見出し画像

雲の出る地に行った話 三-三

 大社の敷地を一旦出て、スタバの隣の蕎麦屋に並んだ。開店前でわたしが一番だったのだが、人気の店らしく段々とならび始めた。開く時間には長蛇の列。私は幸運にも、名店の出雲そばに預かることが出来たらしかった。
 実は出雲の名物だというブドウのジュースとともに、とろろと天かす、温泉卵がのった蕎麦を混ぜ合わせながら味わった。こくがありつつも喉ごしが爽やかだった。
 しかし早朝から駅と山近くのかなりの距離を往復しなおかつ大社の敷地内を回ったお陰で足はくたくただった。これから稲佐の浜まで歩くにはもうちょっと何か食べる必要があった。
 食後のデザートに何かないかと、ご縁横丁というお土産屋等が並ぶ、文字通りの横丁へ行ってみる。するとコーヒーと共にぜんざいを食べられる店があった。
 すぐに入ってコーヒーと冷たいぜんざいのセットを注文する。ぜんざいのもちは紅白ふたつのもちで、餡は優しい甘さ。たちまち疲れが取れた。コーヒーも苦味と酸味があまりなくてとても飲みやすかった。

 回復したところで、稲佐の浜へとひたすら歩いた。神在月の時に神々が通ると言われる、神迎えの道を進む。途中別の蕎麦屋があり店の人に声をかけてもらったが、丁重にお断りさせてもらった。手錢美術館という風情のある美術館もあったが、そこも今回遠慮した。
 歩き始めて20分くらい経っただろうか。さざ波の音がかすかに聞こえ、海が見えてきた。
 オオクニヌシとタケミカヅチによる国譲りの舞台。そして神在月には神々がやってくる、稲佐の浜に着いたのだ。

台風の後のせいか、寄せてくる波が高かった。

 9月とはいえまだ夏の気配が残るにも関わらず、海からの風は冷たくて心地よかった。
 そんな風に吹かれながら砂浜を歩き、靴を脱いで波に足を浸す。ひんやりとした少し強い波に、強張った足が解れていって、子供みたいに声を上げた。細やかな水遊びを堪能して、ふと、靴どうしたっけ? と思い出した。確か砂浜に置いたような。
 恐る恐る振り向くと、突っ込んだ靴下ごと波に遊ばれていた。慌てて取りに行くと、オオクニヌシ達のお慈悲かあんまり濡れていなくてホッとした。
 それからは石段に腰かけて、訪れる人々をのんびり眺めた。
 雲は相も変わらず、もくもくと湧き出ていた。

逆光でも美しい。

 それにしても、大社から歩いてみると少し時間がかかるのが、少し意外な気がした。ここに来る前は、オオクニヌシ達もちょろっと散歩に出かける距離にあるのかなとか思っていたからだ。
 そんな妄想は、あっさりと砕かれたわけだが。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?