Bill Bruford:世界で最も革新的だったドラマー(前編)

ブログ記事の移植版です。自分にとっては大事な記事なので、Noteでも公開したいと思います:

音楽の歴史を変えたドラマー、と言えば、誰でしょう。

誰でもすぐ思いつくリンゴ・スター、ジョン・ボーナム、キース・ムーン。ジャズで行けばルイ・ベルソン、バディ・リッチ、トニー・ウィリアムス、さらにはガッドとかウェックルとかヴィニーとかデニチェンとか(俺が好きなだけですが)、いくらでも挙げることは出来ますね。

ですが、本日の主役Bill Bruford。
日本語でもやっと「ビル・ブルーフォード」と表記して貰えるようになりましたが、この人はそんな革新的ドラマーの中でも、一線を画します。
キャリアの最初から最後まで、常に新しい音楽を作り続け(もしくは貢献し)、常にBill Brufordオリジナルであり続けた、正に類い希なる才能の持ち主だった、と思うのです。

実は本稿、彼の最後期キャリアである第二期アースワークスに触れたいのが目的なのですが、その目的を果たすためにも、実は全キャリアを俯瞰する必要があります。もちろん私は全ての作品を聴いているわけではありませんが、メイン処は押さえてますしそれで十分かと思います。
ちなみに本稿書くに当たって、邦訳された自伝を読もうと思ったのですが、誤植や誤訳の嵐と酷評されてますので、止めました。

1.Yes (1968-1972)

イエスというバンド、最初はピンク・フロイド同様サイケデリック・ロックからスタートしているのですが、あれだけ長大・複雑な楽曲を手がけるようになったのは間違いなくビル先生の仕業だと考えています。アラン・ホワイト入ってから、めんどくさいポリリズムとか変拍子なくなってるでしょ?それが何よりの証拠。

ファーストアルバム「Yes」からして、ビル先生のあの「スポコン」というスネアサウンドができあがっていることに驚かされます。ハイピッチでノーミュート+リムショットであの音を出している…というのは有名な話ですが、実は「スティックを逆さに持っている」のが地味にポイントだったりします(毎回そうではないですが)。あのヌケのいいリムショットは、スティック逆さ持ちで産まれてたんだと思いますね。

ビル先生、プレイスタイルはこの時点で大体完成されてまして
・基本的にタテノリ。徹底してドライ。ストロークも細かい
・とは言いながら演奏には粗いところが多く、リズムも結構ヨレる(特にライブ)。まあ、元々がジャズ志向の人だったんだなあ、と思います。
・割と解りやすいポリリズムを随所で取り入れる。

The Yes Album当りからイエスは今に続くサウンドを確立します。で、ビル先生のベストプレイは、ベタですがやっぱりこれかと。

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「危機」も「同志」もいいんですが、なんと言ってもSiberian Khatruが白眉かと。複雑な楽曲がビル先生のタイコで見事にエッジの効いた作品に仕上がっています。

2.King Crimson (1972-1974 太陽と戦慄~Red)

クリムゾン史観的には、第3期に当たるんですかね。ここから長い、ビル先生とクリムゾン(と言うかフリップ翁)との関わりが始まります。
「太陽と戦慄」の時点では、間違いなくジェイミー・ミューアの存在にインスパイアされてたと思いますよ、ビル先生。もともとパーカッシブなスタイルを持っていた彼が、横で演奏するミューアを見て衝撃を受け、さらにその方向性を磨くようになった…と、個人的に考えています。
この第3期は、どのアルバム挙げてもOKというか、3枚ともそれぞれの特徴を活かしきった傑作なんですが、敢えて挙げるとやっぱりこれですかねえ。

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タイトル曲の鬼気迫る演奏、Starlessの寂寥感と緊張感、そして何よりOne More Red Nightmareの疾走するタイコは最高です。
しかしRed、amazonだとヘヴィメタにカテゴライズされてやがるww まあ、間違いではないですが、せめてNuovo Metalまで待てよ。

