情報の値段

1997年12月2日(火)
東南の、日が射さないはずの部屋が明るくて春のようだった。母とそこにいた。うちを覗いている女がいるらかった。正体不明、目的不明で気味が悪い。女は夜来る。知らないうちに。
外に気配がした。窓によると二人の女が慌てて逃げた。知っている人だったので名を呼んだ。
仕方ないと思ったのか、にやにやして戻ってきた。この二人はいつもこうしてごまかす。
「何してるの? うちを覗く人がいるの。それかと思った」
「あはは、あのね、それさぁ···」
「何? 知ってるの? 教えて」
「幾ら出す?」
嫌なことを言う。軽蔑の心、憎しみの心になりかけて、ならなかった。愉快ではないが、この人はこの人のやることをやってるんだ、と思った。軽蔑も憎むのも、もうしたくなくなっていた、十分だった。
母は取り引きを言下に退けようとしたが、わたしはお金を出してもいいと思った。わたしにあるお金は一万円と少しで、彼女は足りないと言うかもしれないけど。価値のない情報かもしれないけど、聴いてみなければわからないし。
「幾らって、あなたは幾らと思ってるの?」
ばばぬきしてる気分でたずねた。
彼女はごしゃごしゃ言って逃げてしまった。


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