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2020年の10曲

毎年、一年間に聴いたたくさんの楽曲から、特に印象深い10曲を選んでいます。

2020年の10曲 ライナーノーツ

Jeff Parker - Build a Nest

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Tortoiseのギタリスト、ジェフ・パーカーによるソロ作品からアルバムの冒頭を飾る楽曲。ボーカルはジェフの娘、Ruby Parkerで、ジャケットの写真はジェフの母の若き日の写真という親子三世代共演にじーん。アルバム中にはコルトレーンのカバー等もあるが、もはや「ジャズギタリスト」という枠にはまらない、懐かしくも新しいサウンド。

Khruangbin - So We Won’t Forget

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栃木で撮影されたというミュージックビデオがとにかく印象的で、一年を通してよく聴いた。Withコロナの生活の中で、“思い出は強力なものだ。忘れてしまわないように、これまで以上に愛する人に愛していると伝えることが大切だ” と歌われる歌詞にも深く共感する。メメント・モリ。死は決して遠いものではない。軽快ながらも影のあるファンクネスが、コロナ禍の気分にマッチした。

Shohei Takagi Parallela Botanica - ミッドナイトランデヴー

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緊急事態宣言が出て、せめてもの運動をと思い早朝散歩をしながら聴いていた。高城さんは昔「お寺の音楽会 誰そ彼」にご出演いただいたことがあったり、同じくらいの歳の子がいること等、勝手に親しみを抱いている。正に、この歌を頻繁に聴いていた頃に発表された彼の日記にも強くシンパシーを感じたり。最近レコードでリリースされたのでまた聴きかえしているが、12月現在では4月〜5月以上の緊張感が日本を覆っている。

Caetano Veloso & Ivan Sacerdote - Peter Gast

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イントロのクラリネットの音一発で、心奪われてしまった。イヴァン・サセルドーチ、なんという才能か!カエターノ翁は年末に配信ライブもやっておられたが、元気そうでよかった。「サウダージ」というポルトガル語は、全人類共通の「ふるさと感覚」を示しているように思う。今、カエターノが演奏してくれていて、よかった。

Peter Broderick - Stop and Listen

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ピーター・ブロデリックは久しぶりのボーカル作品。2018年にアーサー・ラッセルのカバー作があったので、あまり久々な感じはなかったけどオリジナルのボーカル・アルバムとしては5年ぶりらしい。彼の歌ものはとてもいい。ブライアン・イーノからの影響色濃いアンビエントもいいし、"ポスト・クラシカル"の文脈にあるレーベル {int}erpret null のコンピに収録された少作品群もよく聴いたな。多彩。

Cornershop - Everywhere That Wog Army Roam

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インド系英国人のTjinder SinghによるバンドCornershop。ユニークでグルーヴィーなロックに高校生の頃に夢中になった(Norman CookによるRemixも何度聴いたことか)その名をほぼ忘れかけていた今リリースされた本作は、期待を裏切らないCornershop節全開で嬉しい!広い場所でデカい音で聴きたい。

スチャダラパー - スチャダラパー・シン・グス

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2020年はたくさんのライブが流れた。音楽だけじゃなくて、あらゆる興行、たくさんの人たちが準備していたモノコトが行き場を失い、悲しみが蔓延した。特に、そればかりを生業にしている人にとっては苦しい時代。スチャダラパーのデビュー30周年記念ライブ『スチャダラ2020』も例に漏れず、チケットをとっていたが中止になってしまった。彼らが近年執心しているNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス』をもじったこの楽曲の歌詞にある「"でもやるんだよ" でいくしかないじゃない」という根本敬イズムが、また静かに光を放つ。(「スチャダラ2020」は12月に形を変えて行われ、配信もされている)

Moses Sumney - Cut Me

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モーゼス・サムニーは、Alabama Shakesのブリタニー・ハワードや、レオン・ブリッジス、マイケル・キワヌーカと並べて聴きたくなる米シンガーソングライターのひとり。最終的にダブルアルバムになったという大作セカンドは、多様性に溢れていて膨大なるエネルギーが込められていることがわかる。特に2曲目「Cut Me」は、トロンボーンと多重コーラスが美しく印象的。歌詞を読むとストイシズムというかマゾヒズムというか、彼のようなアーティストはある種のアスリートなのだと感じいる。

Lang Lee(イ・ラン) - The Generation of Tribulation(患難の世代)

