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(コラム-12)“捕食者”のジャニー喜多川氏は、常軌を逸する「好みの獲物を自由に選べる“狩場”としてのジャニーズ事務所」をつくりあげ、そのシステムは55年間続いた!

 2023年(令和5年)3月7日、イギリスで、BBCのドキュメンタリー『捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル』が放送された。
 このタイトルには、重要なキーワードがある。
 それは、「捕食者(predator)」ということば(表現)である。
 日本では聞き慣れないことば(表現)かも知れないが、性犯罪、特に、「小児性愛者(ペドファリア)」による子どもを対象にした性犯罪に対し、厳格な基準にもとづき処罰を下す欧米諸国では、一般的に使われていることば(表現)である。
 「捕食者」は、小児性愛者(ペドファリア)、窃視(のぞき、盗撮)、性的サディズム、性的マゾヒズム、窃触症(さわり魔、痴漢)、露出などの「パラフィリア(性的倒錯者)」に限定されるものではなく、新興宗教、カルト、スピリチュアル、占い、過激な政治的思想、DV(デートDV)、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなど、他の狙いを持った人も含まれる。
 重要なことは、こうした「捕食者」たちは、同じ手口(型)で犯行に及ぶ。
 獲物を探しだし(ターゲットを選定し)、信頼関係を構築し、それを利用する。
 この手口(型)は、「グルーミング」と呼ばれ、対象者(ターゲット)が子どものときには「チャイルド・グルーミング」という。
 また、ことばでの威圧や借りをつくられるなど不平等・非対等な関係を巧みに築かれ、あらがえない状況に追い込んで、性行為を強いるときには、「エントラップメント型の性暴力」となる。
 「エントラップメント(entrapment)」とは、罠にかけることである。
 故ジャニー喜多川氏が仕掛けた“罠”は、最初は、少年野球チームであり、その後、ジャニーズ事務所が主催するオーディションとなり、その“餌”は、ジャニーズJr.のメンバー、デビューグループのメンバーに選ばれ、アイドルスターになることである。
 エントラップメント型の性暴力を受けた被害者は、自殺率が高くなるといわれている。
 “捕食者”は、ターゲットを絞り込んで接近手段を確保し、被害者からの信頼を得て、被害者を孤立させ、その関係性をコントロールし、隠蔽する。
 故ジャニー喜多川氏にとって、オーディションに集まり、合格し、合宿所と呼ばれる寮に寝泊まりする少年たちは、リスクを犯さずに、絞り込まれたターゲットに接近するうえで、とても都合がよかった。
 あとは、ジャニーズ事務所の創業者とデビューを夢見る少年たちという上下関係が容易に成り立つ構図であり、システムとしてエントラップが成り立っているので、敢えて、少年たちにエントラップをかける必要のないほど容易だ。
 故ジャニー喜多川氏と被害者との年齢差、権威者とデビューしたい少年の願望・夢(弱み)につけ込んだ性加害という意味で、対等な立ち位置での男色とは異なり、非常に卑劣な性加害行為といえる。
 そういった意味では、以前から性的虐待疑惑があり、2017年(平成29年)10月5日、ニューヨーク・タイムズが、数十年に及ぶセクシュアルハラスメントを告発された映画プロデューサーのヴェイ・ワインスタイン氏と類似点が多い。
 しかし、ヴェイ・ワインスタイン氏と故ジャニー喜多川氏は、絶大な力を持つ権威者という意味では同じであるが、エントラップのあり方が異なる。
 その違いは、エントラップの罠が、個々の映画などのオーディション参加者、出演者であったヴェイ・ワインスタイン氏と異なり、故ジャニー喜多川氏は、ジャニーズ事務所そのものが、エントラップであったことである。
 つまり、“捕食者”子ジャニー喜多川氏にとってのジャニーズ事務所は、獲物となる子どもを集め、狩りをしたい(性加害、性交をしたい)ときに、好みの獲物を自由に選べる(選び放題の)“狩場”であった。
