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マネージャー兼社長としてマネジメントについてインタビューされた話【社内報より転載】

ディー・エヌ・エーの社内報の中には"マネージャーからマネージャーへ向けた、マネジメントのノウハウや考え方をシェアする記事コンテンツ"ということで「Manager Studio」という特集があります。

そこで以前僕が受けたインタビュー記事について、社内でわりと反響があったのですが、内容的に社外に出してもよさそうなものなので、会社に許可をもらった上で転載します。

(僕は先月いっぱいでマネージャー・子会社社長としての役割をすべて退任しているので現在はマネージャーではないため、すべて過去形の話になります)

だいたい以下のようなことを語っております。

・お客様と社員はどちらが大事ですか?
・組織図ってなぜ重要なんですか?
・部下のオーナーシップを高めるには?
・「ハッピーアワー」ってなんですか?
・部下が「転職したい」と言ってきたら?
・結局"マネジメント"って何ですか?

(以下、本文)

【Manager Studio #3】未来の組織図を描き、ゴールを明確にする。エブリスタ 芹川太郎が「メンバーのキャリア」に向き合う理由

『京都寺町三条のホームズ』や『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』をはじめとする話題の作品を輩出してきた、小説投稿コミュニティサイト『エブリスタ』。直近1年間でメンバーの人数は約2倍に増えました。

そのチームを牽引するのが、ゲーム・エンターテインメント事業本部 IPプラットフォーム事業部開発三部部長兼株式会社エブリスタ代表取締役社長(注:2018年1月当時)の芹川太郎さん。彼が大切にするポリシーは「メンバーのキャリアと向き合うこと」だと言います。

そのチームを牽引するのが、ゲーム・エンターテインメント事業本部 IPプラットフォーム事業部開発三部部長兼株式会社エブリスタ代表取締役社長(注:2018年1月当時)の芹川太郎さん。彼が大切にするポリシーは「メンバーのキャリアと向き合うこと」だと言います。

彼のマネジメントには、どのような想いが込められているのでしょうか。芹川さんが実践する組織マネジメントの方法と合わせ、メンバーのキャリアとの向き合い方について話を聞きました。

まず「何を優先すべきなのか」を明確にする

――芹川さんが組織マネジメントで大切にしていることを教えてください。

芹川:1つ目は、マネージャーとして「何を優先すべきなのか」を意識することです。エブリスタというサービスにおいて、最も大事なのは「お客さまにきちんと価値を届ける」こと。2番目が「事業を成功させる」こと、そして3番目が「メンバーを成長させる」ことです。

長期的にはこれらすべてが同時に実現できないと事業として成立しないのですが、これら3つには明確に優先順位があると考えていて、それはお客さま→事業→メンバーであるべきと考えています。例えば、メンバーを成長させたいがために、本来は優先すべきでない事業に取り組む、といったことは望ましくありません。

基本的に僕らはお客さまに価値を届けるために集まっているはずなので、「はじめにお客さまありき」です。一方で、価値を生み出すにはお金や時間といった資源を使うので、継続的にお金がまわるような仕組みとしての事業が次に大事です。その2つが成り立たないことにそもそも僕らは時間を使うべきではないし、その2つを成り立たせることを通じて自己実現できる人がそこに関わるべきだろうというのが基本的な考え方ですね。

組織図を描き、未来をイメージする

芹川:個人の成長機会を作るには事業の成長が手っ取り早いですが、そのためには組織が3か月先や半年先にどのような状態であるべきかをプランニングする必要があります。そこで僕が実践しているのは「未来の組織図を描く」ということです。

――具体的にどのような組織図を書いているのでしょうか?

芹川:エブリスタという事業において、組織全体がどんなミッションでどんな未来に向かって、そのために何がなされているべきかをまず先に考えます。そこから、各チームでは誰がどんな役割で何をやっているのか、というところまで落とし込んでいます。

組織図のアップデートは大体3か月に1回くらい。メンバーの入退社はもちろん「この数か月間で、あの人はすごく成長したな」とか「そろそろあの人が学び尽くしていると感じているはずだから別のチャレンジを与えよう」とか「あの人はあと数か月でこれくらい伸びるはずだ」とか、いろんな変化を見越してアップデートしておくことで、各メンバーや各チームの状況、目指すべき方向性を見失わないようにしています。

――3か月先の組織図と半年先の組織図の粒度には、どのような違いがありますか?

