男子高の生徒会室

「君のルーツは生徒会室でしょう」

なるほど…と思ってしまったのだ。先日、キャリアの悩みを中高同期に打ち明けた際、返された言葉だった。自分は中高6年間を神奈川の男子校で過ごし、そのうち3年間は生徒会に属して、高校棟にある「生徒会室」が昼休みと放課後の居場所になっていた

生徒会室には、顧問は最低限しか顔を出さなかった。思春期の中高生には、大人の監視が行き届かない「居場所」が要る、という配慮があった(らしい)ことを最近知った。当時は8割ぐらい意味をはき違えて、無法地帯を作っていた

無法といっても、さすがに法律は破っていない。ただ、秩序とか校則はないに等しかった。まず、放課後にマージャンを始める集団がいた。しかも彼らは生徒会でも何でもなかった。目の前が下駄箱なので、扉を閉めておかないとジャラジャラ音が響く

生徒会室のPCが、校内のネットワークにつながっていない(ログインしなくていい)のをいいことに、アニメやゲームのデータを持ち込む連中もいた。後に「セカイ系」や「泣きゲー」と括られる作品群の教養を、ここで身につけた

隣は生物教室で、放課後になると生物部員が飼っているいきものを持ち込んできたりもした。学ランの袖にハムスターが隠れ込むのがかわいいのだ。シュールストレミングを開けてもいいか、と頼まれたこともあるが、さすがにそれは断った記憶がある

こんな状況なので、メイドのコスプレを持ち込む奴がいるぐらいでは、誰も驚かなかった。「どこで買ったのだ」と訊ねたら戻れなくなる気がした。問題が起きたのは本人が着た後だった。「次は誰に着せるか」。着せたら似合ってしまうのがいた。可哀想にリアルなボディタッチをされていて、目を背けたのを覚えている

こんな書き方をすると、ラノベの主人公みたいにお前だけ冷静だったのか、と突っ込まれそうだけど、もちろん自分もこのおかしな集団の1人だった。ただ、生徒会長というポジションで責任を被されるので、一線を越えないよう気にはしていた。たとえば、備品を壊しそうな場面では全力で止めたりした

これがルーツと分かったところで、何を目指せばいいのか、というのが今の悩みだったりする。単純に大企業の歯車をやるのが合わないのかもしれない。あの頃に戻りたい、というような感傷にはならないけど、あのノリで仕事ができたら、何か面白いものをもう一度作り出せるんじゃないかなあ、と思ったりはする

あの居心地のよさは、何によって作られていたのだろう?というのを考える。モラトリアムといえばそれまでなのだろうけど、幽霊部員とか帰宅部員とか、居場所のないひとが誰も否定されない空間で、下校時間ギリギリまで議論して、アイデアの出し方、膨らませ方を覚えていったのは、間違いなく今につながっている

なんていうのを、某映画がストレートなゼロ年代セカイ系だったせいで、中高時代をフラッシュバックして回想してしまったのだった

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