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春が来た

3月30日土曜日、吉祥寺へ。
前日の激しい天気から一転、
強めの陽射しの晴天の朝。

敬愛するひとり出版社、夏葉社が6日間の期間限定でオープンする岬書店へ。
夏葉社で1年間アルバイトをされた秋峰善さんがnoteでの記事をまとめた”第2の青春、再生の物語”である「夏葉社日記」の初売りや島田さんお勧めの小出版社の本や古本が並べられるという。
夏葉社からすぐの小さなギャラリーを借りての本屋、どんなお店なんだろう。

混雑する吉祥寺駅から徒歩20分、汗をぬぐいながら到着。
ガラス扉に水色の木製枠の扉の中は、3,4人入ればいっぱいの小さな空間。
左右の棚に本が並んでいて、その中央の小さな机に「夏葉社日記」が積まれている。
そして、いつもの気さくな感じで先客とお話されている夏葉社の島田潤一郎さんがいた。

まず左の棚の本を見る。
これが今、島田さんがおすすめの本なんだな。
どれも装丁にまず目を奪われる。直接知り合いではないけれど、なんだか気になるオーラを出す人、そんな感じの装丁なのは、夏葉社の本と同じだ。
子どもの本も何冊か。ちょうど島田さんが、いやぁもう子どもが読まない本も持ってきちゃったんですと、お客さんに話していたような、なるほど!
その横の大人の古本コーナーにあったのが、
かの「富士日記」上中下。

武田百合子「富士日記」

この作品は、本の界隈で私がマークしている方々が何人も、何か特別な思いをもって好きと言っている本なので何度か手に取ったが、読むに至らなかったタイトルだ。
しかし、先日、夏葉社の本の装丁を多く担当されている櫻井久さんと若菜晃子さんの対談でも話題になっていて、これはもう課題図書なんだと認識を新たにしていた作品。それが3冊まとめてこのお値段で手に入るなら、もう買うほかはない。

右の棚は、夏葉社の本だが、ほぼ欲しいものは入手済。
1冊、ほしい本でまだ持っていない本は、やはりなかった。残念。

そして、今日は「言葉の繭 」の配布がある日。
「言葉の繭」は、桜美林大学の学生を中心に発行している文芸誌。その第6号では夏葉社の総力特集をしていて、なんと、その昔島田さんが小説を書いていたころの未発表作品が載っているというので、ぜひ入手したかった。
中心メンバーのNさんという桜美林大の4年生がいらして、おしゃべり。どんな本が好きなのか、子どものころ読んだ本で今も好きな本は何かとか、芸能レポーターよろしく質問したら、話がはずんで、とても楽しかった。
そして私が手にしていた「富士日記」を見て、教えてくれた彼女のエピソード。
昨日までバイトをしていた書店に、社員の方ですてきな女性がいて、その女性がいつもバッグの中に「富士日記」を入れていたそう。
うーん、やはり「富士日記」オソルベシ。
4月からは母校の高校で国語の先生になられるとのこと。大学生活でおそらく全力投球された文芸誌の編集執筆を終えて形になった「言葉の繭」を配布する喜びと、新しく始まる社会人としての日々への期待。好きと希望にあふれる20代の若人のなんとつやつやと眩しいことか。

そして、そもそもの「夏葉社日記 」。秋さんは自身の出版社、秋月圓を興してこのタイトルを出版している。
目次とあとがきにまず目を通そうとそっと開くと、1枚の紙が挟まっている。秋さんが初めて島田さんに書いた手紙のコピーのようだ。ここから日記が始まり、この本の出版につながったんだと、そのプロセスでの秋さん、島田さんの日々を想像して胸がキュンキュンする。
30代の秋さんは、この春、新たな出発をされたわけで、こうして師匠が手売りする書店で購入するのは格別だ。残念ながら今日は秋さんは不在だったけれど。

「言葉の繭」と「夏葉社日記」


そして島田さんは、長い日々をかけて執筆された「長い読書 」が4月にみすず書房から出版される。こちらには秋さんへの言葉も綴られているという。
みすず書房からこのようなエッセイが出されることは珍しいときく。島田さんは出版社を始め自社での本の出版に際して、みすず書房の装丁が好きで意識していたとおっしゃっていた。だからみすずから自著が出版されるのは心の泉が満ちていくような喜びがあったのではないかと勝手に推察して、こちらまでうれしくなってしまう。
40代の島田さんも、この春、また新たな1ページを開かれた気持ちなのではないだろうか。

還暦がすぐそこに来ている50代の私も、この4月から生活を少し更新することに決めたばかり。
体力は持つのか、自分にできるのか。
冬の寒さが長引く日々の中で悶々としたうえで、現状維持でなく新しく挑戦しようと舵を切ったところだ。
20代の彼女の眩しい光で光合成して、30代40代の想いと努力と行動に負けられないと背筋を伸ばして前を見つめる、そんな春の1日だった。

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