福岡のやばい父ちゃん 第2話 「臆病」

父は、豪快なわりに臆病な所があった。

まず犬が苦手だった。

犬を目の敵にしていた。

そして犬がいかに危険か教えてくれた。

犬は走って逃げると追いかけてくるという法則を僕に教えてくれた

そして父は毎回走って逃げた。

大の大人が犬に追いかけられる。

室内犬が流行り、のら犬も少なくなり、今では漫画でしかお目にかかれない光景だ。

そして高い所が苦手だった。

「かえって危ないですから」

東京タワーで目をつぶって歩く父をガイドさんが何度も注意していた。

ロープウェイにも乗れなかった。

母と兄と僕がロープウェイで頂上に行き、景色を眺めていると。
双眼鏡に自力で頂上に行こうとする父が見えた。

父があきらめ引き返したのを確認して下山した。

他にも母のいびきの音を暴走族が来たと勘違いして走って逃げたこともあった。

枕元に、念の為という木刀が置いてあった。

度を越えた臆病者だった。

そんな父は母にだけ強気なのだが、息子二人にも気を使い、僕も兄も怒られたことがなかった。

兄は曲がったことが嫌いなので、父のだらしない性格が許せなかった。

そんな中

事件が起こった。

父がベランダで吸うと約束していたタバコを隠れて台所で吸った時のことだ。

兄は激怒し、こともあろうに父に熱湯をかけてしまった。

父はいつものように、笑顔で謝るかと思ったがこの時は違った。

怒りの表情をうかべ、兄に叫んだ。
「お前がその気ならこっちにも考えがある!」

そう言うと自分の寝室へ入って行った。

寝室には木刀がある。

僕は止めなきゃ行けないと思いつつ、いつもとは違う父を目の前にし呆然としていた。

すぐに寝室の部屋が開き鬼の形相の父が表れた。

おそるおそる父を見ると、木刀は持っていなかった。
その代わりにリュックを背負っていた。

父はそのまま家出した。

父の考えとは木刀でぶん殴ることではなくリュックに荷物を詰め家を飛び出すことだった。

男は背中で語るというが父の背中からは言い訳しか聞こえてこなかった。

父派の僕だったが、この時はさすがに僕は父を情けないと思った。

結局父は友達の家を順番でお世話になり、時には漫画喫茶に泊まったようだ。

家出少女なら補導され家に帰ってくるのだが、家出中年は中々補導されなかった。

最終的には、母がやっている食事所の二階を増築し住み始めた。

食事処には、高い器があった為に父は母にとって都合の良い泥棒避けとなった。

母が熱湯をかけた兄のことをほめかけるのはこれから半年後だ。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

41

福岡のやばい父ちゃん

福岡のやばい父ちゃんの話
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。