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『服従』(ミシェル・ウェルベック、河出書房新社)

2022年にイスラム政党がフランス大統領選に勝利する話。

パリで起きたテロ 、シリアからの移民問題など、現実にフランス人が感じているであろうイスラムに対する不安を炙り出した設定は見事。

そうした地政学的不安以上に僕がぞっとしたのは、インテリ階級の脆さの描き方だ。そこそこ成功した大学教授が、政権交代に伴い職を追われ、若いガールフレンドを失い、孤独と虚無感の中で社会的にリタイアしていく。そして最後はイスラム教に改宗し、恵まれた立場を享受する。それは彼にとっては、これまでの知的生活を放棄して、”それまでの人生とはほとんど関係のない”人生に踏み出していくを意味するが、そこに躊躇いはない。

彼がイスラム教に改宗する前に最後に聞いた質問は、「女性が衣服で身体の大部分を覆うイスラム教では、男性は女性をどう選ぶのか」ということだった。

そこそこ頭いいはずだけど自分で価値判断ができない人、自分で何も決められなくて周囲の雰囲気に流される人は、どこの国にも現実にたくさんいる。みんな長いものに巻かれ、あっさりと楽な意思決定をしていくというのはけっこうリアリティをもって想像できて背筋が凍る思いがした。

ウェルベックの辛辣なユーモアに感服。

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