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いかにしてクイズはつくられたか(2)

2023年5月7日に「みんなで早押しクイズ」にて企画『Vulnerable Values』を開催した。本記事では、出題したクイズの一部を振り返りながら作問の経緯などについて記述したい。

なお、前記事もぜひ参照されたい。


解説


Q. 卒業生には作家のチヌア・アチェベやウォーレ・ショインカがいる、1948年に設立されたナイジェリアで最初の大学は何?
A. イバダン大学

私は元々老化の研究に興味があり、レスベラトロールの効果をショウジョウバエで検証した研究を探していたことがあった。その中で見つけたScientific Reportsに掲載されていた論文が、イバダン大学のグループによる研究だった。

Adedara, A.O., Babalola, A.D., Stephano, F. et al. An assessment of the rescue action of resveratrol in parkin loss of function-induced oxidative stress in Drosophila melanogaster. Sci Rep 12, 3922 (2022)

失礼ながら聞いたことのない大学名だったので調べてみると、ナイジェリアの大学であることがわかった。その後も色々と調べると、著名な人物が卒業していることを知ったため、クイズとして出題するための情報が十分であると考えて作問した。

学術論文は欧米や東アジアの研究機関によるものが多くを占める(リンク:Science Portal)が、研究は世界中で行われているものであり、その結果は地域に関係なく評価されるべきである。今回のように、アフリカなどでの研究にも目を向けてみると、その国の歴史を知る機会となることがあって面白い。


Q. サンスクリット語で「火葬の王」という意味がある、アメリカの古生物学者マーク・ノレルらにより、円形に配置した卵を翼を使って抱いていたと考えられる姿の化石がモンゴルから発見され、恐竜が鳥類のような抱卵をしていたことの根拠となっているオヴィラプトロサウルス類の恐竜は何?
A. シチパチ

本問は主に、土屋健『カラー図説 生命の大進化40億年史 中生代編 恐竜の時代ーー誕生、繁栄、そして大量絶滅』内の記述をもとに作成した。

「火葬の王」という名前の意味は、インターネット上で得た情報のみを元にしているため、不正確な可能性がある。恐竜の専門的な本をいくつか閲覧したが、名前の由来を記述しているものが見つけられなかった。

当日は語源部分だけで正解した人が1人いたのみで、全文表示後の正解者は0人という極端な結果だった。生き物の名前を問うクイズはよく見かけるものの、現生の生物に関するものが多いため、古生物だと難度が高くなるのかもしれない。


Q. 雪に関連した四字熟語で、「氷姿雪魄」「雪裏清香」「雪萼霜葩」といえば、いずれも何という花の別名?
A. 梅

倉嶋厚、宇田川眞人『花のことば辞典 四季を愉しむ』を読んで花に関するクイズを作ろうとしていた際、「雪中四花」という言葉を見つけた。これは、画題として好まれた臘梅、梅、水仙、山茶花の4つの花の総称である。インターネットで検索してみると、「雪中四友」という言い方が一般的なようだ。

はじめはこの雪中四友について作問しようと思っていたのだが、「雪中四友と総称される4つの花とは、臘梅、梅、水仙と何?」のような問題にしたところで、あまり面白くない。どうしたものかと思案していたところ、偶然「雪萼霜葩」という言葉を見つけた。どうやって見つけたのか記憶が定かでは無いのだが、おそらくウェブ辞典「四字熟語」で雪中四友を調べた際、類義語の欄に雪萼霜葩が表示されていたのがきっかけだと思う。
雪萼霜葩という言葉をインターネットで検索してみると、複数の辞書に梅の別名と説明があり、確からしいことがわかった。さらに「四字熟語」では雪萼霜葩の類義語として氷姿雪魄や雪裏清香という言葉も見つけ、いずれも梅を指すものであると知った。このようにして、四字熟語の列挙から梅を問うクイズが作れた。
加えて、これら四字熟語の共通点は「雪」の字が含まれることである。そこで、問題文冒頭に「雪に関連した四字熟語で」と加えることで、表示される四字熟語が単なる羅列ではなく一貫したテーマのあるものであることを表現できた。

出題当初は、どれくらい正解が出るのか予想できず、難易度は未知数であった。実際の正解率は34%で、勘で当てやすいというのもあるかもしれないが、適度に難しい問題であったと思う。出題後に良い問題が作れたという実感が湧く、珍しい例である。


Q. 異常なマクロファージがTGF-β1を過剰に放出することで線維化が進み、心不全などの心血管病による死亡率が増加する原因となっている、一部の男性において加齢に伴い血液細胞からY染色体が失われる現象を、アルファベット4文字で何という?
A. mLOY

