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(コラム-15) 2ヶ所の水上公園で、「水着撮影会」が中止になったことを受け、『児童ポルノ』の規定を考える

 公益財団法人の県公園緑地協会が指定管理している「しらこばと水上公園(越谷市)」と「川越水上公園(川越市)において、複数の団体が開催する予定だった水着を着た女性(セクシー女優や人気グラビアモデルらが出演)を撮影するイベントが、県民から県に対し、「明らかに水上公園と分かる背景で撮ったわいせつな写真がインターネット上に掲載されている」との指摘を受けて、主催者に施設の利用を許可しないと伝えました。
 この「水着撮影会」が中止になったことを受け、「児童ポルノにあたるので、中止はあたり前」という意見に対し、グラビアアイドルの女性が「発表の機会が奪われた」、「表現の自由、児童ポルノとして規制するのはおかしい」、「準備してきた運営会社がかわいそう」などさまざまな意見がでています。
 その論議を呼んでいる「児童ポルノ」の規定について、『DV被害の実態、女性と子どもに及ぶ後遺症のリアル -女性と子どもが、暴力被害から脱するための手引き-(手引き(新版2訂))』の「-A-1-(2)-⑥性的搾取/児童ポルノへの問題意識が極端に低い日本社会」の中で明記していることから、そのまま載せます。
 以下、この問題の要点です。
 「児童ポルノ」とは、平成11年(1999年)11月1日に施行された『児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童買春・児童ポルノ禁止法)』において、「18歳未満による性(的)行為を表現したもの、ヌード、またはヌードに近い児童の姿が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義されています。
 しかし、「ビキニを着た幼児に、一般成人男性は性欲を喚起されない」という“前提”のもとで、上記のようなロリコングッツや撮影会は児童ポルノにあたらないとされていました。
 なぜなら、日本の『児童買春・児童ポルノ禁止法』は、この問題に先進的にとり組んでいる欧米諸国とは異なり、“性表現の規制”というよりも、“児童の保護や権利擁護”を主目的としているからです。
 そのため、雑誌やビデオなどで、「18歳以上の者が18歳未満のように見える演技をしているもの」に関しては、この法律による摘発対象とはなりませんでした。
 平成14年(2002年)6月の『児童買春・児童ポルノ禁止法』の改正では、児童ポルノの定義のひとつである「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」について、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義を厳密化しました。
 そして、平成26年(2014年)6月の『児童買春・児童ポルノ禁止法』の改正(平成27年(2015年7月15日施行))では、「子どものわいせつな写真や動画などの所持に対する罰則」が適用されました。
 この『児童買春・児童歩の禁止法』の改正では、“児童ポルノ”の規定について、「衣服の全部、または、一部をつけない児童の容態であって、殊更に児童の性的な部分(性器等、もしくは、その周辺部、臀部または胸部)が露出され、または、強調されているもの、かつ、性欲を興奮させ、または、刺激するもの(同法2条3項3号)」とより限定的にしたうえで、インターネット上で閲覧できるもの、パソコン内でデータとして持っているものを含め、「児童ポルノ」に該当する写真や動画を手元に持っていると、“単純所持”として罰則を適用すると改めました。
 児童の水着の撮影が児童ポルノに該当するのかについては明記されていませんが、この『児童買春・児童ポルノ法2条3項3号』の規定に準じると、「着エロ」も児童ポルノが該当すると考えられます。
 「着エロ」とは、グラビアアイドルのイメージビデオやグラビア写真における表現手法のひとつで、着衣のあるエロチシズムのことをいい、「着エロモデル」は、カメラマンと対面しながら、下着、または、水着を着用し、指定されたポーズ、特定の部位(手や足、胸、臀部、性器辺り)の撮影に応じます。
 したがって、特定の部位(手や足、胸、臀部、性器辺り)の撮影は、『児童買春・児童ポルノ法2条3項3号』の「露出され、あるいは、強調されているもの」に該当します。
 以上のことから、今回2ヶ所の水城公園での水着撮影会が実施され、撮影したものの中に、ひとりでも、18歳未満の児童の水着の特定の部位を撮影し、それを所持していたときには、『児童買春・児童ポルノ禁止法』の“単独所持”にあたり、逮捕に至る可能性があります。
 この場合、「1年以下の懲役、または、100万円以下の罰金」となります。
 また、セクシー女優や人気グラビアモデルらを出演させた複数の団体は、その出演者に18歳未満の児童がひとりでもいれば、「18歳未満の児童に対し、撮影会のモデルとして働かせ、水着姿で過激なポーズをさせた」として、『労働基準法』、『年少者労働基準規則』で摘発、逮捕に至った可能性があります。
 また、「児童ポルノの製造は表現の自由であり、所持するのも自由だ」と訴えは、子どもの犠牲のうえに成り立っている、つまり、『子どもの権利条約』に反します。
 児童ポルノに需要があるという前提のもとで、新たな児童ポルノが製造され、犠牲となる子どもが増えていきます。
 その結果が、平成8年(1996年)にストックホルムで開催された『第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議』において、日本人によるアジアでの児童買春やヨーロッパ諸国で流通している児童ポルノの8割が日本製と指摘され、厳しい批判にさらされることになった要因です。
 したがって、表現の自由、所持の自由で片づけられる問題ではありません。
 日本社会、日本国民1人ひとりが、「児童ポルノ」をはじめ「性的搾取(性の商業的利用)」という問題に寛容である(見て見ぬふりをする)ことは、「性的虐待」、「性暴力(セクシャルハラスメントを含む)」に対して被害認識を、「買春行為」に対して加害認識を寛容にしてしまいます。
 寛容である(見て見ぬふりする)ことは、事実をなかったことにする、つまり、黙殺するリスクを孕(はら)んでいます。
 それは、加害の一端を担っていることを意味します。


