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入社1年目でなくとも知っておきたい会計の基礎知識と経営戦略の理論等

会計とは何だろうか。会計?って聞くと、数字をたくさん使うものとイメージするかもしれない。学生時代に数学が嫌いだった人は、数字をたくさん使う会計も、きっと数学同様に分からないものだと考えてしまうかもしれない。

しかし私たちは、TVニュースやインターネットなどで企業の新製品や日経平均株価等の情報を日常的にみているだろう。私たちが会計について詳しく知らなくとも、企業の経営活動の一部を知っている。会計とは、貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)等の財務諸表を通して経営活動を捉えるツールと考えると、楽しく理解できるものかもしれない。

当記事では、会社の健康診断書である決算書などの「入社1年目で知っておきたい会計の基礎知識」が話題となっている。入社1年目でなくとも、きっと学びの多い記事だろう。

1. VUCAとリテラシーについて

現代は変化が激しい時代だ。これまで予想していなかった例は起きる。たとえば、CASEと呼ばれる自動車の基本コンセプトの変化が挙げられる。CASEとは、Connected、Autonomous、Sharing、Electricのイニシャルであり、トヨタ自動車のようなメーカーだけでなく、Googleやテスラ、UberなどのプレーヤーがCASEにおいてリーダーシップを取りつつある。また、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれる企業は、破壊的な影響を与えている。

このように、予想できない不確実な時代である現代は、VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)と呼ばれる。私たちはこれまでの時代と同じように、さらにこれまでの時代と異なるような対応を迫られることも考えられる。企業だけでなく、企業で働く人も変化をしていくことが必要だろう。このような時代では、情報やリテラシーがより重要になっていくだろう。たとえば、福澤諭吉は『民情一新』(1879年)の中で次のように語っている。

「語に云く、智極て勇生ずと。…智とは必ずしも事物の理を考えて工夫するの義のみに非ず、聞見を博くして事物の有様を知ると云ふ意味にも取る可し。即ち英語にて云へばインフヲルメーションの義に解して可ならん」

(『ビジネス・アカウンティング〈第4版〉財務諸表から経営を読み解く』p.4から引用)

ビジネスパーソンに求められるリテラシーとして、英語や中国語等の外国語のほか、貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)等の財務諸表を理解する力もあるだろう。人の成長が企業の成長につながることもある。企業の成長は貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)等からも分かる。たとえば、2019年4月1日の貸借対照表(BS)をストックとして、1年間の活動を記録したものが損益計算書(PL)であり、2020年3月31日の貸借対照表(BS)が成長等の記録である(下図参照)。

2019年4月1日から新生活が始まった人もいるだろう。働きながら、小さな失敗や成功を繰り返し、リテラシーを高めていくことも大切かもしれない。少しぐらい要領が悪くても大丈夫だ。

2. 経営戦略の理論等について

ここまで会計等の話題について話してきたので、少し話題を変えたのちに、また会計の話に戻そう。

昨今、ビジネスではアートの思考法などが注目されている。またアートの思考法とは異なるがデザイン経営も提言されている(「「産業競争力とデザインを考える研究会」の報告書を取りまとめました」)。

たとえばヘンリー・ミンツバーグ教授は、経営について次にように述べている。すなわち、経営とは「アート」と「サイエンス」と「クラフト」の混ざりあったものである。「アート」は、組織の創造性を後押しし、社会の展望を直感し、ステークホルダーをワクワクさせるようなビジョンを生み出す。「サイエンス」は、体系的な分析や評価を通じて、「アート」が生み出した予想やビジョンに、現実的な裏付けを与える。そして「クラフト」は、地に足の着いた経験や知識を元に、「アート」が生み出したビジョンを現実化するための実行力を生み出していく。

また、ミンツバーグ教授は、1987年に「戦略の5つのP」という概念を『カリフォルニア・マネジメント・レビュー』に発表している(下図参照)。

「戦略の5つのP」によれば、経営戦略の中核は「特定の組織が何らかの目的を達成するための道筋」であり、その「道筋」は未来の見取り図と過去の行動の集合と理解し得る。さらに、これらの道筋をつくるためには、外部環境分析と内部環境分析の二つが柱となる。