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これまで名前は知っていてもずっと聴いてなくて、たまたま友人の車でライヴ音源を耳にして良いなと思ったイ・ランさん。6月にデジタルシングルとしてリリースされたこの曲は、もう5年くらいの間ライブの定番曲だったとか。しかし刹那的な歌詞といい、日本人の写真家・志賀理江子さんの映像作品をあわせたミュージックビデオといい、コロナ禍という「患難」の時代には、より実感を伴って響く。

Bon Dylan - Murder Most Foul(最も卑劣な殺人)

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ディランの作品はやはりレコードで聴いてようやく全貌が見えてくる。それでもまだ、先がある。ちょっとLowを下げて聴いちゃうくらいボーカルが前にあるんだけど、耳を澄ますとバックの絢爛な演奏が見事でずっと浸っていたくなる。こんな上品なブルースある?って感じの曲とか。そして最近ひっぱりだこのプロデューサーBlake Millsにギターを弾かせている点もさすが(どの曲なのか書いてないんだけど)
アルバムの白眉はSide Dを丸々つかった17分に及ぶ「Murder Most Foul(最も卑劣な殺人)」。Covid-19が猛威を奮い出した頃にディランからのメッセージとともに発表された楽曲で、自身の生きてきた時代について数々の固有名詞とともに語るように歌う叙事詩。これも演奏がほんと美しい。彼岸の音楽。

おまけ:2020年(音楽以外の)ふりかえり

【映画/ドラマ】映画館で観ることができたのは『パラサイト 半地下の家族』『1917 命をかけた伝令』『TENET』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の4本だけ、、、。混まない地元映画館でかかった作品のみ。しかしこれまで「観る時間がないから」と契約を踏みとどまっていたNetflixを「STAY HOMEだから」と遂に解禁。ずーっと観たかった『ストレンジャー・シングス』シーズン1〜3の二周目があと1話を残すのみ。観る時間あるじゃん(笑)他には『ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから』、『クイーンズ・ギャンビット』、『ブックスマート』等を楽しく観た。まだ観ていない(けど観たい)のは『ミッドサマー』、『mid90s ミッドナインティーズ』。2021年に楽しみなのは『ストレンジャー・シングス』のシーズン4!
Netflix便利だけどついつい観過ぎちゃって寝不足になるし、『TENET』とか『1917』みたいな作品はやっぱ映画館で観たいなあ。

【漫画】香山哲さんの『ベルリンうわの空』は、作者のベルリンでの生活をエッセイ的に(創作も交えて)綴った漫画。たまたまWeb連載が目に入って興味をもって、単行本を手に入れた。香山さんの「生活」へのまなざしに共感するところが多い。続編『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』もよかったし、完結編となる『ベルリンうわの空 ランゲシュランゲ』にも期待。ずっと読んでる『センゴク権兵衛』は小田原城攻めが終わり、北条早雲まで遡って2年くらいかけて丁寧に描いてきた北条家に幕引き。感動的だった。他には、諸星大二郎先生が『西遊妖猿伝』を諦めていないのも嬉しかったし、オール新作の短編集『諸星大二郎劇場 / 第3集 美少女を食べる』は圧巻のクオリティだった。(デビュー50周年記念展が東京に来るのが待ち遠しい!)続きが楽しみなのは『チ。- 地球の運動について -』1巻の時点でここまで引き込まれたのは久しぶり。

【本】"2020年に出版された本"で振り返ろうとすると何冊もないのだけど、夏葉社の島田潤一郎さんによるレーベル「岬書店」からの本はどれも夢中になって読んだ。島田さん自身による『本屋さんしか行きたいとこがない』には共感ばかり。オムニバス形式の『ブックオフ大学ぶらぶら学部』も面白かったけど、2000年生まれの大阿久佳乃さんによる『のどがかわいた』は特にハッっとさせられた。「詩をよむ」とはどういうことなのか?詩の好きな友人に教えてもらっているような気分だった。すると岬書店の売上スリップ(本に挟まれている短冊状の伝票)には「ともだちのような本 岬書店」とある。

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ともだちのような本。ともだちのような漫画。ともだちのような映画。ともだちのような音楽。なるほど「ともだちのような感じ」がいいのか。この投稿で紹介したものすべてとは言わないけれど、いくつかの作品に共通するのは「ともだちのような」という修飾語かもしれない。生身の友達に会える機会が少なくなってしまった2020年、「ともだちのような文化」が自分を支えてくれていたのか。
引き続き「ともだちのような文化」の力を借りながらも、2021年はもっと友達と一緒に音楽を聴いたり、映画を観たり、お酒を飲みに行ったりしたい。

それではみなさま良いお年を
we'll meet again on sunny day

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