『DV被害の実態、女性と子どもに及ぶ後遺症のリアル -女性と子どもが、暴力被害から脱するための手引き-(手引き(新版2訂))』
Ⅰ-A-1-(2)性的暴力
⑥ 性的搾取/児童ポルノへの問題意識が極端に低い日本社会
 「児童ポルノ」とは、平成11年(1999年)11月1日に施行された『児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童買春・児童ポルノ禁止法)』において、「18歳未満による性(的)行為を表現したもの、ヌード、またはヌードに近い児童の姿が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義されています。

 しかし、「ビキニを着た幼児に、一般成人男性は性欲を喚起されない」という“前提”のもとで、上記のようなロリコングッツや撮影会は児童ポルノにあたらないとされていました。
 なぜなら、日本の『児童買春・児童ポルノ禁止法』は、この問題に先進的にとり組んでいる欧米諸国とは異なり、“性表現の規制”というよりも、“児童の保護や権利擁護”を主目的としているからです。
 そのため、雑誌やビデオなどで、「18歳以上の者が18歳未満のように見える演技をしているもの」に関しては、この法律による摘発対象とはなりませんでした。
 平成14年(2002年)6月の『児童買春・児童ポルノ禁止法』の改正では、児童ポルノの定義のひとつである「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」について、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義を厳密化しました。
 そして、平成26年(2014年)6月の『児童買春・児童ポルノ禁止法』の改正(平成27年(2015年7月15日施行))では、「子どものわいせつな写真や動画などの所持に対する罰則」が適用されました。