芹川:3か月先の組織図は具体的なオペレーションレベルまで落とし込みますが、半年先や1年先の場合は、組織が目指すべき全体的な未来図イメージを描きますね。

メンバーやグループリーダーが能動的に動ける組織づくり

芹川:エブリスタに所属しているメンバーは、エブリスタというサービスが好きで仕事に取り組んでくれています。設立した2010年からみんなで育ててきたからこそ、それぞれ思い入れがあるんですよね。ロゴにしてもビジョンにしても、僕が一方的に掲げるだけではメンバーが持っている想いとのズレが生じて、「自分ごと化」できなくなってしまうのです。

実は以前、エブリスタのロゴを変更するときに、クローズドな少人数で考えたものをメンバーに提案したら反対されて、改めてみんなからインプットをもらって作り直したことがありました。そのときに自分の決め方を反省して、エブリスタはみんなで育ててきたサービスだからこそ、その価値を言語化して理解するプロセスはトップダウンではなくボトムアップで巻き込んでいかなければいけないんだなと思ったんです。

――思い入れが強いメンバーだからこそ、上から落とすだけではなくメンバーをちゃんと巻き込んで行くことが重要なんですね。ただ、組織の規模が大きくなるにつれて、芹川さん1人で組織全体を見続けることは難しくなるかと思います。

芹川:そうですね。なので、最近は現場レベルのマネージャーも部内に置いていて、メンバーの管理を分担するようにしています。

――現場レベルのマネージャーにどこまでアドバイスするか、というバランスはどのようにしてとっていますか?

芹川:「メンバーの管理」と「業務上の意思決定」の場合によって分けて考えています。メンバーの管理については、役割分担や評価など細かいレベルのことまで「こうしたほうがいい」という指示は出さないように意識しています。意思決定を歪めるほどの強制力が必要以上に働かないようにケアはしつつも、組織全体として評価軸がずれたしりないように、たまに自分の考えを伝えるように心がけています。個々のメンバーと1on1などで話すときも、あくまで当事者間で話しにくいことを聞くというサポートの役割でにとどめているつもりです。

一方、事業に関するエブリスタの最終責任は僕が負っているので、業務上の意思決定においてははっきりと意見を言う場合もあります。基本的には権限はできるだけ委譲した上で、委譲した範囲の意思決定については口を出さず、結果で評価すべきだと考えています。とはいえ、例えば「お客様に対して不誠実かもしれない」と思ったときなど、エブリスタとして譲るべきではない判断の場合などにははっきりと自分の意見を言いますね。

タテのつながりだけではなく、ヨコのつながりも広げていく

芹川:メンバーが少し悩んだとき、気軽に頼れる関係が広くできていたほうが仕事に取り組みやすくなります。なので、今担当しているIPを扱う事業部全体で「いかにヨコの連携を取っていくか」という議論を他のマネージャー陣としながら試行錯誤しています。

その取り組みの一環として、毎週金曜日の夜は「ハッピーアワー」という時間を作って、3つの部署横断で有志の飲み会を開催しているんです。ただあまり無理強いはしないように1時間と決め、早めに始めて早めに解散して、その後はそれぞれ好きな時間を過ごしてもらうようにはしています。

――いつも一緒に働くメンバーではなく、違う部署にいる人たちと交流する機会を積極的に設けているんですね。

芹川:今までは交流がゼロだったヨコのつながりが、「ハッピーアワー」によって活発になるのは良いなと思います。ただあまり大きな飲み会にしても会話しにくいので、多すぎない人数で。実際、メンターが退職してしまった新卒メンバーの新しいメンターがそこで決まったこともあるんです。

メンバーのキャリアと向き合う

――芹川さんは昨年、社長賞を受賞された際のインタビューで「組織マネジメントをする上では、メンバーのキャリアと向き合うことも重要視している」というお話をされていましたよね。なぜ、メンバーのキャリアと向き合うことが大切なのでしょうか?