さらに経営についてミクロな視点で考えると、私たちの企業内における活動の集合と見做せる。働き方改革が叫ばれ、「生産性」が注目を集めるようになった。どのようにしたら、もっと効率的に働けるのか。たとえば、1900年代初頭にフレデリック・テイラーは科学的管理法(テイラーリズム)を提唱し、労働者の生産性を高める取り組みを実施した。これにより、大量生産・大量消費の時代が到来したともいわれる。しかし、テイラーの科学的管理法は効率性を重視するあまり、非人間的だという批判も受けた。次の時代はデータ資本主義とも言われている。科学的管理法のデジタル版「デジタル・テイラーリズム」について、検討すべき課題となることも予想される。私たちは効率的に働くとともに、人間らしくワクワクするような体験も必要かもしれない。

3. NTTドコモの損益計算書(PL)について調べてみる

ここでは、2010年3月期から2018年3月期までのNTTドコモの損益計算書(PL)を調べることとしたい。

まず、NTTドコモの主な事業内容を確認することとする。

✔︎ 通信事業
(モバイル通信サービス/光通信サービスおよびその他の通信サービス)
✔︎ スマートライフ事業
(コンテンツ・コマースサービス(dTV、dマガジン、DAZN for docom等)/金融・決済サービス(dカード、iD等)/ライフスタイルサービス(dヘルスケア、dグルメ等)
✔︎ その他の事業
(法人ソリューション(法人IoT等)/あんしん系サポート(ケータイ補償サービス等)

次に、NTTドコモの比例縮尺財務諸表を作成してみた(下図参照)。

損益計算書(PL)の時系列推移をみると、貸方は主に「通信サービス」が占めるが、近年は「その他の営業収入」が増加していることが分かる。

また、借方の「端末機器原価」と貸方の「端末機器販売」をみると、2012年3月期までは「端末機器原価」が「端末機器販売」を上回っていたが(「端末機器原価」>「端末機器販売」)、2014年3月期には「端末機器原価」が「端末機器販売」を下回っている(「端末機器原価」<「端末機器販売」)。さらに、2018年3月期には「端末機器原価」が「端末機器販売」を上回っている。

NTTドコモ等の携帯電話事業者のビジネスモデルの特徴とされたのが、端末機器販売で生じる赤字をのちの通信料(通信サービス収入)で回収することである。このようなビジネスモデルは「ジレットモデル」と呼ばれる。ジレットはカミソリのメーカーであるが、本体部分を低価格で提供し、消耗品であるカミソリを高価にして稼ぐビジネスモデルである。しかし、10万円を超えるiPhoneの発売が話題となるなど、スマートフォンの高額化やそれに伴う利用者の保有期間の長期化の影響等によるビジネスモデルの変化が考えられる。そして、「dマーケット」等の「その他の営業収入」が貴重な収入源となっている。

4. 次世代ネットワーク5Gについて

1999年にNTTドコモがiモードのサービスを開始するなど、日本はモバイル通信で世界をリードしてきた。現在は次世代ネットーワークの5Gが注目を集めている。5Gにより新しいユースケースが登場することも予想されている。たとえば、マルチプレーヤーのゲーミングプラットフォームや大型4Kの動画ストリーミング。マッシブIoTと呼ばれる、ウェアラブルやスマートホームを含め、ハンドセット端末以外でインターネットに接続する新たなデバイスの爆発的増加。自動運転車などが挙げられる。Googleが2019年3月に発表したゲームプラットフォーム「Stadia」は、5Gによりゲーム業界に新しい競争をもたらすと予想されている。

マッキンゼーの調査によれば、5Gのユースケースとして「コネクテッドカー」が最も有望視されており、次に「クリティカルなインフラの保護と制御」、「ワイヤレスのクラウドベースのオフィス」の順となっている。通信事業者や通信機器メーカー等が協働することで、新製品・サービス創出を加速することが重要とされている。イノベーションの文化を築き、新しい成長を生み出すことも大切だろう。

5. 学び続ける心を持つ

私たちが新しいことにはじめて取り組むとき、新人と同様に学ぶことが大切かもしれない。「経験」や「勘」も役に立つが、オープンな態度で学び直すことも大切だろう。実務と理論、知識やスキルを融合させることがイノベーションの土台となる可能性もある。

過去の経験の枠に留まるのではなく、新しい働き方や新しい知性を増やしていく。学び続ける心を持つことで、社会の変化に流されることなく、変化の波に乗っていけるのではないだろうか。


【参考文献】
山口周(2017)『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』光文社
琴坂将広(2018)『経営戦略原論』東洋経済新報社
山根節、太田康広、村上裕太郎(2019)『ビジネス・アカウンティング〈第4版〉財務諸表から経営を読み解く』中央経済社
Mckinsey&Company(2018)『岐路に立つ日本-4Gから5G革命へ』

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