ブランディングの工程

ブランディング定義の工程

ブランディングと聞くと抽象度の高いマーケティングやデザインタスクでどう定義し実行すれば良いか分からないことが多いのではないでしょうか。
私もプロジェクトでブランディングを扱うにあたり、色々と調べながらの身でしたが、あまり体系化されたものが世の中に無い気もしているので、実際にプロジェクトで行った工程を覚書も兼ねてシェアしたいと思います。

まず、ブランディングと聞くとCI:コーポレート・アイデンティティという単語が思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。さらにCIと聞くと企業ロゴが連想されることも多いと思います。
しかし、CIとはもっと広い意味では、 企業の存在理由や提供価値を結晶化したもので、自己同一性を伴って市場に対して浸透効率良く認知されるための企業戦略のことを指し、企業ブランディングにおける総称のようなものです。

コーポレート・アイデンティティ (以下 CI ) は、企業のあるべき姿を体系的に整理し、それに基づいて自社の文化や特性・独自性などをイメージ、デザイン、メッセージとして発信することで会社の存在価値を高めようとするビジネス手法である。

引用:Wikipedia

さらにCIを因数分解すると、CIはMI:マインド・アイデンティティ、BI:ビヘイビア・アイデンティティ、VI:ビジュアル・アイデンティティの3つから構成されています。
MI、BI、VIそれぞれの定義に関しては、こちらのサイトが良くまとまっていました。

ここでも簡単に触れると、
MIは企業理念にあたり、BI、VIを決める指針となるものです。
BIはMIを基にした行動指針を指し、企業やプロダクトの自己同一性のある振る舞い方を規定するものです。
VIはMIを基にした視覚表現の指針を指し、MIを市場に効率的に浸透させるためのコミュニケーション要素を規定するものです。

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では、ここからは各構成要素をどう定義して行ったかを書きたいと思います。

MI:マインド・アイデンティティの定義

MIは、BI、VIの定義をするための下地のようなイメージです。
これ自体がアウトプットとして世に出るわけではありませんが、ここがしっかり定義出来ていないと、その後のアイデンティティにブレが生じてしまうので、一番重要な概念となります。具体的には以下の作業を行いました。

・エグゼクティブインタビュー
・ワードクラウド
・イメージボード
・ブランドナラティブ

エグゼクティブインタビューとは企業家やPOに対して、創業の原体験や想い、なぜこのサービスを始めたのか、どんな世界を創りたいのかをインタビューを行い掘り下げ、事業に携わるステークホルダーの共通認識としてまとめる作業です。

そこからサービスの未来をイメージできる単語を導出し、ワードクラウドを作成します。ワードクラウドはエグゼクティブインタビューの内容を具体化する工程ですが、それだけだとまだ直感的にイメージが伝わらないので、単語の行間を埋めるようなビジュアルイメージを収集します。これがイメージボードです。

そして最終的にこれらの作業を経て、自分たちの目指す世界と、それによってユーザーや世界はどのような未来を手に入れることができるのかを端的な文章としてまとめたものがブランドナラティブとなります。
ここでポイントなのが、 あくまで主人公が自分たち(事業者)で終わらないこと。あくまでユーザーがどうなるかを想定することです。

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Photo by Ev on Unsplash

戦略への転換

起業家やPOの想いが強いサービスであっても、この時点から市場やユーザーに主語を転換し上手く結びつけておくことで、ブランディングがプロダクトやマーケティング戦略として機能する下地をつくれます。
自社サービスは現状どのようなユーザー層を捉えられていて、その理由は何かを認識するためのユーザー調査を行い、市場ニーズと企業理念が結びついたストーリー・事業戦略を構築し、それに矛盾するプロダクトの機能やマーケティングの訴求があった場合は、それも変数として整形し直します

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機能は企業理念と市場ニーズから、機能的価値と情緒的価値に分け定義しておきます。そうすることで、プロジェクト毎の機能やデザインの要件定義時に再現性ある意思決定ができるようになります。

ターゲットは機能的価値を重視する論理的な層と、情緒的価値を重視する感覚的な層に分けて定義し、重み付けをしておきます。そうすることで、各タッチポイントごとに、狙うターゲットに相性の良い訴求が行えます。

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ブランドナラティブをまとめる際に考えていたことは、以下の記事にもまとめています。

BI:ビヘイビア・アイデンティティの定義

MIが定義できたらその事業像を形作るために、法人としてどのような振る舞いをしていくべきかをBIとして定義しました。
BIは定義したMIを持った法人像が、対外的にも首尾一貫したアイデンティティを持っていると見られるように、その構成要素である従業員の演じ方を定義すると言い換えられると思います。
具体的にはユーザーとのタッチポイントになる全般のコミュニケーションが定義対象として挙げられます。

・カスタマーサクセスにおけるコミュニケーション
・SNSにおけるコミュニケーション
・マーケティングにおけるコミュニケーション
・登壇など従業員の対外的なコミュニケーション

BIの定義には、MIを擬人化したブランドパーソナリティを用意すると、チームで認識合わせがしやすくなると思います。

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定義した法人像を演じるには、それぞれのタッチポイント(コミュニケーション文脈やTPO)において、どんな振る舞いやコミュニケーションが適切かを各部門を跨いで定義します。

VI:ビジュアル・アイデンティティの定義

最後、MIを元にしたビジュアルコミュニケーションを目的としてVIを定義しました。
これが一番デザイナーがバリューを発揮する部分で、デザイナーが発信するブランディングのアウトプットはこの部分が多いと思います。
視覚情報は直感的に伝わるため、企業のMIの浸透効率が高まる効果を期待し、各アウトプットに適応していきます。

・ロゴマーク、ロゴタイプ
・プロダクトデザイン
・コーポレートサイトやLP、バナーなどマーケティングクリエイティブ
・名刺、封筒など発刊物
・Tシャツ、パーカー、マグカップなどノベリティ

VIの定義には、MIで作成したワードクラウドやイメージボードから共通項を導き出し、最小限のビジュアルエレメントとして再構築する作業を行います。
これはデジタルプロダクト領域ではUIデザインにおけるアトミックデザインの考え方にも似ており、最小単位のビジュアルエレメント(原子:Atom)を定義し、それを各クリエイティブの構成要素として適用します。そうすることで、全てのアウトプットに共通する「らしさ」を演出することができ、視覚情報が浸透効率よくサービス価値を想起させる役割を担います

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ビジュアルエレメントでは、形、色、展開例などを定義し、それを基準に企業ロゴやプロダクトデザイン、各種クリエイティブなどのより複合的な視覚表現を構成していきます。

まとめ

ブランディングで一番大切かつ大変なのは、定義しただけでなくそれを運用して市場のフィードバックを得ながらインタラクティブに企業の印象を構築していく運用面に入ってからだと感じています。

ここに書いたものは実際にプロジェクトで行ったブランディング定義の一例ですが、より体系的な理解には「デジタル時代の基礎知識ブランディング」が参考になると思います。

抽象度の高い概念でブランディングを説明するだけの本ではなく、実践的な事例で書かれたデザイナーが読んでも手触り感を感じる本だと思います。
ブランディングは企業理念からトップダウンに定義するものなのか、市場でのポジショニングからボトムアップに定義するものなのかや、企業理念と顧客体験・UXの融合など、そのほかにもしっかり理解できていなかったモヤモヤが晴れる本だったので、同じような悩みを持つ方は一度読んでみることお勧めします。

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