見出し画像

僕が「旅するタルト役人」を始めて良かった7つのこと

「旅するタルト役人」として活動しておかげさまで丸1年経ちました。振り返れば、受け入れ農業者のみなさまをはじめ理解ある職場など感謝しかないのですが、たくさん良い変化もありました!感謝を込めつつ、7つにまとめてお知らせしたいと思います。

1 農業者のみなさんに喜んでもらえるようになった!

これが一番嬉しいこと。「美味しいね!タルトにしてくれてありがとう」「乗ってる素材が最高ですからね」「そりゃ間違いないね」というベタな会話がしたくてこの企画をやっているといっても過言ではないのです。当たり前ですが食べて喜んでもらえることを素直に嬉しく感じております。自分の狙いポイントとマッチして褒めてもらえると更に◎

レモンのタルト。ざく切りで切ったレモン(璃の香)の控えめな酸味と土台の甘みがぴったり!
@絹島グラベルさん(宇都宮市)

ちなみに、毎回オリジナルのレシピ(組み合わせ)を考えて臨むのですが、最近は必ずアンビバージュやジュレに異色な食材を組み合わせているので、農園でみなさんに食べてもらったときの驚き?の顔も癖になっております。おお、意外と美味しいみたいな(笑)。

本当に美味しかったの?といつも聞かれるニラ(ゆめみどり)のタルト。大好評でした!
@石原さん(鹿沼市)

役人として、どうしてもすぐには結果が出なかったり、必ずしも誰かに感謝されるものではない仕事もあるわけですけど、こういう機会に心のエネルギーをチャージさせてもらっております。

2 栃木県の農業を発信する機会が増えた!

これもありがたいこと。この活動を通じていくつかのメディアさんに記事にしてもらいました!記者のみなさんには週末にイベントに来ていただいて大変感謝です。

記事の中で、いちごをはじめ年中フルーツがある農業の豊かさとか、都市部と農村の近さだとか、こういう変わった取組も受け入れてくれる人の温かさとか、栃木県の魅力をお伝えして記事にしてもらう機会にもなっています。

最近は自分でも情報発信をしようとこのnote(まとまって書く用)に加えて、Instagram(作品展示用)twitter(練習記録用)TikTok(農園で踊ったとき?用)も使ってます。アカウントはぜんぶtarte892(タルト役人)だぜっ!

当初はそれぞれの使い分けも分からず、フォロワーも増えないし、何を投稿していいかわかんないし、つまんないし、もう辞めたいとか、楽しむコツについて真面目に友人たちに相談したりしましたが(その節はお世話になりました>各位)、みなさん結構コメントくれたり、イベントやった農業者さんもSNSシェアしあったりして、それなりにやる気も出まして、最近はのほほんと運用してます。

ちなみに、本業でも「いちご王国・栃木」を中心にいちごをはじめとする栃木県の農業について情報発信しています。また、インフルエンサーがSNSで情報発信する企画(「いちご王国」アンバサダー)も実施しています。とはいえ、個人として取り組むと数字により実感を持てますね。インフルエンサーさんってやっぱりすごい!

3 みなさんに面白がって覚えてもらえるようになった!

これもとても嬉しいこと。「タルト役人」ということで、みなさん半笑い(!)で覚えてもらえるようになりました。

ちなみに、栃木県に赴任したときの自己紹介は「農林水産省から出向してきた県庁職員です」みたいな感じで、確かに自分の一部ではあるけどそこから自分には辿り着かないというか、自分自身が興味を持てないような自分の説明書きしか用意できなくて、でも「自分には何もなくて・・・」みたいな甘えが許される年齢でもなくて。ちゃんとこの自己紹介作成に向き合わなければならないとずっーと思ってたんですよね。

「タルト役人」は、もちろんネタキャラなんですけど、みなさんがニヤニヤして捉えてくれることがちょっぴり嬉しく感じています。誰かに必要とされるみたいな重さではなくて、何かを変えるみたいな強さでもなくて、歴史に名を刻むみたいな大きさでもなくて、目の前の人たちに喜んでもらえるみたいな手触り感のある確かさしさって、ずーっと忘れてた大事なことだったかも。

あと、ドラッカー好きの私としては「何をもって記憶されたいか」という質問に答えられたのでは?という気がしています。「非営利組織の経営―原理と実践」(P.F.ドラッカー/ダイヤモンド社)のフリーグラー神父のいかにも怖い言葉が脳裏にずっと離れなくていたんですが、「タルト役人です」って、ネタキャラでもいいから答えを出せた気がすることが結構嬉しかったりしてます。

私が13歳の頃、人に示唆することに長けた宗教の先生がいた。ある日彼は、教室の端から端まで回って、子供たち1人1人に、「君は何を持って記憶されたいか」と聞いた。もちろん、誰も答えられなかった。すると、彼は笑いながらこういった。「私は、君たちが答えられると思っていたわけではない。でも、君たちが50歳になってもこの問いに答えられなければ、人生を無為に過ごしたということになる」