a) パレルモ条約、性的搾取
 日本は、「性的搾取(性の商業的利用)」について、繰り返し国連から改善を求められています。
 「人身取引」「密入国」「銃器」の三議定書からなる国境を越えた組織的犯罪に対する「パレルモ条約」が、2000年(平成12年)11月15日、国際連合総会において提起されました。
 パレルモ条約の『人身取引に関する議定書』には、女性と児童の人身取引を防止・抑制し、罰する規定が明記され、2015年(平成27年)4月現在、147ヶ国が著名し、185ヶ国が締結しています。
 日本は、平成15年(2003年)5月14日の国会において、「人身取引」「密入国」の2つの議定書について承認した(「銃器」は非承認)ものの、批准には至らず、それから14年後の平成29年(2017年)7月11日、本条約の受諾を閣議決定し、国連本部に受諾書を寄託し条約を締結し、同年8月10日に発行しました。
 日本は188ヶ国目の締結国となりました。
 『国際組織犯罪防止条約』の「人身取引議定書」では、“人身取引”について、「搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫、もしくは、その行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用、もしくは、脆弱な立場に乗ずること、または、他の者を支配下に置く者の同意を得る目的でおこなわれる金銭、もしくは、利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、または収受すること」と“定義”しています。
 令和元年(2019年)、警察庁が認知している人身取引をめぐる被害者数は44人で、検挙した件数・人数は57件39人で、被疑者の97.4%(38人)が日本人です。
 一方の被害者はすべて女性で、日本人が34人(77.3%)で、20歳未満が61.8%(21人)、外国人が10人(22.7%;フィリピンが9人、ブラジルが1人)で、20歳代90.0%(9人)でした。
 「人身取引」された被害者は、①恋愛感情を利用され、他人との援助交際を強要されたり、②借金返済のために、売春を強要されたり、③児童が性的サービスを強要されたり、④パスポートをとりあげられ、強制労働させられたりします。
 では、①②③についての“手口”を見ていきたいと思います。

① 恋愛感情を利用し、他人との援助交際を強要する
ア) SNSで男性と知り合い、連絡をとり合い、交際がはじまると、将来の結婚を匂わせる話をするようになります。
イ) 交際相手から「金に困っている」という話がでて、「別れないと約束する」、「俺が大事なら、他の男と援助交際するしかない」と、金を要求してきます。
ウ) 交際相手が“女性”になりすまし、SNSで買春を呼びかけます。
 女性は、交際相手からスマートフォンを通じて常に見張られ、多くの見知らぬ男との援助交際(売春)をさせられるようになります。
エ) 将来の結婚を信じ、交際相手に援助交際で得た金をわたすが、実際は、交際相手の遊行費に使われてしまいます。
 交際相手を想い、信じる気持ちが裏切られ、傷つけられます。

② 借金返済のために、売春を強要される
ア) 知り合いに誘われてホストクラブに行き、楽しい時間を過ごします。
 その後も癒しと安らぎを求めて、ホストクラブに通ううちに金がなくなり、代金をツケ払いにするようになります。
イ) ツケを支払えなくなると、店のオーナーから、売春をして借金を返済するよう脅され、指示されるままホテルで待機させられることになります。
ウ) 幾ら借金をしたのか(借金残高が幾らなのか)を知らされないまま、毎日、指定された相手に売春をさせられます。
エ) ノルマを課され、受けとるのはホテル代と少額の生活費のみです。
 「借金の返済が終わっていない!」といわれ続け、長期間にわたり大金を搾取されます。

③ 児童が性的サービスを強要される
ア) 店舗から「イベントを手伝ってほしい」とSNSに投稿し、子どもの目に留まらせます。
 SNSで目にした子どもは、軽い気持ちで応募し、待ち合わせの場所に向かいます。
イ) 待ち合わせ場所には、車が待っていて、別の場所に移動します。
 車で移動した場所につくと、服を着替えさせられ、「男性客に体を触らせる仕事だ」と説明を受けます。
 帰る手段もなく、いうことを聞くしかありません。
ウ) 勤務中は、出入り口に鍵をかけられ、欠勤や遅刻をするとペナルティを科されます。
 「家族や学校にバラさらす」と脅されているので、誰にも相談できません。
エ) 休みなく働かされます。
 辞めたくても、店長から「ペナルティがある」と脅され、辞めさせてもらえません。
 長時間労働で、気力や体力が失われます。
 もはや、逃げだす意欲も力は残っていません。

