出版不況とSNS時代

東京都港区六本木に開業した書店。出版不況が叫ばれて久しいが、この書店は新たな取り組みによる体験型の書店として注目を集めている。

当記事によれば、うたい文句は「本と出会うための本屋」であり、入場料制を特徴としている。そして入場料を払って入店すれば、購入前の本を何冊でも制限時間なく読むことができる。さらに、喫茶スペースではコーヒーと煎茶は飲み放題であり、ハヤシライスなどの軽食やアルコールも有料で提供されるとのことだ。

このほか、チャーリー氏がツイートをしていた本に囲まれるホテルなどもある。出版業界の市場縮小は続くが、本による体験型サービスの提供は増えつつある。


1. 出版業界の現状

出版業界の市場規模は、1996年の2兆6563億円をピークとして、2017年には1兆3701億円となっている。また、2000年には2万店を超えていた書店数は、2018年5月時点で1万2026店になっているとのことだ。

また、楽天ブックス「ビジネスパーソンの読書の実態調査」によると、ビジネスパーソンの1日の読書時間は「30分未満の者」が60%を超える。出版不況の要因のひとつに、読書をしないビジネスパーソンの存在等もあるかもしれない。

ここで、出版物分類別売上を確認してみる(下図参照)。

2017年の出版物分類別売上をみると、(1)「雑誌」(4,997億円)、(2)「その他」(3,861億円)、(3)「コミック」(3,439億円)、(4)「文庫」(1,752億円)、(5)「児童書」(1,006億円)、(6)「文芸」(892億円)、(7)「新書」(276億円)、の順となっている。

2017年の出版物売上に占める割合は雑誌が最も大きいが、雑誌の売上は2006年の8,652億円から大幅に減少している。出版不況の要因のひとつに、上述では読書をしないビジネスパーソンの存在を挙げたが、読書をしないビジネスパーソンよりも雑誌を読まなくなった者の割合の増加が考えられる。雑誌販売の販路にコンビニエンスストアがあるが、コンビニエンスストアの雑誌コーナーの縮小も話題となった。

また、雑誌の売上減少はスマートフォン等の影響も考えられるだろう。スマートフォン等によるニュースサイトの閲覧、SNSの利用などが雑誌を読む代わりとなっている可能性もある。隙間時間に雑誌を読むのではなく、スマートフォンを利用している者も多いだろう。たとえば、チューインガムの売上も減少しているが、製菓会社の調査によると、スマートフォンがチューインガムの需要を奪っているとの結果もあるようだ。スマートフォン等は、私たちのライフスタイルを大幅に変えた。

一方、少子化は進んでいるが、児童書の売上は微増の傾向にある。日本出版販売株式会社から公表されている2017年の児童書の年間ベストセラーは次のとおりである。

(1)今泉忠明、下間文恵ほか(2016)『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの辞典』高橋書店
(2)今泉忠明、下間文恵ほか(2017)『おもしろい!進化のふしぎ 続ざんねんないきもの辞典』高橋書店
(3)J.K.ローリング、ジョン・ティファニーほか(2016)『ハリー・ポッターと呪いの子 第一部、第二部 特別リハーサル版』静山社
(4)かがくいひろし(2008)『だるまさんが』ブロンズ新社
(5)新海誠、ちーこ(2016)『君の名は。』KADOKAWA

2. 憧れは読者モデルからインフルエンサーへ

雑誌の売上は大幅に減少を続けているが、女性ファッション誌の読者モデルに憧れた若者も多かったと思う。しかし現在では、読者モデルよりインスタグラム等を活用するインフルエンサーに憧れる若者が多いようだ(「女子大生読者モデルは平成で終わる?ファッション誌で激減。もう憧れの存在ではない。」)。

まず、赤文字系(CanCam、JJ)、青文字系(Zipper)の女性ファッション誌の発行部数を確認してみる(下図参照)。

2008年4月から同年6月の発行部数は、(1)「CanCam」(553,333部)、(2)「JJ」(261,500部)、(3)「Zipper」(164,677部)、となっている。以降、女性ファッション誌の発行部数は減少を続け、2018年7月から同年9月の発行部数(Zipperは2017年10月から同年12月)は、(1)「CanCam」(121,000部)、(2)「JJ」(118,233部)、(3)「Zipper」(43,000部)、となっている。

CanCamからは、蛯原友里さんや押切もえさんなどの人気ファッションモデルも生まれた。このような人気ファッションモデルの存在が女性ファッション誌の売上増加につながり、また読者モデルに憧れる者が多かった要因のひとつだろう。

Googleトレンドで、「読者モデル」「読モ」「インスタグラマー」を比較すると、「読者モデル」および「読モ」は2013年から2014年頃をピークとする。一方、「インスタグラマー」は2016年頃から上昇し、現在では「読者モデル」等を大幅に上回っている(下図参照)。

さらに、Googleトレンドで、ファッションモデルである蛯原友里さんと、SNSを活用したモテクリエイターである菅本裕子さんを比較してみた。また、蛯原友里さんは「えびちゃん」、菅本裕子さんは「ゆうこす」と呼ばれているため、えびちゃんとゆうこすの単語も含めて調べてみた(下図参照)。

蛯原友里さんは2006年頃をピークとして、菅本裕子さんは今後の伸びが見られそうなグラフとなっている。また、蛯原友里さんは「蛯原友里>えびちゃん」であるのに対し、菅本裕子さんは「菅本裕子<ゆうこす」の検索となっていることが特徴だろう。

蛯原友里さんのようなファッションモデルが遠い憧れであれば、菅本裕子さんのようなインフルエンサーは身近な憧れなのかもしれない。SNS時代における推しメンのあり方の変化だろう。

3. まとめ

出版不況は続くが、書店やサービスは多様化が進んでいる。この多様化の進展は、スマートフォン等による影響もあるだろう。また、この影響により憧れの推しメンの変化も進んだ。SNSにおける双方向性等が人気につながっている。顧客満足度を高める書店等とともに、知を楽しむ体験型のサービス等が増えることも期待したい。

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