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こっそり埋め替えられた墓

1997年5月1日(木)
昼間、大きな公園の縁の端を歩いていたと思う。
同じで方向へ歩く人たちがけっこういた。わたしもその人たちも、散歩を楽しむというんじゃなくて、どこか目当てがあって近道だから縁の端を歩いていたようだ。

石段にさしかかると、きたない老婆がいた。頭を黒の布で包み、骨張ったからだも黒を着ていた。
老婆は憎しみをぶちまけるように口汚く罵っていた。
内容は、この公園には3基も墓があるけれども、墓標の下には何も入っていない。中身はこっそり公園の別の場所に埋め替えられている。都は6基もの墓に金を使っている! 3基分は無駄な金だ!

この公園にお墓があるなんて初耳だったが、意味がわからない話だったから、ふーんって聞き流した。
とても恐い顔のお婆さんで、少し頭がおかしいように思えた。お婆さんを気にする人は誰ひとりいなかった。それも不思議だが、そんなことはよくあることだ。わたしは皆に追いつこうと石段をのぼった。

石段をおりてきたら、工事の人が目の辺りを押さえて倒れていた。血が流れていた。あの老婆が石を投げつけたという。
石段からつづいている、完成していない石畳の道で、途中2ヶ所、穴があいていたのを不自然に感じた。

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