先日私たちは、60年ぶりにその中学のクラス会を開いた。同窓生の多くが健在だったが、卒業以来、互いに顔を合わせることもなかったため、初めのうちは、会話も多少ぎこちなかった。そのうち仲間の一人が、「フリーグラー神父とあの質問のことを憶えているか」といった。私たちは皆憶えていた。そして皆が、40代になるまで質問の本当の意味を理解することはできなかったが、その後、この質問のおかげでまったく違う人生になったといった。
P.F.ドラッカー.非営利組織の経営―原理と実践.ダイヤモンド社,1991年

「タルト役人」だと農園で優しくしてもらえる

「中央から来たお役人」から「タルト役人」になったことで、農業者との関わり方もちょっぴり変わりました。せっかく栃木に来たなら生産現場に触れたいという気持ちで、週末に県内の農園を訪問して意見交換をすることが多かったのですが、いきなり行っていろいろ聞くのは失礼だよね・・・そもそも相手に何のメリットもないのに行くのもどうなの?などという悩みもあったんです。「支援」とか「補助」とか、どうしても政策の文脈って「助ける」みたいな姿勢が多いんですが、世の中みなさん自立してますし、実際は教えてもらって助けてもらってるばかりなので、もっとフラットにならないものかなという気持ちもあったり。

「タルト役人」になると、この悩みがちょっと解決されるんですよね。どういうタルトにするのか、提供いただく農産物の味はどういうものか、品種は何か、育て方やほかの農園の違いなどなど・・・意見交換というか、企画会議を行うことができます!最終的なイベントのイメージのすり合わせの中で「あ、聞きたいこと聞けてる!」という気付きが何度もありました。ヒアリングみたいな偉そうな感じではなく、一緒に何か作り上げていくんだ!という目線の一体感とか、自分に「タルト作り」という限定された役割があるところが心地よかったりしています。

上三川町のいちご農園・藤田農園さんで、イベント前のやりとり。
使ういちごの作り方とか思いを聞けて良かった!

4 お菓子作りが凄く上手くなった!

これは日々実感してます。タルト作りって、焼き菓子の中でもかなり面倒な方でして(生地2回焼くし、クリーム5種類作るし、フルーツカットもあるし、盛り付けも入るし)、みなさんに喜んでもらおうと必要に迫られて何度もガチで作っているうちにいつのまにか道具も揃い、お菓子作りの基礎体力そのものがアップした気がします。

お菓子って、レシピどおり作れば良いかというと、タイミング、混ぜ方、塗り方とかそこに書いていないちょっとしたコツみたいなものがあったりして、お菓子の種類問わず共通だったりするんですよね。このコツは実際作ってみないとコツの在りかすら分からないので、Try&Errorで何度もやっていくとようやく攻略法が見えてきて、作って食べてみて「これだ!」というも感じです。とはいえ、たまにレシピ本に細かいコツも載ってて「あ”、書いてあった」みたいなこともあります。ちゃんと本読むのは大事ですね(柴田書店さん大好きです)。ちなみに、私の基本的なレシピ本は菅又さんの「フルーツ香る生菓子 定番ケーキの魅力を高めるテクニック」。

基礎体力が上がったおかげで、他の焼き菓子へのチャレンジにも心理的抵抗感がなくなったりしてます(というか、タルトと比べると工程少なっ!と思ってしまう)。クッキーとか、パイとか、シフォンケーキとか、カヌレとかたくさん作ってます。好きな食べ物を作れることって幸せだよね。カヌレは焼きがうまくいかず悔しくて何度もチャレンジしてて、おかげでちょっと太ったりして。。。

5 食材としての農産物にとことん向き合うようになった!

これはタルトの考え方そのもの。作ってるうちにどうしてもタルトに使う農産物を細かく知る必要が出てきまして、農業者さんに品種や作り方のこだわりとか様々教えてもらいつつ、サンプルをいただいて、農産物に向き合うというか、皮、果実、葉、茎とかばらばらにして事前に味をチェックしてます。意外と農業者さんもそこまで微細に加工目線で味をチェックされてないようで、感想をお話しすると喜ばれたりしてます。本業よりも話聞いてもらえたりして(笑)

本業では農産物ではなく農業経営という単位で捉えることが多いですが、意外に農産物からも経営全体の考え方が理解できたりして、本業に戻ってくるような気がしています。やっぱり食べ物の話ってその人の個性出て楽しいよね。

役人マインドから職人マインドに?

