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僕の彼女は寄せ箸系

僕は季節に関係なく鍋料理が好きだ。だから、休日は彼女と鍋料理をゆっくり食べることが習慣になっている。野菜やお肉をたっぷり食べることができて、シメに麺まで食べられるなんて、なんて贅沢なんだとつくづく思う。

初めて彼女と鍋をつついたのは2年前の冬。こたつでヌクヌクしながら食べたモツ鍋は最高に美味しかった。僕が「白いご飯も一緒に食べたい」とおねだりしたときに、「鍋のときはご飯要らないでしょ」と言いながらも彼女はホカホカのご飯を用意してくれた。とても幸せだった。

でも、このときに気づいたことがある。付き合って半年経って初めて気づいたことがある。一緒に鍋を食べなければ、一生気づかなかったかもしれない。

僕の彼女は寄せ箸をする人だった。

ショックだった。確かに、彼女は全体的に食べ方が綺麗ではなかった。それでも、これまでは違和感を感じることはあっても、嫌悪感を感じることはなかった。彼女は年下だったし、何より可愛かったからなんでも許せた。むしろ余計に可愛く思えることもあった。なんでも美味しそうに食べるから。

でも、寄せ箸は無理だった。嫌悪感しかなかった。

指摘しようか迷った。指摘することでこの幸せな雰囲気が壊れてしまうかもしれない。しかし、これから鍋料理をするたびに何回も同じ気持ちにならなきゃいけないのは嫌だ。でも、彼女はちょっとしたことで拗ねる性格だ。これまでも何回もあった。

さらに、僕も食事のマナーが完璧かと言われたら全力で頷くことはできない。昔付き合った彼女に、「蕎麦をすする音が気に障る」と怒られたことさえある。他人に偉そうに言えるような立場にない。

僕は、彼女に指摘するのはやめることにした。僕がもっと心の広い人間になればいい。寄せ箸なんか許せる人間に成長すればいい。可愛い彼女のやることなんだから、ニコニコしながら見守ってあげられるようになれよ。


こうして、2年が経った。

でも、寄せ箸は無理だった。嫌悪感しかなかった。

僕の彼女に対する愛情に変わりはない。むしろ愛情は深まるばかりだ。でも、寄せ箸は無理だ。この2年、心から鍋を楽しめていない自分がいる。

どうしよう。今更言うのか。「寄せ箸はやめてくれ」と。

言ったら大ごとになってしまいそうな気がする。そんな予感がある。

でも、もう耐えられない。この2年、外食で鍋料理を選ぶことはなかった。「鍋は家で食べられるから外食しなくていいじゃん」と逃げてきたが、「最近、気になる鍋料理があったから食べに行きたい」と言ってきた。もう逃げられない。寄せ箸をする人と一緒に食事をするのは嫌だ。

よし、言おう。

「ねえ、寄せ箸やめない?」

僕は勇気を振り絞って言った。


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