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売れた理由は商品なのか、場所なのか

『売れた理由は商品なのか、場所なのか』というタイトルだけ書いた下書きがずっとnoteに残っていた。

下書きをしたのは今から約4年前の2020年1月で、ターミナル駅直結の特殊な立地にある書店に勤務していたときのことだ。コロナ禍が叫ばれ始めたのが2020年3月なのでコロナ禍前夜とでもいうべきか。それから数年間に渡って店づくりや働き方そのものが大きく変わっていくことは想像だにしていなかった。
このとき考えていた売場の在り方と、今思う売場の在り方にそれほど違いはないけれど、コロナ禍によって一層お客さんの心理を想定して什器や商品の配置などを考えるようになった。

商品が売れる理由

商品が売れたのはその商品そのものを欲した方がいるからでそれは間違いないが、実はそれ以外にも様々な要因が重なって商品は売れていく。

①商品がその店にあった
当たり前のことだが、欲しいと思う人が来店されても店になければその商品は売れない。新刊が配本で入荷してくる場合もあるが、その商品を店の誰かが発注していなければもしかしたら店にはなかったかもしれない。そして在庫していなければ当然売れない。売れ筋の商品であればあらゆる手段を使って発注をして、とにかく売り場に並べる。どうやっても手に入らない商品はあって、それが他の書店に平積みされてたりすると激しく動揺して歯ぎしりが止まらなくなったりもする。

②商品が目に付くところに置いてあった
売りたい商品が店頭にあっても、目立たなければ気が付いてもらえないかもしれない。
話題になっている本が書店で見つからなかったとき、書店で働いている側としては「分からければ店員に聞く」とまず考えるだろう。しかしお客さんの多くは忙しそうな店員に尋ねるのを躊躇って、他の店に行ってしまう可能性が高い。位置検索機が店内にあれば自分で探すこともできるが、なければ諦めてしまっているかもしれない。
そして恐ろしいことに(この店はあんなに話題になっている本が置いてないのか)と思われてしまうのだ。それだけならまだしもSNSで全世界に向けて発信されてしまったら、もしかしたら未来のお客さんまで減ってしまっているかもしれない。

話題の本や、こちらからお薦めしたい本は売場の一等地に展開する。
店の主導線はどこか。入店されたお客さんが入口に立った時に気付いてもらえる場所はどこか。ジャンルによっては新刊を置く棚や平台があるが、もともと置く棚と新刊棚と両方に陳列されているか。
店側のスタッフは自分たちの売り場に慣れてしまっているので、お客さんがその場所に気付くかどうかという視点が案外抜けてしまう。定期的に顧客目線で売場を見て回る必要がある。

③欲しいと思える工夫がされていた
商品を目立たせるためにPOPを設置している店舗は多い。出版社から送られてきたPOPを展開したり、お店のスタッフが作成したものを展開したりする。立体物が展開されている書店もあって、商品を売りたいという気持ちが見え隠れすると応援したくなる。それを作っているのはちゃんと就業時間内ですか?という疑問はここではいったん置いておく。

また、POPを設置する以外にも売れている感を出す工夫はできる。最もシンプルなのは多面展開だ。商品の表紙を見せるように同じ本を平台や棚で複数展開する。商品の威力を感じさせるので、目立つし売れている感が出る。
ただし面数はどこまであったらいいのか問題はある。売れているタイトルを例えば4面展開すると、本来4種類の本を置ける場所で1種類しか置けないわけで、もしそこに他の3種類の本が並んでいたらトータルで売れ冊数が1冊の多面展開よりも売れていたかもしれない。なので、例えば発売直後は大きく展開して発売後の週末を過ぎたら縮小する、というように売場を常に変えていく。
手がかかっていなくて、例えば半年くらい前に売れていた本が一等地の平台の良い場所にずっと展開されたままの売り場などを見ると悲しくなる。


当たり前のことだけど、その商品に魅力がなければ売れない。しかし、それだけではなく商品を手に取ってもらうためには店で工夫する必要がある。売りたい本を置くためには意志のある発注をする。そのためには情報を集めなければいけない。
それらをコツコツとやり続ける人を育てることが、長い目で見た時に一番大事なんだろうなと思う。

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