 “捕食者”故ジャニー喜多川氏にとっての“狩場”は、1964年(昭和39)年から2019年(令和元年)にジャニー喜多川氏が亡くなるまでの55年間にわたり維持され続けた。
 常軌を逸する異常な性犯罪システムとしてジャニーズ事務所が存在し続けたことになる。
 このジャニーズ事務所が、“捕食者”である故ジャニー喜多川氏の“狩場”という視点に立つと、カトリック教会、特に孤児院や学校、神学校など司祭や修道者、施設関係者と子どもたちが、共同生活を送る施設で繰り返された性的虐待事件が、酷似する。
 ある意味、ジャニーズ事務所は、芸能事務所を隠れ蓑とした女性信者を神格化された教祖に差しだし、性的虐待が繰り返される「カルト」に近く、故ジャニー喜多川氏は、そのカルトにおける神格化された存在に近いといえる。
 つまり、ジャニーズ事務所は、類を見ない性犯罪の温床であった。

 ペドファリアは、「13歳未満の小児」を対象(ターゲット)とする。
 同じペドファリアであっても、「幼児期期(3-6歳)」、「学童前期(6-10歳)」、「思春期前期(10-12歳)」のいずれかを主ゾーンとするように、この時期の体型が重要なファクターなる。
 つまり、ペドファリアは、「幼児体型を好む者」、「学童児体型を好む者」、「第2次性徴前後の体形を好む者」に分かれ、この主ゾーンはほぼ破られることはない。
 欧米社会では、小児を狙ったペドファリアの犯罪が発生したときには、前歴リストの中から、対象(ターゲット)となった主ゾーンに沿った捜査が進められる。
 ただし、捕食者であるペドファリアが欧米の白人で、対象者の子どもがアジア人であるときには、アジア人は、欧米の白人に比べ、顔も体形も幼く見えることから16-18歳まで対象は広がる。
 今回、2023年(令和5年)3月7日イギリスで、BBCのドキュメンタリー『捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル』で、被害者(26歳)が、故ジャニー喜多川氏から性加害を受けたのは、「中学3年生(14-15歳)」で、「事務所に入って1ヶ月後であった」と述べているので、最初に性加害を受けたのは、いまから11-12年前の2008年(平成20年)-2009年(平成21年)ということになる。
 このとき、故ジャニー喜多川氏は、77-78歳である。
 また、同年5月16日、立憲民主党の「性被害・児童虐待」国対ヒアリングに出席した別の被害者(37歳)が「被害を受けたのは13歳だった」と述べているので、故ジャニー喜多川氏の性加害の時期は、1998年(平成10年)-1999年(平成11年)となる。
 これは、後述する週刊文春が、故ジャニー喜多川氏の所属タレントに対する性加害疑惑を報道し、その後、控訴審(高裁)で事実認定を受けた時期と重なる。
 このとき、故ジャニー喜多川氏は、60-61歳である。
 加えて、同年5月17日、文春オンラインの記事によると、1970年代にジャニーズ事務所のアイドルグループの付き人をしていた男性が、故ジャニー喜多川氏から性加害を受けたのは「17歳前後」である。
 1970年代に活動していたジャニーズ事務所所属のアイドルグループのひとつ「フォーリーブス(1968年-1978年)」の元メンバー故北公次氏は、1988年(昭和63年)に暴露本を出版し、故ジャニー喜多川氏による性加害を告発している。
 1970年代、故ジャニー喜多川氏は、39歳-48歳である。
 今回、被害者が告発した「被害を受けた年齢」を踏まえると、故ジャニー喜多川氏は、厳格な基準にもとづくペドファリアに該当せず、「思春期(前期10-12歳/後期12-15歳)」から「青年期前期(15-18歳)」辺りの少年を主ターゲットとする“捕食者(いわゆる男色)”であるといえる。
 これは、“捕食者”故ジャニー喜多川氏の性加害が「性交」をひとつの目的にしていることから、性交が比較的に容易な年齢に達した(裂傷などで死亡するリスクが減る)少年を獲物(ターゲット)にしていたことを意味する。