 こうした手口、あるいは、似通った“手口”で性的搾取されている(売春を強いられている)女性は少なくありません。
 一方で、買春している人たちには、人身売買に加担している意識はあるのでしょうか?
 日本では、国民の多くは、例えば、「風俗を利用した」「風俗に行ってきた」というサービス業を利用したかのようなことばを使用し、「女性を買った」「未成年者を買った」と“性”を商品(物)として買ったとすることばを使用することは稀です。
 ことばの置き換えは、“性を購入”した者の後ろめたさや罪悪感を薄め、そして、“性”を商品(物)として売買すること、つまり、「性的搾取(性の商業的利用)」という問題認識を曖昧にしたり、目を逸らしたりする役割を果たします。
 重要なことは、金銭を介しての性行為は、両者の関係性に“金の力”を持ち込んだパワーの行使に他ならないということです。

b) 「児童ポルノの8割が日本製」と批判された日本
 こうした性を売買している、性を商品としている、つまり、金銭を介しての性行為は、金の力を持ち込んだパワーの行使に他ならないという認識が極端に低い日本社会は、平成8年(1996年)にストックホルムで開催された『第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議』において、日本人によるアジアでの児童買春やヨーロッパ諸国で流通している児童ポルノの8割が日本製と指摘され、厳しい批判にさらされることになりました。
 厳しい批判にさらされた日本政府は、援助交際(買春)が社会問題化していたことから、平成11年(1999年)11月1日、『児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童買春・児童ポルノ禁止法)』を施行しました。
 平成14年(2002年)6月の『児童買春・児童ポルノ禁止法』の改正では、児童ポルノの定義のひとつである「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」について、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義を厳密化しました。
 そして、平成26年(2014年)の『児童買春・児童ポルノ禁止法』の改正(平成27年(2015年7月15日施行))では、「子どものわいせつな写真や動画などの所持に対する罰則」が適用されました。
 平成14年(2026年)、全国で摘発された児童ポルノ事件は1828件で、被害児童は746人、13歳未満の被害児童の約7割が、「強姦」や「強制わいせつ」の被害を受けて児童ポルノを製造されていました。
 施行から7年後の平成18年(2006年)、「単純所持規制」と「創作物規制」の検討を盛り込んだ与党改正案、平成21年(2009年)、「児童ポルノの定義の変更」および「取得罪」を盛り込んだ民主党案が提出されましたが、いずれも衆議院解散に伴い廃案となりました。
 「単純所持禁止」を盛り込んだ改正案が衆議院で可決成立したのは、実に、施行から15年を経た平成26年(2014年)6月です(平成27年(2015年)7月15日から適用)。
 日本は、「児童ポルノの8割が日本製」と指摘され、厳しい批判にさらされてから、児童ポルノの「単純所持」を禁止するまで、実に19年の月日を要しています。
 この平成26年(2014年)6月の『児童買春・児童歩の禁止法』の改正では、“児童ポルノ”の規定について、「衣服の全部、または、一部をつけない児童の容態であって、殊更に児童の性的な部分(性器等、もしくは、その周辺部、臀部または胸部)が露出され、または、強調されているもの、かつ、性欲を興奮させ、または、刺激するもの(同法2条3項3号)」とより限定的にしたうえで、インターネット上で閲覧できるもの、パソコン内でデータとして持っているものを含め、「児童ポルノ」に該当する写真や動画を手元に持っていると、“単純所持”として罰則を適用すると改めました。
 しかし、この規定についても、「性器等、もしくは、その周辺部、臀部、または、胸部」とはどこまでを指すのか、「強調されているもの」とはどの程度を指すのか、また、「性的好奇心を満たす目的」がどんな状況を指すのか、不明確なままです。
 不明確な規定は、解釈次第となってしまいます。
 改正法には、適用上の注意として「本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」という一文があり、これは、児童ポルノの単純所持を禁じている諸外国では、「入浴中の子どもを撮影した写真が児童ポルノ」と判断され、逮捕されます。