芹川:僕は「社員1人ひとりが”自分”株式会社の社長だとするならば、誰もが一番いい条件で仕事すべきだ」と思っています。「今の仕事に一生懸命取り組み、さらに高い目標上を目指して行くことが自分にとってベストだ」という意識をみんなが持っている状態の方が、チームのモチベーションがより上がり、マネジメントする上ではベストなんです。

――では、もしも「DeNA以外の企業でチャレンジしたいことがある。転職したい」とメンバーが言ってきたらどうしますか?

芹川:本人に確固たる意志があるならば、引き止めません。今の仕事よりも自分にとってプラスになる仕事が他にあるのであれば、エブリスタにとっては痛手でも、本人にとっては希望の仕事に就いたほうが自分のためになるでしょうから。だから今までも転職を相談されて、実際にその決断を応援したことはありますよ。

――とはいえチームのコアメンバーがいなくなってしまうとなると、転職を応援するのは正直なところ勇気がいるのではないでしょうか。

芹川:抜けるタイミングはできるだけ調整しますが、基本的には応援します。騙し騙しで「とりあえず、もうちょっと頑張ってみようよ」と説得しても、モチベーションは維持できないですし、やっぱり本人に後悔させたくないですからね。

実はエブリスタでも、エンジニアのモチベーションが上がりにくいらない時期があって苦心したことはありました。また当時『エブリスタ』で使っていたPerlというプログラミング言語を扱えるエンジニアが採用市場からもどんどん減ってきていました。長期的に運営に携わる人的リソースを確保できないのは、事業としては存続に関わる大きなリスクです。なので、思い切って1年以上かかるフルリニューアルプロジェクトに踏み切ることにしたんです。

その結果、大きなリニューアルプロジェクトに関わることや、最新の開発環境を整えながらサービスづくりをすることに魅力を感じてくれるエンジニアが若手中心に集まってくれるようになりました。環境を整える投資の期間として合理的な判断をできたかな、と思っています。マネージャーは、メンバーのやりがいを持って仕事に集中できる状況を維持するために「アサインしている仕事が、果たして本人にとって魅力的なものになっているか」を常時考えるべきなんだと思います。

――今回芹川さんから聞いた5つのマネジメント術は、どれもメンバーのキャリアと向き合うことを大事にした上で実践されているように感じました。芹川さんにとって、マネジメントとは何でしょうか?

芹川:……難しいですね(笑)。僕にとってマネジメントは、あくまで事業を成功させるための1つの技術です。正直「マネジメントがしたい」というよりも、世の中に大きな価値を生み出し届けるために自分の役割として一番生産性が高いからマネージャーという職務を担っているんだと思います。その意味では、エンジニアにとってのプログラミングのように、事業を成功させるために必要な1つの技術に過ぎないと考えています。

つまりマネジメントは、「世の中に価値を届けるためにヒトやカネという資源を最大限に活用する技術」ということ。「チームメンバーを管理しモチベートする技術」は、その一側面に過ぎません。

――芹川さんご自身にとってマネジメントは、あくまで「世の中に価値を届ける」という目的のための手段なんですね。

芹川:僕は自分とチームメンバーの人間関係を「上司と部下」とはあまり考えていないんですね。

ただ、そもそも企業活動においては
・個人への成長機会(および給料)の提供
・組織への事業成長への貢献
という形での取引が、フェアに成立していないといけません。

だから僕はマネージャーという役割として、その調整を行いますし、優秀な人材を巻き込んでいけるように組織をリードしていきます。それが多分僕にとってのマネジメントです。もともと外資にいたのでそこはかなりドライだと思うけど、同時に常にフェアであろうともしているつもりです。一方で個人と個人の関係としては、「たまたま一緒に仕事をすることになった出会いを大切にしたい」と考えています。だから、その人のキャリアについて話すときは社外の友人と話すときと同じように、その人にとって一番有意義な形で向き合っていたいなと思っているんです。

何年か経ったあと「あのとき芹川と話してよかったな」「いつかまた一緒に仕事したいな」とせっかくなら思ってもらいたいし、そういう関係の蓄積がそのうちどこかで自分に還ってくるかもしれないですからね。

文:ディー・エヌ・エーHR Manager Studio編集チーム
(一部社外の方からはわかりにくい表現は筆者が修正しました)

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