撃った

1997年12月24日(水)
夏。人が来た。背後の窓を振り返ると眼鏡の男だった。この人に版画の彫り方を習っているらしいわたしは、面倒に感じたが追い返すわけにもいかないなんて思ってると、どうぞとも言わないのにどんどん入ってきた。どこまでも来そうだった。「あの、散らかってますし、母もいますから」と制した。母はあっぱっぱを着て寛いでいたので、そんな無防備な母を守らなければと思った。
彼は戸口の床に座りこみ、部屋の中の母を見て、にー、と笑った。おっさんかと思ったらガキのようだった。「暑いですねえ」と言うので、「ええ、暑いですね。うちは冷房がありません。からだが現代に適応していないんです。汗をかいておふろに入ります。結構なことです」と答えておいた。
そこへ、白人の大きな男と日本人の男が来た。ネクタイをしていた。
白人の男がのしかかってきた。目が穴のようで何も映っていなかった。
力の差が圧倒的で赤子と大人のようだった。口に何か押しこんできた。
わたしには自分を助ける力が無く、なぜ他の二人の男がわたしを助けないのか理解できなかった。はじめに来ていた方は、さっきまで横柄な感じさえして、へらへらしていたのに腰を抜かして怯えていたし、日本人の連れはただ困ったように見ていた。
隣の家の白人の女の子が、なぜかわたしの危機を知って飛びこんできた。
ダン! ダン!
彼女は男の背を二発撃った。
男が倒れて、彼女の怒りに燃える目を見た。

人を殺させてしまった。

頭、右に圧迫感。



2012年7月6日
「隣の家の白人の女の子」って、あの人形だと思う。




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