 児童の水着の撮影が児童ポルノに該当するのかについては明記されていませんが、この『児童買春・児童ポルノ法2条3項3号』の規定に準じると、「着エロ」も児童ポルノが該当すると考えられます。
 「着エロ」とは、グラビアアイドルのイメージビデオやグラビア写真における表現手法のひとつで、着衣のあるエロチシズムのことをいい、「着エロモデル」は、カメラマンと対面しながら、下着、または、水着を着用し、指定されたポーズ、特定の部位(手や足、胸、臀部、性器辺り)の撮影に応じます。
 平成29年(2017年)5月29日、神奈川県警少年捜査課と相模原北署は、5月6日正午ごろから同日午後1時ごろまでの間、東京都豊島区のマンション内に設けたスタジオの個室で、千葉県松戸市に住む同県立高校2年の女子生徒(16歳)に水着などを着用させた上、過激なポーズを男性客に撮影させた(撮影会のモデルとして働かせた女子高校生に対し、水着姿で過激なポーズをさせた)として、『児童買春・児童ポルノ禁止法』ではなく、『労働基準法違反(危険有害業務の就業制限)』の疑いで、東京都練馬区、合同会社代表社員の男性(41歳)を逮捕しました。
 『労働基準法』、および、『年少者労働基準規則』では、18歳未満の者について、「特殊の遊興的接客業における業務」に就かせることを禁止しています。
 「特殊の遊興的接客業における業務」は範囲が非常に曖昧になっていますが、「客に性的な慰安歓楽を与える接客業」であれば、『労働基準法』、および、『年少者労働基準規則』違反となります。
 東京都では、平成29年(2017年)3月31日に制定した『特定異性接客営業等の規制に関する条例』では、いわゆる「JKビジネス」等について、公安委員会への届出義務や営業者の禁止行為等を定めています。
 同条例では、「生徒制服」や「体操着」を着て行う接客業で「性的好奇心をそそるおそれがあるもの」を規制対象とするなど、適用対象を厳格に明確化しています。
 一方で、これらの法律や条例の規定を快く思わない人たちは、法律で、個人の性嗜好を規制することの是非を問う声をあげ続けています。
 それは、「児童ポルノの製造は表現の自由であり、所持するのも自由だ」という考えです。
 しかし、それは、子どもの犠牲のうえに成り立っている、つまり、『子どもの権利条約』に反します。
 児童ポルノに需要があるという前提のもとで、新たな児童ポルノが製造され、犠牲となる子どもが増えていきます。
 したがって、表現の自由、所持の自由で片づけられる問題ではないのです。
 『児童買春・児童ポルノ禁止法』の改正から3年、警察庁の発表によると、平成30年(2018年)の1年間に全国の警察が摘発した児童ポルノ事件で被害にあった18歳未満の子どもは、前年より60人多い1,276人です。
 3年連続で1,000人を超え、自分で撮った裸の写真をメールなどで送らせる「自画撮り」の被害者が約40%を占めています。
 「自画撮り」被害の45.7%を高校生が占め、中学生を含めると89。8%にのぼります。
 一方の児童ポルノの摘発件数は、過去最多の3,097件、前年比28.3%増です。
 50%弱の1,417件は、子どものわいせつな画像を撮影する「製造」で、性的好奇心を満たす目的で所持する「単純所持」を含めた「所持等」は、前年を750件上回る951件と大幅に増えています。
 被害が特定できた子どものうち、「自画撮り」に伴うものは前年より26人多い541人で、盗撮、買春・淫行行為が続いています。
 日本では、いまだに、「児童ポルノにしか見えない商品」が普通に陳列され、大量に売られている現状は、日本の児童ポルノに対しての感覚は、グローバルスタンダードとはかけ離れています。
 例えば、「ジュニアアイドルの握手会」などが頻繁におこなわれている東京の秋葉原などでは、毎週のように、小学校低学年の女児の撮影会やサイン会や、女子中学生の水着姿の撮影会がおこなわれていました。
 ここでは、同じ嗜癖の仲間とともに女児を撮影させることで、参加者の罪悪感を薄れさせる効果をも狙っているとの指摘もされています。
 「児童ポルノ」の“児童”18歳未満を指すので、中学生に加え、高校3年生までが対象です。
 しかし、日本の多くの人々は、「この様子を大人の性的欲望を満たすために、女児が性的搾取被害にあっている」と問題視することは稀です。
 しかも、この問題には「親自身が子どもを商品として、性的搾取している」、つまり、「性的虐待(児童虐待)という重大な問題が潜んでいる」ことを認識している日本の人たちはごく少数です。
