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どこにいっちゃったんだろうね

 ソーシャルを眺めて、今日も入る先を探した。ふと、フェイバリット欄の彼に目がいった。彼は今日も、ぶいちゃをやっているようだった。
「緑ステータス」                 
 トリガーを引く。画面の右上で、今日も土星と天王星が並んでいた。
 そういえば、僕はこの人によく会いに行ってたな──なんだか、顔を見なくなって、すごく時間がたっている気がした。思い出せば、彼は気前が良く、話が面白く。それでいて、すごく優しい人だった。だから、僕みたいな軟弱物は、構まってもらいたくてふらりと寄ってしまう。ついつい会いにいってしまう。そんな日々も、今は昔だった。
 寂しくなる。なんだろうな。そういう人って、なんか大抵会えなくなって、気がつけばお互い、声も名前もうろ覚えになって、記憶の隅っこにいっちゃうんだよな。
 僕なんかが好きになるような人は、大抵すごく人格者で、みんなその人のことが好きだから、どんどん友達が増えて、僕の知らないところにいっちゃって──同じところで足踏みしている僕とは違ってどんどん前に進んでいく。そう、君は本当に、本当に素敵な人だったから。
「あのさ。僕はここにいるよ。元気にしているよ」
 彼に直接伝える勇気は無かった。リクインなんて、やっぱり押せるわけがない。

今日はどこにも行けなかった。この寂しさは、彼がいないと埋められない気がしたからだ。


 僕は写真フォルダを見た。遠く、ワールドの隅から全体を俯瞰した写真。その中に、彼はいた。小さく映る、彼の姿。そして、周りには僕の知らない人たち。
 
 僕はカメラの機能を使って、背景と人を別々に撮っていたから、彼以外をソフトで消すことができた。まだお互い友達が少なかった、二人だけの時間を思い出す。

 伝えられなかった言葉は、行間の中で立ち消えて、いつしか、もう伝えることもできなくなってしまった。

 あのさ。君は今どこにいるんだい。アバターが変わっても、多分顔をみたら君だとわかるはずだ。名前が変わっても、声でわかる──。

 そんなことを思っても、彼に声はかけられなかった。あの頃とは、もう、何もかも違う気がした。僕にあるのは、この捏造された写真だけだった。

 僕の隣でパソコンが音を立てて空回りしている。ああ。本当に僕は馬鹿らしいなぁ。

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