 “捕食者”の故ジャニー喜多川氏に、“狩場”であるジャニーズ事務所は獲物を集める役割を果たしたのがオーディションであり、そのオーディションに参加する子ども、子どもを参加させたい親に対する宣伝活動を担ったのは、ジャニーズ事務所に加え、ジャニーズ事務所からデビューを果たしたグループ、そのバックダンサーを務めるジャニーズJr.のメンバーに加え、メディア、ジャニーズファンなど、ジャニーズ事務所とその所属グループとかかわったあらゆる関係者である。
 あらゆる関係者は、いわゆる「いじめの4種構造」の「観衆」「傍観者」に該当する。
 「観衆」は、自ら手を下さないが、ときに、はやしたてたり、おもしろがったりして火に油を注ぐ役割を担い、“捕食者(加害者)”故ジャニー喜多川氏の性加害行為を是認する後ろ盾の役割を果たした。
 デビューを果たしたアイドルグループのメンバーが、テレビ番組などのメディア媒体で、故ジャニー喜多川氏の「ユー、……。」という独特な表現を使い、逸話を武勇伝的に、面白おかしく話す行為は、故ジャニー喜多川氏が唯一無二、特別な存在であると神格化することに大きく貢献した。
 この行為も「観衆」に該当し、意図的でなかったとしても、歴代のアイドルグループが大きな広報活動を担ったという意味で、明確に、“捕食者(加害者)”故ジャニー喜多川氏の性加害行為を是認する後ろ盾の役割を果たしてきた。
 “捕食者(加害者)”故ジャニー喜多川氏の性加害行為を知りながら通報を躊躇ったり、見て見ぬふりをしたりする「傍観者」は、“捕食者(加害者)”故ジャニー喜多川氏の性加害行為に対する“暗黙の指示”となり、さらに、“捕食者(加害者)”故ジャニー喜多川氏の性加害行為を助長する(性加害行為を再び犯したり、性加害行為を繰り返したりする)役割を担う。
 1970年代には、故ジャニー喜多川氏が所属タレントに性加害を加えていたことは、ジャニーズ事務所内では広く知られ、「寝るときは、脱がせ難いように下着ではなく、海水パンツ(水着)がいい。」など具体的な防御策が伝えられていた。
 つまり、1970年代には、ジャニーズ事務所内で、故ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性加害行為は、“暗黙のルール”となっていた。
 「暗黙のルール(暗黙の了解)」とは、「ここではこうすべきである」という規範であり、組織においては、組織文化や組織風土に近く、不文律ともいわれる。
 「不文律」とは、明言されていない、あるいは、明文化されていないが守らなければならない規則のことである。
 つまり、1970年代のジャニーズ事務所内では、故ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性加害行為は“暗黙の掟”として、「ここではこうすべき(求められたら、応じなければならない)」という企業文化、企業風土がつくられていた。
 そして、1970年代以降、ジャニーズ事務所、ならびに、すべての関係者は、この“暗黙の掟”として、故ジャニー喜多川氏の所属タレントに対する性加害行為は容認することが求められてきた。
 これらの情報を知り得た、伝え聞きした人たち、伝承としての“暗黙の掟”に応じた人たちすべてが、「傍観者」である。
 また、「傍観者」は、集団圧力(世間の眼、組織の責任)となり、「止めに入る者」を躊躇させ、時に、「告発する者」の足をひっ張り、黙殺する役割を担う。
 この視点に立つと、「傍観者」も加害者側に位置する。
 “捕食者”故ジャニー喜多川氏が、獲物を自由に選べる“狩場”であるジャニーズ帝国をつくりあげることができたのは、あらゆる関係者が、「観衆」「傍観者」として“暗黙の掟”に従い、加害者擁護の役割を担い続けたからである。
 このことは、故ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性加害行為を見て見ぬふりをして、事実を隠蔽し、事実をなかったことに黙殺することで、この常軌を逸する異常なシステムとしてのジャニーズ事務所を成り立たせた人たちすべてが、故ジャニー喜多川氏の性加害行為に加担していたことを意味する。
 ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性加害疑惑については、今回、2023年(令和5年)3月7日イギリスで、BBCのドキュメンタリー『捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル』が放映される前に、1964年(昭和39年)、1988年(昭和63年)、1999年(平成11年)10月(以降14週)の3回にわたり問題になってきた。
