アオゾラペダル

 ちょうど25歳くらいの時だったろうか。中学生の頃からの友人から手紙が来た。場所は黒羽。
地名を書いてもピンと来る方は少ないだろう。そこは那須塩原駅からバスで15分ほどかかる僻地で、そして刑務所だ。
 刑務所からの手紙は、昭和から投函されたかのような一種の風情がある。
余計な装飾もなく、ただただ文字の羅列のみが許された物。LINEとメールに慣れ親しんだ僕には新鮮ささえ感じられた。

 なぜか忘れたが僕は彼に会いに行く事にした。好奇心が半分、そしてもう半分は憐憫だろう。

 千葉から黒羽に行くのはなかなかの苦労がいる。
まず千葉から東京駅まで行く。そして宇都宮駅行きに乗り換え那須塩原駅まで向かう。
お金がないから鈍行で行く。これがまぁ時間がかかる。
普段電車を乗らない僕からすれば、それはなかなかの重労働だ。

 僕は朝の5時に目を覚まし、身支度を素早く整えて6時には電車になった。
7時頃東京駅に着き、そして宇都宮行きの鈍行に乗り換えをした。

 季節は初秋。曇天に染まったら駅のホーム。冬服に衣替えした女子高生。
そんなものを眺めながら僕はイヤホンをつけ、「アオゾラペダル」を聴いた。
 アオゾラペダルは嵐の楽曲であり、スガシカオが作詞作曲したものだ。
青春を表現した曲であるが、そこにはメディアが描くようなキラキラしたような青春群像ではなく、もがきながらも自分と向かい合うような曲である。

 25歳の僕は人生に行き詰まっていて、やる事なす事あまり上手くはいかなかった。
そんな時だからこそアオゾラペダルは僕の心のヒダをくすぐり、そして世界をほんの少しだけ広げてくれた。

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