こちらは『Newton』の特集で知ったものである。mLOYとは、「mosaic loss of chromosome Y」の略である。

その後、mLOYの原著論文を大学の研究室の論文読み会で紹介した人がおり、詳細な内容を知ったことで、この現象をクイズとして出題し知識を共有する価値があると感じた。

Sano et al., Science, 2022 https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn3100

なお、当日正解者は0人だった。極めて専門的な用語のため、仕方が無いかもしれない。科学は日々アップデートされているので、プレスリリースなどをチェックするなどして、最新の研究に目を向けてみてほしい。


Q. 作詞は福田三月子、作曲は吉川洋一郎である、戸川純と東京放送児童合唱団がインドの王様の暮らしぶりを歌ったNHK『みんなのうた』の楽曲で、2005年に『トリビアの泉』で当時ガーナサッカー協会会長だったニャホ・ニャホ=タマクローが紹介された際に、歌詞を彼の名に変えた替え歌が放送されたことで知られるのは何?
A. 『ラジャ・マハラジャー』

何年経っても頭から離れない音楽というものがある。昔聴いたニャホ・ニャホ=タマクローの歌もその1つで、ふとしたときに思い出すことがあった。しかしながら、つい最近まで原曲を知らずにいたため(そもそもアレンジ曲であることも知らなかったのだが)、調べてクイズにしてみようと考えた。
基本的にインターネットで得た情報のみで作問したため、「これが原曲である」という絶対的な根拠はないのだが、おそらく正しいと思う。
また、「インドの王様の暮らしぶりを歌った」という部分は私が曲の内容を要約したもので、より的確な表現があるかもしれない。

この問題を出題した5月7日は偶然にもニャホ・ニャホ=タマクローの誕生日であった。そのおかげか、正解率が思いの外高かった。作問は何日も前に完成していて、意図的にこの日に出題したわけではないのだが、絶妙なタイミングでよかったと思う。


Q. 繁殖期のものはシュリーカー、変態して飛行能力をもつものはアスブラスターと呼ばれる、パニック映画『トレマーズ』シリーズに登場する巨大なミミズのような姿の地底生物は何?
A. グラボイズ

自分は映画を全く見ないので、映画関係のクイズを作るのはなかなか大変である。詳しくないジャンルのクイズを作る際はネタ探し・データ集めに苦労するし、そもそも作らないほうがいいのかもしれない。しかし、まれに別の方面からネタが降ってきて、着想を得ることがある。

本問は、武村政春『新しいウイルス入門』を読んでいたときに知ったものである。ウイルス関係の知識を深めながらクイズのネタも探そうとしていたところ、ミミウイルスの構造についての解説で、グラボイズの名前が出てきた。

なお映画本編をちゃんと見たわけではなく、YouTubeで一部シーンを見た程度であり、表面的な情報を寄せ集めたに過ぎない。こういったクイズは実際に映画を見た人・作品に詳しい人が作ると、より深みのあるものになるのだろうと思う。


Q. 実験の再現性の低下につながる恐れがある、実験結果を見てからそれに合うような仮説を立てることを、「hypothesizing after the results are known」の略から何という?
A. HARKing

私がこの言葉を最初に知ったのは、脳科学者の神谷之康教授のツイートからである。

このツイートは2018年にされたものであるが、私がこれを発見したのはごく最近である。
また、阿部真人『データ分析に必須の知識・考え方 統計学入門』を読み進めていた際にも、HARKingについての記述を見つけた。「再現性の低下につながる」の部分は本書を元にしている。

残念ながら(?)、当日正解者は0人であった。参加者の中には、科学や統計に携わる人もいたはずである。知らず知らずのうちにHARKingをしていた人もいるのではないだろうか。この機会に、自らのデータ解析方法を見直してみてほしいと思った。

学者や研究者がSNSなどで発信している情報の中には、目新しいこと・興味深いことがたくさんある。またアカデミア特有の思想・議論を見ることができて、良い刺激になる。

なお、HARKingの他にも、BIRGing(栄光浴)のように「アクロニム+ing」という形の言葉がある。



おわりに

本記事では、自作のクイズについて出典や出題意図を中心に解説した。独創的なクイズを作るのは容易ではないが、様々な資料を調査したり、日々の生活の中でふと疑問に思ったことを調べたりすることで、運良くネタを得ることがある。そうして得られた断片的な情報を組み立てて肉付けし、形を整えていくことで、ようやく立派なクイズができあがる。この過程は非常に骨の折れるものだが、完成したときの達成感もまた大きい。
さらに、資料を検索・精査して行う作問は、自らの情報収集能力を高め、知識を深めることにもつながる。インターネット上には数多の疑わしい情報が存在するが、クイズを作ることでそれらの信憑性を吟味し、同時に得た情報を文として再構築することは、メディアリテラシーを高めることができるだろう。

本記事を通して、私の知的興味や問題に込めた思いが読者に伝われば幸いである。


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