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白いちょうちょうを追って

1997年7月1日(火)
鮮やかなオレンジ色の朝の空。
信号待ち。
ひとり、頭がおかしいようなおじさんがいて、彼だけ白に青のしましまパジャマで、グループから離れていた。藍と白の千筋・せんすじ? 細縞のきものに白割烹着の女性はグループの付き添いかな。その人が、ひとり離れて佇むおじさんに「・・・のようにまっすぐ行きますからね」と話しかけた。聞き違いでなければ、「みみずのように」と聞こえた。

信号が緑に替わった。グループはまっすぐ進み出した。
パジャマのおじさんは右へ動いた。白いちょうちょうが飛んでいるのを、おじさんのぼーっとした目が追っていた。おじさんは引っ張られてふらふら歩いていた。白いちょうちょうは、おじさんにしか見えないが。

おじさんはグループに気づいていないけど、グループの方はおじさんに気づいて横断歩道の上で立ち往生してしまった。
おもちゃの兵隊みたいな警官が来た。
信号が赤になっちゃったらとわたしは気が気じゃなかった。
付き添いの女の人はおじさんを連れて行くのを諦め、グループはまっすぐ歩き出した。

わたしはおじさんを追うことになった。その時、自分が車椅子に座っていることを知った。
車椅子は人に押してもらって動くと考えたわたしは、自分で自分の車椅子を押すことにした。自分の背中を自分の両手で押す気持ち。押そう、と手を後ろにした。押せない。難しいと思った。

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