 1964年(昭和39年)、故ジャニー喜多川氏が、「ジャニーズ(4人グループ)」のデビューに伴い、在籍していた「新芸能学院」の未払いの授業料、スタジオ使用料など270万円の支払いを求められた裁判があった。
 この裁判では、金銭トラブルよりも、少年野球チームに在籍していたことから続いた性加害が注目された。
 このとき、故ジャニー喜多川氏は、33歳である。
 私は当時2歳であったが、フォーリーブス(1968年(昭和43年))はリアルアイム、小学校中学年のころには、故ジャニー喜多川氏の性加害行為の噂は、芸能ネタに極端に疎い私の耳にも入っていた。
 それから20年後の1988年(昭和63年)、元フォーリーブスの故北公次氏が暴露本(光GENJIへ-元フォーリーブス北公次の禁断の半生記)を出版し、故ジャニー喜多川氏による性加害を告発している。
 それから11年後の1999年(平成11年)10月以降、週刊文春は、故ジャニー喜多川の所属タレントに対する性加害疑惑を14週にわたり報道し、この記事をめぐる裁判(掲載直後の同年11月、文藝春秋社に対し、名誉棄損による損害賠償を求めて提訴した控訴審(高裁))では、2003年(平成15年)、「記事の重要部分を真実」と認定した。
 つまり、控訴審(高裁)において、故ジャニー喜多川氏の所属タレントに対する性加害は、疑惑ではなく、事実と認定されている。
 にもかかわらず、故ジャニー喜多川氏、ジャニーズ事務所は、その後も沈黙を続けただけではなく、メディア、ジャニーズファン、一般大衆は、その事実を黙殺した。
 このとき、故ジャニー喜多川氏は、65歳である。
 1964年(昭和39)年から1999年(平成11年)10月の32年間で、21組90人がデビューし、1999年(平成11年)10月、性加害疑惑を報道から2019年(令和元年)にジャニー喜多川氏が亡くなるまでにデビューを果たしたのは12組57人(以上、目算)、ここにバックダンサーなどを務めるジャニーズJr.(2023年(令和5年3月現在、約200人が在籍。総数不明、1998年(平成10年)から2002年(平成14年)ことは、番組名に「ジュニア」「J」の名を冠にした番組多数放映、3大ドームや武道館でコンサートを行う)が加わる。
 こうした人たちが、“暗黙の掟”に従い「傍観者」になることは、仕事を得ること、仕事を続けることに必要不可欠な要素であった。
 ファミリーとして仲間意識が高く、暗黙の掟が伝承され、神格化された権威者を擁護する、つまり、見て見ぬふりをして、事実を隠蔽し、事実をなかったことに黙殺することで大きな利益(マネーや権力)を得る人たちがいる。
 時に、利害関係者が、大きな利益を損なう事態を握りつぶす。
 今回は、国内のメディアではなく、イギリスのBBCが放映したことで、握りつぶすことができなかった。
 国内の各主要メディアは、イギリスのBBCで、故ジャニー喜多川氏の性加害を告発した被害者が、同年4月12日、日本外国特派員協会で会見を行うまで、36日間、報じるのを躊躇していた。
 なお、「日本外国特派員協会(FCCJ)」は、1945年(昭和20年)、太平洋戦争の終戦に伴い日本に着任した新聞社、通信社、雑誌社、ラジオ局に勤務するジャーナリストたちや写真家たちによって創立されていることから、国内の主要メディアとは立ち位置が異なる。
 世界でもナショナリズムの台頭が報道の自由度を制限していると指摘され、「国境なき記者団(Reporters Without Borders;RSF)」によって調査・発表される報道の自由に関する国際ランキングで180ヶ国中71位(2022年)の日本のメディアは、独裁国家のように、権力者、特に、政府、広告スポンサーの顔色をうかがい、事実を見て見ぬふりをし、事実を隠蔽し、事実をなかったことに黙殺する役割を手伝うが、「日本外国特派員協会」に参加している国外メディアは、その権力に購うまっとうな役割を担っている。
