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Orphans

もう外はとっくに明るくて、可燃ごみを捨てにいく途中のおばさんが窓から見える。制服を着る。初めて一睡もしないで朝になった。だから今すごく疲れてる。なのに眠いわけじゃなくて、それに寝てる時間もじゅうぶんにはない。でも寝起きのふりして一階に行って眠そうな声でおはよ、と言う。今日日直だから朝食べる時間ないや、ごめんね、と言う。ごめんね。


いってきます、と言う。車庫からはみ出たオートバイを見やる。昨日、初めて後ろに人を乗せた。

あの子はまだ来ていなかった。チャイムが鳴っても来ない。1限目が始まっても来なかった。

そろそろ2限目が始まる時間だけど、ぼくはもう教室にはいない。海沿いの道路を走る。風が冷たい。
ヘルメットを取って、体育座りで海をみつめるあの子をみつめる。
あの子は時々腕で目を拭ってる。泣いてる?
散々振り回しといて、なんだよ。


あの子が立ち上がる。突然後ろを振り向いたから、ぼくと目が合う。
じっと見てる。ぼくもとりあえず見てる。コンビニよりもガソリンスタンドと灯油売り場しかないこの町で生まれて、育って、逃げられなくて、それはあの子もそうで、ぼくはもう諦めてて、あの子はわからなくて、それに泣いてて。
あれこれ考えたって根本的な何かが変わるわけじゃない。ぼくたちはここに住んでるし、高校生で、ただのクラスメイトだ。

運命、という言葉があるが、ぼくは全部が偶然で適当で気まぐれだと思う。おかしいかな?
あの子はまだぼくを見つめているが、ぼくはヘルメットをかぶってアクセルを回す。



まだ外はじゅうぶん暗くて、アパートの街灯が眩しい。学校とは逆方向に行く電車を窓からみつめる。多分始発。昨日寝てないのに、今日も早くに目が覚めた。こないだの夜のことが嘘みたいに当たり前の日々が戻ってきた感じ。
これでいい、と言い聞かせる。これでいい、これで。


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