事になるという心苦しい経験もしました。
3度の契約解除から、やりたかった役を掴む。
仙名:私も劇団にいた間で、3回契約解除になっているんですよ。その度に、明日からどうやって暮らそうかと途方に暮れました。
普通だったらそこで諦めると思うのですが、私はちょっとしつこいところがありまして。
“私はやれるところまでまだやってない“とか、“やり残したことがある“という気持ちがとてもあったので。
1年に1回やっているオーディションを受け直したり、「もう1回チャンスをください」と直談判をしに行ったりして。3回もクビになって3回も戻った人は他にいないんじゃないかと思います(苦笑)。
そんな風に出入りを繰り返して、最終的にはある作品のヒロイン役にキャスティングしてもらえました。
それは自分がとてもやりたかった役で、この役がやれたら辞めても良いという風に思っていた役でした。
出演は出来たのですが、「まだ練習が足りてないですね。もうちょっと練習してから出直しましょう」という風に言われて、その時“ここが自分の限界だな“と感じました。
その役を1回だけでも演れたということが幸せなことだと思って。カーテンコールで、最後に真ん中に出てきてお辞儀できたのは今まで頑張ってきたご褒美だな、と受け止めて。”これで辞められるな“と思ったという感じですね。
――そうなんですね。お話しをお聞きして、1本の作品を観たような気持ちになりました。何度も何度も食らいついていくことは、そうそうできることではないですよね。
仙名:辞められなかったんですよね。辞めどころを、後半の方は探していたような部分もありますね。
――そこから、一旦劇団四季の俳優というところのキャリアに終止符を打たれて。
仙名:そうですね。劇団四季のキャリアというよりも、“もうパフォーマンスはこれでおしまいにしよう”と思っていました。私の場合は、心理士になりたかったから辞めたわけじゃなくて、俳優を辞めるということを先に決めたんですよ。辞めなきゃいけないぐらいに思っていました。
30代の女性俳優がすくない?
仙名:たしか27歳ぐらいの頃に、“あれ?30歳を過ぎてる女性の俳優さんが極端に少なくなってるな”ということに気がついた時があったんですよ。
結婚して辞めたりする人もいたし、どんな理由で辞めていってるのか分からないけど、「あれ?なんか辞めてるな」ということに気づきました。
あとは働く環境の独特さも相まって、私はこのままずっと続けていくのは難しいだろうなって。能力的に求められるハードルを超えていくことももうできない。そろそろ自分の中で限界だと感じていたのもあります。
劇団に入った時は、ずっと続けるものだと思っていたんですけど、そんな風に27歳ぐらいで“いつか辞めなきゃいけないんだな“と感じたんです。
臨床心理士の道へ進むきっかけ。
学んだことを、いつかパフォーマンスの世界にお返ししたい
そこから臨床心理士の道を目指すきっかけになったのは、3回目の契約解除の時に、毎日ジェットコースターのようなアップダウンの中を生きていたので、自分には今どういうことが起きてるんだろうみたいなことがすごく疑問に思って。
それと同時に、もっと役の気持ちを理解したいと思って心理学の15回ぐらいの講座を受けに行ったんです。そしたらそれがすごく面白くて勉強になって。役を理解することも勉強になりましたし、自分自身のことも整理するような時間になって、私にとっては有意義だったんですね。
いつか辞めた後に、心理的なことをやっていく仕事につけたらいいなと思って。そこで調べたら、臨床心理士になるともしかしたら食べていけるかもしれない。そして、いつか学んだことをパフォーマンスの世界にお返しできるような、そんな力を身につけた心理士になりたいなという風に思って。
またオーディションを受けて劇団に戻った後は、大学院に行くお金を貯めながらミュージカルをやって。最後、これで納得できたというところで辞めて、そこから受験勉強して臨床心理士になったという、そんな感じなんですよ。
――貴重なお話しありがとうございます。
最初は役の気持ちを理解するっていうところで、心理学の勉強を始められたんですね。
仙名:そうですね。あとは、自分に起こってることはどういうことなんだろう?と。そのヒントを貰えるかなとか。
――自分に起こってることのヒントってどんな?
仙名:当時、劇団の先輩に「どうしよう。心が動かなくなりました」と相談したことをよく覚えています。
今振り返ればバーンアウト状態だったのですが、当時の自分には何が起きているのかわからなかったんですよ。
心理学の講座を受けて心のメカニズムについて頭で理解しながら、少しゆっくり過ごすことで、徐々に心が動くようになっていった。
ゆっくり考えたり過ごす時間が持てて本当によかったと思ってます。
今回私が話している話は当時の劇団の話で、今はシステムも変わっていると聞いていますし、ミュージカルで活躍する女性のキャリアも、肌感覚ですが伸びている気がしています。
――ありがとうございます。
TAPトークイベント vol.2 3.24開催!
\ 仙名さんへのご相談はこちらから /
https://lin.ee/zCMDruu
※TAPアカウントが追加されます。