 例えば、元TBC記者の山口敬之氏から性的暴行を告発し、社会から非難、誹謗中傷を受けていたジャーナリストの伊藤詩織氏をゲストに迎えた「日本外国特派員協会」の会見は、社会の当性暴力事件に対する認識の流れを大きく変えた。
 今回の告白も、この「日本外国特派員協会」の会見が大きく流れを変えたといえる。

 イギリスで、BBCのドキュメンタリー『捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル』が放送された2023年(令和5年)3月7日以降、沈黙を続けていたジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長(故ジャニー喜多川氏の姪)は、同年5月14日、謝罪する動画と文書を発表した。
 1981年(昭和56年)10月23日に写真週刊誌『FOCUS』、1984年(昭和59年)11月9日に同『FRIDAY』、1986年(昭和61年)11月5日に同『FLASH』が創刊されると、芸能事務所は、所属タレントがスクープ写真を撮られることに戦々恐々とし、そのスキャンダル対策は、重要で、プライオリティ(優先順位)の高い経営課題となっている。
 にもかかわらず、藤島ジェリー景子社長は、2003年(平成15年)の週刊文春との控訴審(高裁)判決について、「その詳細については、私には一切共有されず、今回の件が起こり、当時の裁判を担当した顧問弁護士に経緯確認するまで詳細を把握できいなかった。」と述べているが、知ろうと思えば、当時の記事は読むことができる。
 それ以前に、当時取締役である藤島ジェリー景子氏が、その判決(名誉棄損に対する損害賠償を求め提訴し敗訴。つまり、性加害疑惑は、疑惑ではなく事実認定された)事実を知ろうとしなかったことが事実であれば、「恥ずかしながら」ではなく、経営者として失格である。
 しかも、事実(判決文)に裏づけられた説明ではなく、「あくまで私の推測」として、身内の心情を語っているが、その内容は、提訴を正当化するものであり、結果(控訴審(高裁)判決)に言及せず、故ジャニー喜多川氏の性加害行為が認定されたことについては回答を避けた。
 そして、「故人のため確認できない。」、「告発内容を事実と認める、認めないと一言でいい切ることは容易ではない。」と“死人に口なし”を盾にとった。
 これは、企業組織の視点ではなく、親族、個人の視点になっている。
 親族の自己弁護でしかない。
 無責任で、恥ずべきものだ!
 経営者としては失格、経営者の器ではない!
 この言及は、2003年(平成15年)の控訴審(高裁)判決で、性加害疑惑を告発した記事の事実認定がされている中で今回の証言を踏まえると、企業の組織内部で発生したセクシュアルハラスメント事案に対する対応として、コンプライアンスとして極めて不適切である。
 コンプライアンス(compliance)は、「法令遵守」を意味するが、単に「法令を守ればいい」というわけではなく、法令遵守に加え、倫理観、公序良俗などの社会的な規範に従い、公正・公平に業務をおこなうことを意味する。
 平成29年(2017年)10月、世界中に広まった「♯Mee Too」により徐々に被害が明るみになりつつある就職活動のOB訪問時の性暴力事件、例えば、個別に面接指導などを実施すると誘いだし、強制性交や強制わいせつに至った大林組(平成31年(2019年)2月)、住友商事(同年3月)、リクルートコミュニケーションズ(令和2年(2020年)12月)などの社員が起こした性暴力事件などでは、被害者が、会社に被害を訴えた直後に、会社は当該社員を解雇している。
 こうした企業の対応の背景にあるのが、企業のコンプライアンスである。
 国際基準では、企業でのコンプライアンスで重要なことは、一般社員はいうまでもなく、幹部社員、役員(取締役以上)など立場が上位にある者に対し、より厳格に適応しなければならないことである。
 しかし日本の企業ではその逆で、幹部社員、役員(取締役以上)など立場が上位にある者に対して、一般社員よりも対応が甘いだけではなく、組織ぐるみでうやむやにすべく、隠蔽し、事件そのものを黙殺しようとすることである。
 日本社会の隅々まで染みついた恥ずべき習慣である。