あとはものづくりに対する考え方とか、職人さんや作家さんのコダワリみたいなものに対する理解が深まった気がしています。「その着せ替え人形は恋をする」を見ても、原作者の福田さんの、商業ベースの少年漫画と描きたいモノをバランスする構成の巧みさとか、主人公のごじょーくんの衣装作りに向き合う姿勢に共感してしまう。クッキーよりもクッキー缶とかクッキーまでの包装が気になってしまうワタクシです。合理的じゃない、無駄なものこそが人間らしくて良いよね。

話はタルトに戻って、やっぱり農園で農業者さんの話を伺うと、その農産物を使って表現したい味とかタルトの造形を考えて、そうすると絶対作りたいってなるじゃないですか。そのためにはこの材料じゃないと、栃木県産じゃないと、この食器じゃないと、このナプキンじゃないと・・・と、どんどん「こうじゃないと!」とが増えていく。もちろん妥協することはすごく簡単なんですが、自分が納得できない作品・・・じゃなくてタルトを世に出したくないし、何か一つでも欠けると作ろうとしている世界がとたんに壊れてしまうような気がしていて、イベントに必要なものは極力自分で作ったり持っていってたりします。

年末にやったクリスマスパーティ。もちろん、いちごのタルト!
ナプキンはもちろん、帽子まで人数分準備したのはワタクシです。

本業では、組織単位で仕事をすること、公共部門であることから、コダワリ(合理的に説明できない、個人の主観的な判断)を限りなくゼロにするような心掛けをしてきましたが、タルトのイベントなんて自分本位のコダワリがなかったら発生してないようなイベントなので。誰がなんといおうとも自分の見えてる世界を表現したい、と思いだけで突き進んでいます。とても新鮮!

6 仕事の原点を再認識できた!

「タルトも政策も現場でつくりたい」ってのがtwitterはじめ各種SNSのプロフィール冒頭なんですが、これ結構考えてぱっと浮かんだ言葉で、見つかった時は「!」って感じだったんですよ。そこまで意識せずにこの活動始めてて、言葉にしてみて自分を再発見しています。

大学学部のゼミでは、農業経済といいつつ農村に入って行ってインタビュー調査をする研究スタイルだったこと、先生からは統計情報の背景にある論理を掴むことが大事といつもいわれていたことから、自分が現場に行くのは客観性に具体性を補完するみたいな、業務の延長上にある真面目な姿勢だと思っていました。

日光に野口菜(水掛け菜)の打合せ。
水田みたいに、水を掛けながら作られることに大興奮!!!
こんなの見に行かなきゃ知らなかった。

ただ、タルトをわざわざ農園に行って作ることを考えると、共通部分って、単に「農園に行きたい!」みたいな、わくわくとか楽しさから来るものなんだろうということに気づいたんです。単に現場に行った方が自分が楽しくてより良いものができると思っているという、自分の中にある小さな感情だったという発見が意外に重要と思っています。この気持ちを改めて大事にしていきたいなと思っています。

7 ピンでステージに上がることの大切さに気づけた!

一人で目の前のお客さんに何かを提供する、という緊張感がライブイベントであることもあってものすごく新鮮な刺激になっています。大学のサークルの先輩でピン芸人になった方がいらして、手ぶらで一人にステージ上がって笑い取ってくるってカッコいいなと思ってたんですが、それだけじゃないことがなんとなくわかりました。

自分のコダワリを他人に見せるドキドキ感。何かに合わせようと空気読む安堵感じゃなくて、何かと違うものを表現しようと思う孤独感。仲間と一緒に答えを見つけるチームワークじゃなくて、自分だけで答えじゃなくて自分らしさを探していくキリキリした悩み。

イベントの主催はよくやっているんですが、基本的に勉強会ですし、自分は運営側でゲストスピーカーや別のコンテンツがあるものばかり。仕事の属性上、プレイヤーよりもマネジャーが求められることもあって、表に立つと見えないことが増えるなと思ったり、自分はマネジャータイプと思ったりしてピンで何かをする機会を可能な限り避けてたんですが、プレイヤーとしても取り組んでみると不思議と運営に対する洞察も深まった気がしており、いい経験になってます。何よりもフィードバックが直接早く届くし、具体的なので学習効果が高いんですよね。おかげでタルト作りの腕だけメキメキ上達してます。

おわりに

ここまで読んでいただいてありがとうございました。一年以上活動してみて思うのは、農業者のみなさんが温かく受け入れてくださってイベントを一緒に作ってくれることに対する感謝です。たまたま、いや、栃木県の特性なのかもしれないけど、伝統も大事にしつつ、いろいろ話していくと新しいことにも結構前向きになってくださり、毎回いろんなチャレンジをさせていただいてます。

職場の理解も大変ありがたいです。「農業で目立つことなんてないんだからどんどんやっていいんだよ!」という上司の寛大な計らいにより公私連続して活動ができており、だからこそ「タルト役人」ができております。単に農園でタルト作るだけじゃなくて、やっぱり政策にフィードバックしていきたいという姿勢が知的に楽しめる部分なんですよね。出向元の農林水産省でも諸先輩型がニヤニヤして眺めてくださっており、ありがたいことです。

赴任して2年ほど経ちますが、現場の課題解決には、何かしらの方法で現場に混ざっていって、関係者のみなさんとフラットに話して、一緒に考えて前に進んでいくことがやっぱり必要なんだろうなと思っています。その意味では私にとって、「タルト役人」すごく良いUIになってくれています。

「タルト役人」の2年目は、そろそろ本業も意識しながら、タルトだけじゃなく政策も作りたいということで、引き続き栃木県のみなさまに喜んでもらえるような活動をしていきたいと思います。みなさん引き続きよろしくね!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?