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あるどうでもいい趣味

あるどうでもいい趣味を、社会人の先輩から伝授されたのは、大学3年の春だった

サークル活動先の岩手に向かうため、社会人の先輩と、都内から東北自動車道を北上していたのだが、サービスエリアで休憩するたびに、その先輩はご当地ジャンクフードを屋台で買っていたのだ

「そんなのよくある光景だろ」と思うかもしれない。いや、違うのだ。あるどうでもいい、こだわりがあったのだ

まず、人の並んでいない、いかにも人気のなさそうな屋台を狙う。この時点では、待つのが嫌なんだろうか?ぐらいにしか思っていなかったのだが、そうではなかった

肉まんを1つ頼むとする。両手でちぎり、ジュッと出てきた肉汁を吸う。まだ湯気が出ている状態で、ハフッハフッと、少しずつ食べ始める

「ただのグルメじゃないか」と思うかもしれない。いや、違うのだ。時間をかけてゆっくりと、店の前で食べつづける。すると、目の前を通った家族づれが、この人の姿をチラッと見る。そして子どもが呟くのだ。「ママ、あれ食べたい」

先輩はひとこと「ね、並んだでしょう!」なんともうれしそうな表情を浮かべていたのが忘れられない。つまりこの人の狙いは、自分が食べること自体ではなく、美味しそうに食べるシーンを見せて、行列を作らせることだったのだ

「実況マーケティング」と先輩は呼んでいた。実にどうでもいい趣味である。やはり、このサークルは変な人間の集まりなんじゃないかと思った。ところが、不思議なことに、次のサービスエリアから自分もやりたくなったのである

いくつかコツが要った。まず、人が並んでいない屋台を見つけるのが意外と難しい。そして、本当に誰もいないと、ただ1人で食べるだけになってしまう。人が近づいてきたタイミング、それも家族づれやカップルが来たときが重要なのだ

そんなわけで、それ以来、自分もサービスエリアに降りた際には、串焼きやまんじゅうを買って、目の前で食べるようになった。東北道の場合、福島辺りの切り売りされたモモやメロンも効果的である

蛇足だが、サービスエリアといえば先週、東北道上り(東京方面)の佐野SAでスト騒動があった

在京キー局はとりあえず騒げばいいと思って「ラーメン楽しみにしてたのに…」みたいなコメントを客に言わせ、ワイドショーに流すが、あれはおかしい。よほどの佐野ラーメンファンなら別として、なぜ安達太良や国見で白河ラーメン食べなかったのか、疑問が残る

「おみやげが買えなくて困る」という客も映っていたが、かなりおかしい。あそこは東北各地や那須高原でおみやげを買い忘れた人のためのサービスエリアである。栃木の佐野まで戻ってきて思い出す時点で、だいぶ後ろめたい。さのまるグッズがどうしても欲しかったなら、まだ分かるのだが

「本当にどうでもいい話だったわ」と思われたかもしれない。だが1つ約束する。これを読んでいるあなたも、次に車で旅をする際には、屋台で試しているに違いない

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