3.  UK - Bruford (1976-1980)

えと、U.K.は私あんまり好きでなくてですね。つーかエディ・ジョブソンが嫌いでして。ビル先生のプレイスタイル的には、Brufordを語れば十分かと思います。

Brufordの特に最初の2枚は、さらに言うとOne Of A Kindは、筆者が「人類音楽史に残る大傑作」と固く信じて疑わない作品です。
ビル先生、本作で本格的に作曲に携わっています。もちろんデイブ・スチュワート主導だったとは思いますが、魂を揺さぶる名曲を生み出し始めるのですね。
で、Brufordでのビル先生はUKとほぼ同じセッティングです。ロートタムが本格導入され、サウンドは明らかにまとまりを見せてきます。
どれか一枚と言えば、もおこれしかないですわ。

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本作については過去散々触れてるので言及しませんが、セッティングについて一つだけ。おそらくタムの数は5つだと思いますが、2番目のタムを一番ハイピッチにチューニングしています。なんでそんなこと思いついたんやろ?このおかげで本作のサウンドは非常に独特となっています。

4.  King Crimson (1981-1984 Discipline3部作)

今でこそDisciplineはクリムゾンの作品の中でも「最も革新的な1枚」として評価されるようになりましたが、出た当初の評判はまあ散々でしたねえ。俺はずっと「こんな音楽は他に存在しない」「黙って聴け」と周囲に押しつけまくり、顰蹙買ってましたが。
フリップ翁自体は、実は本作でそれほど新しいことをやってるわけではありません。基本的なアイディアは既に「太陽と戦慄」で明確になっていました。むしろディスコビートとの融合をテーマに呼んできたアメリカ人二人が、それぞれ革新的ツールを持ち込んだのですね。象ギターとかチャップマン・スティックとか。
そんな状況下で、ビル先生はエレドラ(シモンズ)を全面導入します。本人がインタビューで「それまでのフュージョン的なフィルを完全に廃した」と言ってますが、ポリリズム+アフロビートを全面に出したDiscipline3部作において、セッティングもプレイスタイルも完全に変わります。

まず、ハイハットがなくなります。左足にはおそらくシモンズコントローラのフットスイッチを配置。その代わりに、パーカッシブなサウンドの要・オクタパンが加わります。
Disciplineの頃はまだ比較的シンプルだったセッティングは、Three Of A Perfect Pairになると完全に要塞化ww シモンズの壁+パーカッション置き放題になります。
百聞は一見に如かず。1984年来日時のビデオでその全貌が解ります。40分10秒当りからのIndisciplineが特に解りやすい。

https://www.youtube.com/watch?v=ANCC7Bkr2lc

三部作は本当にどこを切っても凄くて、私が好きなビル先生のプレイをツラツラ挙げてみても

Elephant Talkでいきなりぶちかますアフロビート、そしてFrame By Frameのねじれ加減
・Indisciplineのキレまくりインプロヴィゼイション
・Thela Hun Ginjeetのとんでもない疾走感、そしてDisciplineのドライブ感(16分の15もしくは19拍子だぜ?)
・Waiting Manのエスニック風味たっぷりな電子パーカッション
・Neuroticaの狂気としか思えない暴走ぶり
Three Of A Perfect Pairの超絶四肢独立。いやこれですね、筆者は「絶対ハイハット(シモンズプログラム)だけオーバーダブしてる」説を持っているのですが、確信はありません。もし同時プレイならホンマ超絶技巧。
・Nuagesの、もうなにがなんだかわからないプログラミングドラム
・そしてIndustry~Dig Meで極北に達する前衛ドラミング。リズム全く刻んでないしな。
・最後の最後、「太陽と戦慄パートIII」はまたも超絶ドラミング。これ、何やってるか未だに全く分からない。ビル先生は「スタジオワークだとホンマ強烈」と言われてきましたが、まさに面目躍如ですね

あ、そうそう。
「Beat」「Three Of A Perfect Pair」では、例の「スポコン」スネアサウンドがほとんど聴けません。むしろどっしりしたチューニングのスネアを使っています。フリップ翁の指示か?

このころのビル先生のインタビュー、印象的だったので全文覚えています。
「ロバート・フリップはとても気難しい人でね。何をやっても喜ばなかった。一緒にやっていて楽しくないんだ。皆の思っている通りだよ(笑)」
…先生、容赦なさすぎww

さて、Discipline3部作終了のタイミングで、いよいよEarthworksが始まるのですが。
…長い。長くなり過ぎた。
ということで、残りは後篇に譲ろうと思います。

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