 2003年(平成15年)の控訴審(高裁)判決で、「性加害疑惑を告発した記事の事実が認定」された時点で、ジャニーズ事務所そのものを解体していれば、少なくとも以降の性被害は防げた。
 その機会をジャニーズ事務所、メディア、ジャニーズファンなどあらゆる関係者は逸した。
 いま、そして、これからしなければならないことは、サリン事件を招いたオウム真理教の後継団体が、亡くなったり、後遺症を抱えたりした被害者に対する賠償責任を負ったように、故ジャニー喜多川氏から性加害を受けた所属タレント(被害者)に対する賠償責任を果たし、PTSDなどの後遺症に対する治療費などを永続的に支払う機関(財団)を設立することである。
 そのためには、一度、ジャニーズ事務所を解体し、新たな後継事務所としてやり直すことが必要である。
 このとき、世界のエンターテインメント業界は、その企業姿勢を高く評価し、再建を後押しする。
 しかし残念ながら、同年5月14日、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長(故ジャニー喜多川氏の姪)の言動には、自己(親族)弁護に終始し、浅はかにもメディアや関係機関、ジャニーズファンには、この程度の対応で十分に許されると認識し、事態をうやむやにして乗り切ってやろうとの目論みが見え見えだった。
 この藤島ジェリー景子社長の見下した態度に対し、メディアや関係機関、ジャニーズファンは、利害関係者の顔色をうかがったり、自身の利益(押しアイドルの活動に支障がでるのを防ぎたい思いを含む)を守ろうとしたりすることなく、怒りの声として「No!」という必要がある。

 最後に。
 冷静に、故ジャニー喜多川氏の手口と、十数年にわたり、エントラップメント型の性加害を繰り返した映画プロデューサーのヴェイ・ワインスタイン氏との類似性、ジャニーズ事務所と故ジャニー喜多川氏の関係性は、カトリック教会、特に孤児院や学校、神学校で共同生活を送る子どもたちと性的虐待を繰り返した司祭や修道者との関係性と酷似することを読みとって欲しい。
 55年間にわたり、“捕食者”故ジャニー喜多川氏にとってジャニーズ事務所は、獲物となる子どもを集め、狩りを行いたいときに、好みの獲物を自由に選べる(選び放題の)“狩場”という常軌を逸した異常なビジネスモデルだ。
 こうした常軌を逸した異常なカルトといえるようなビジネスモデルは、エンターテインメント業界に存在してはならない。
 そして、異常な組織風土の中で、被害を受けた者が、“捕食者”故ジャニー喜多川氏の性加害行為を告発するとき、メディア、ジャニーズファン、一般大衆は、被害者の告発をなかったこととして黙殺する「社会的なもみ消し」に加担してはならない。
 これまで、メディアが、所属タレントの女性問題を報じると、一部のジャニーズファンは、雑誌の編集部に電話やFAX、そして、SNSで「嘘を書くな!」「タレントをつぶす気か!」と過激な抗議活動にでる厄介な存在となり得た。
 ジャニーズ事務所に所属するグループ(タレント)の音楽・芸能活動を愛するがために、ジャニーズ事務所の創業者である故ジャニー喜多川氏の犯した性加害行為の事実を受け入ず、非難し、侮蔑する行為は、被害者の語る権利さえ認めず、否定する2次加害、セカンドレイプである。
 抗議活動として、2次加害の刃として被害を告発した人たちに向けられ、被害者の声(訴え)を黙殺するのではなく、被害者の声(訴え)に耳を傾けて欲しい。
 被害を受けた人が、その告発により2次加害を受け、ことばの暴力というナイフで心を抉(えぐ)られると、とても危険である。
 同年5月17日、2023年(令和5年)3月7日、イギリスで、BBCのドキュメンタリー『捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル』で、故ジャニー喜多川氏からの性被害を告発した元ジャニーズJr.の被害者が、Twitterで、「持病のパニック障害が再発したため、活動休止する。」と伝えた。
 被害を告発し、精神的に追い込まれる。
 あってはならないことだ!

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