 懸命に大人の要求に応えている女児に対して、「頑張っている」とか、「かわいい」という印象を抱きながら、女児の撮影会やサイン会などが実施されている現場を素通りしています。
 この瞬間、明らかに“児童ポルノ”として消費(性的搾取)されています。
 この背景には、親による性的虐待が絡んでいます。
 ジュニアアイドルのイベントに参加した男性たちが、「ペニスを触った手で握手」などと、楽しげにネットに流しています。
 ジュニアアイドルのDVDには、「小学1年生です。好きな食べ物はたこ焼きです!」などと自己紹介する女児たちがソフトクリームを舐めていたり、縦笛を吹いていたり、ビキニ姿でシャワーを浴びたり、石けんまみれになったり、お尻をつきだして遊んだりする行為が録画されています。
 男性自身の欲望を巧妙に隠すために、まるでホームビデオのようなるつくりになっていますが、性的な妄想を刺激するには十分な映像です。
 そして、女児の撮影に熱心な親の存在は、珍しいことではありません。
 その家庭では、撮影の予行練習が繰り返されます。
 つまり、親自身が子どもを商品として、性的搾取しているのです。
 DV被害者支援に携わり、被害者の成育状況が明らかになってくると、性的虐待を受けていた事実がでてきたり、ビキニの水着を着せらせ、ポーズをとらされて撮影会がおこなわれていた事実がでてきたりすることがあります。
 写真撮影は、父親の性的嗜好を満足させるためのものですが、このとき、夫の意に添い、ご機嫌をとることが暴力を回避するための思考習慣となっている母親が、子どもに「こうしたらもっとかわいいよ。」とポーズ指導をするなど、積極的にかかわっていることが少なくありません。
 これらの行為は、性暴力(性的虐待)、性的搾取(性の商業的利用)に他ならないのです。
 にもかかわらず、多くの大人が、“児童ポルノ”と認識していません。
 親が積極的に「児童ポルノ」の被写体としている児童の多くは、大人の性的利用として見られていると認識していません。
 そのため、にこやかに笑みを見せ、嫌がっているようには見えません。
 性的利用する大人たちの“歪んだ認知(小児性愛;ペドファリア*-13)”で見ると、児童のにこやかな笑みは、大人に性的利用されることを喜んでいる、自ら積極的に扇情的なふるまいをしていると認識します。
 こうした児童ポルノと接する機会は、性的利用する大人の認知をますます歪めていきます。
 平成29年(2017年)、警視庁は、国内最大規模の児童ポルノ販売サイトを摘発し、同サイトからDVDを購入し、所持したとして、『児童ポルノ禁止法』違反(単純所持)の疑いで約870人が書類送検されました。
 捜査の過程で、一部の容疑者には、子どもに性加害をした疑いが判明し、少なくとも約20人が強制わいせつなどの疑いで逮捕されました。
 数字だけ見ると、870人の20人(2.3%)なので、ごく一部の対象者の問題と思うかも知れませんが、1人の加害者で、被害者は1人とは限らないのです。
 アメリカの研究者エイブルは、「1人の性犯罪者が生涯にだす被害者の数は、平均380人である」との研究結果を報告しています。
 子どもへの性加害を繰り返していた男性のうちのひとりは、「380人ですか?」と訊かれ、「僕はその3倍はしていると思います。」と応え、他の加害者たちも、その返答に、大きくうなずいていたというのです。
 先の摘発について、警察は「子どもを狙った性犯罪の入り口になっている」と見解を示しています。
 この見解は、児童ポルノをめぐる問題の本質を表すものです。
 加害行為をする前には、トリガー(引き金)があります。
 児童ポルノは、確実にトリガーとなります。
 そして、日本社会、日本国民1人ひとりが、「児童ポルノ」をはじめ「性的搾取(性の商業的利用)」という問題に寛容である(見て見ぬふりをする)ことは、「性的虐待」、「性暴力(セクシャルハラスメントを含む)」に対して被害認識を、「買春行為」に対して加害認識を寛容にしてしまいます。
 寛容である(見て見ぬふりする)ことは、事実をなかったことにする、つまり、黙殺するリスクを孕(はら)んでいます。
 それは、加害の一端を担っていることを意味します。

*-13 小児性愛(ペドファリア)については、「Ⅱ-20-(5)小児性愛(ペドファリア)」で詳述しています。

 

 

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