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【3分で読める】「夜のピエロ/Ado」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞分析】

【あらすじ】
俺の大好きな歌い手が、スマホ画面で歌っている。
Youtubeアプリの遅延に苛立ちながらも、俺はYoutubeアプリの音量を最大まで上げる。

チェーンの牛丼屋。飯を食う俺以外に、客は誰もいない。
次の仕事まで、あまり時間は残されていない。急いで残った飯を口に流し込み、外へ出る。流石の歌舞伎町でも、深夜は人が少ない。

ネオンの灯りが俺を照らす。俺は馴染みのあるこの街が、愛おしくもあり、大っ嫌いだ。

次の撮影現場はここからそう離れていない。
だから、いつもより長めに休憩しても問題ないはずだ。
この判断が間違っていた。

「前の撮影、前倒しになったって。今すぐ来れる?」
先輩からのLINEが入ったのは、ちょうど牛丼屋の発券機でボタンを押したタイミングだった。550円を無駄にする訳にもいかず、悩んだ挙句、俺はその券を店員に手渡した。店頭のポスターに記載されたキャッチフレーズ「早く、安く、美味しく」を信じることにしたのだ。

遅刻確定だ。しかし焦りは感じていない。どうせ遅刻するなら、しっかりと休むべきだとすら思った。
新人カメラマンの仕事は、思っていたよりも体力的にハードだ。機材運搬や雑用に駆られ、常に立ちっぱなしで、心も身体も休まる暇がない。今日のように深夜に駆り出されることだったある。

それにしても、牛丼が提供されるのが遅い。
思わず舌打ちをしてしまいそうになる。全て俺が悪いことは分かっていても、何かのせいにしたい気分だった。

イヤホンを耳に挿して、いつものようにYoutubeアプリを開く。仕事でしばらくみれていなかった分、新しい動画が溜まっている。急上昇動画を眺めていると、とあるMVに目が止まる。俺が学生時代から好きだった歌い手が投稿主だった。

刺激的なバンドサウンドに飲み込まれない彼女のパワフルな歌声。
彼女の唯一無二な歌唱は相変わらず魅力的だ。音楽的なことは何も知らないけれど、彼女の音楽に対する真摯な姿勢が痛いほど伝わってくる。

喉を潤そうと水を一気に飲み干したその瞬間、俺は彼女と目が合った。
そして唐突に画面がブラックアウトする。スマホの充電が切れたのだとわかった。

真っ暗な画面には俺の顔が反射していた。
虚ろで生気の無い目。こけた頬と、少し広くなったおでこ。途端に、俺を吐き気が襲う。

なんとか牛丼を食べ終えた俺は、店を出て腕時計を見た。
間に合わないことがわかっていても、牛丼で腹がいっぱいでも、俺は走って現場に向かわなくてはならない。重い鞄を持ち直し、俺は駆け出した。


彼女の、希望に満ち満ちた目が脳裏にチラつく。
俺にもかつてそういう時があったんだ。
熱意も、努力も、才能も、実績も、評価も、芸術性も、センスも、知識も、経験も、夢も、希望も。全てを見据えていた時期。

社会では、利害関係が木の根っこのように地面の中を這いずり回っている。俺がその養分でしかないと気づいた瞬間、それらは急速に失われていった。
気づいてしまった俺は、まるでピエロのように振る舞い続けた。しかしそれにもいつか限界がくると、心のどこかで気づいていたのだ。

夜の歌舞伎町。街頭の照らす道を歩く人は、俺以外にいない。
派手に輝き主張するネオンサインは、果たして誰の為に光り続けているのだろうか。

終電はない。帰りたくたって、自力では家に帰ることすら出来ない。そういう時間帯だ。
俺が居なくても撮影は進む。俺が遅刻したことにすら気づかれないかもしれない。

それでも。求められていなくても、俺は撮影場所へと駆け出した。
とにかく今は何もかも忘れて、朝まで踊り続けていたいと思ったのだ。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
別の記事を投稿したばかりですが、Adoさんの新曲に感化されてしまい、結局最後まで書き進めてしまいました。

テーマは「クリエイターの”苦悩”」。
人は誰かから必要とされなければ、生きていくことが辛いと感じてしまいます。特にクリエイターは、作ったモノが誰にも評価されない”絶望”を知っていますから、他人の目に敏感になりがちだと思います。
(逆にみてもらえた時の感動はひと塩。その瞬間のために、あらゆるクリエイターは努力し、一喜一憂するのです。)

楽曲を聴きながらそんなことを考えさせられました。
その結果、このような物語が出来上がりました。
Adoさん。いつも刺激的で最高な曲をありがとうございます。

民奈涼介


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