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#最終話 プロダクションノートよ永遠なれ

月夜の晩、私は、珍しく目を覚ましました。10月になると少し肌寒く、私は上着を取りにベッドから立ち上がりました。窓から覗く月の光が、私を優しく照らしていました。緊張してる?NO,NO。そんなはずない。台所へ出ると、水を一杯だけ飲みました。落ちつけ。私。明日は大事なオーディション。台本はすでに、インプット済み。やることはやったでしょ?、どうしてだろう、うまく眠れない。そんな日に決まって、私には必ず観る映画があります。そう、もう、百年以上も前の映画。私の大好きな、モカおばあさまが出た映画「子供はわかってあげない」。とっても大好きな映画。モカおばあさまの若い頃が映ってる。たぶん、今の私と同じくらいかな。短い髪で、真っ黒に日焼けしたモカおばあさま。とっても素敵なの。ベッドに腰かけた私は、電子プラグを、延髄の裏につき刺して、電子系統の末端を脳からアクセス。ゆっくり両瞼を開くと、まばゆい光の筋が、舞いあがった埃を照らすの。そして、目の前の仮想空間に投影された、古い古い二次元の映画「子供はわかってあげない」。

さあ、はじまった。まずはアニメーションから始まるの。当時は、「えいがかん」ってところで、みんなで集まって観てたから、アニメが始まって、間違えて、「えいがかん」を出ていく人がいたみたい。ひどいよね。でも嘘みたい、みんなで映画を観るなんて。まだ、身体にチップすら入れてない時代だもんね。HDDがまだ四角い形してた時代だもんね。合掌。でも、このモジくんって人も素敵。モカおばあさまに聞いたら、この男の人は、このあと、日本を代表する俳優になって、日本の大統領になったとか、ならなかったとか。今ある日本の細田県は、この俳優さんの名前から来てるみたい。あとはこの探偵さんの役も素敵。お父さんとお母さんも、みんな素敵。あとは、屋上のシーンが素敵なの。今は「がっこう」なんてないから、こうしてみんなが勉強するために、わざわざこの「がっこう」ってところに、通ってたんだよね。あとは、お父さんが間違って包丁持ってくるとこも好き。あと、とってもビックリしたのは、チューペットって、百年以上前からある食べ物なんだね。「がっこう」の友達が、チューペットを膝でたたき割ってたけど、いまだと、あれ、法律で禁止されてるから、上映していいのかヒヤヒヤして観てた。

映画「子供はわかってあげない」は、公開当時、日本でも社会現象になるくらい大ヒットして、長蛇の列が、2つ隣の駅まで伸びてたとか、伸びてないとか。お客さんが笑ったりすると、「えいがかん」が揺れて、笑い声で床がぬけた、なんて話もあったとか、なかったとか。あと、この映画のかんとくさんは、その後、鳴かず飛ばずで、いつまでもこの映画の成功にすがりつき、アフリカの小さな国に映画を広めにいったけど、おかしなきのこを食べて、そのまま森の中に消えたとか、消えないとか。その後、映画は2と3もできて、ハリウッドでもリメイクされたって聞いたけど。。。でも、私はやっぱりこの最初のやつが一番好き。だって、大好きなモカおばあさまが出てるんだもん。さあ、早くもう寝なくちゃ。だって、明日はいよいよ「子供はわかってあげない2200」のバーチャルオーディション。主人公MINAMIのために、世界中にバーチャルヒューマロイドたちが集まってきます。モカおばさあまの孫として、負けるわけにはいかない。だって私の名前は・・・。

ああもういい。
もう、嘘はもうたくさんだ。
やっと今、告白します。実は、このプロダクションノートは、ほとんどが嘘です。さぞ驚かせたでしょう。ごめんなさい。猿も小鳥もいないし、脚本の国もないし、編集は人間がやってるし、田島先生に刺青は入っておりません。どうして嘘をついてしまったのか。それには訳があります。実は、このプロダクションノートを書いているのは、沖田ではないのです。沖田は、今、私の横で、ふんぞり返って、お菓子を食べています。沖田は、私に金だけを払い、私にこの原稿を書くよう依頼しました。私は沖田から半ば監禁され、気がつけば、このプロダクションノートを書くまで、外へ出られないようにされています。鍵がかかった部屋から出られないのです。沖田は、精神異常者です。映画のプロダクションノートを書こうにも、私には撮影のことなど知る由もありません。横でゴロゴロしながら、とんがりコーンを食べている沖田に私が当時を尋ね、沖田は、ろくに私の方を見もせずに、テレビを見ながら、適当に話したことを、私がここにまとめていただけなのです。恐ろしい男です。沖田は。

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「このプロダクションノートを、未来の映画人のために」と、ヘラヘラ笑って言うのです。悪魔のような微笑み。でも、このままじゃいけない。私は告発します。こんなプロダクションノートはデタラメです。もうこれ以上、沖田に振り回されてはいけない。騙されてはいけない!。映画「子供はわかってあげない」は、そんな映画ではないはずだ。私は見た。あの映画を。あのなんと美しい映画か。今、沖田は、私が、この告発文を書いていることを知りません。私はいずれ、沖田に殺されるでしょう。沖田は、ああ見えて、人をもう何人も殺しては地下に埋めているのです。
あ、沖田が来た。
やめて、何するんだ!ああ!

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みなさま、はじめまして、沖田です。
バレてしまっては仕方ありませんね。
最後に、一言、本物の沖田が書かせていただきます。

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早いもので、映画「子供はわかってあげない」の上映も終わりを迎えています。映画を観てくださった方々、本当にありがとうございました。最初は、公開が1年延びて、やることもないので、書いてみたプロダクションノートでしたが、意外とこれが面白く、途中、監督である沖田が死んだりしまして、どう続けていいかわからなくなりましたが、無事に最後までたどり着くことができました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。映画「子供はわかってあげない」が、この先も、誰かの目に触れ、楽しんでもらえることを願いつつ。プロダクションノートよ、永遠なれ。


うあ、お前は誰だ!

文    沖田修一
イラスト 古谷充子



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