寒河江蕎麦 場末ピンサロ 被捕食者

四月初旬

折に触れて、縁あって、機会に恵まれて、etc.
偶然運良く拾い得たと主張した所で、飽くまでもポジティブな書き出しでいくら着飾ったところで、醜悪なタイトルそのものを上塗りできる訳では無い。
それでも尚、敢えて言葉にするのなら、置かれた状況や過ぎた現実に蓋をするように、目を逸らすように、誤魔化すように御託を並べる事が許されるというのであれば

寒河江を歩けばデブに当たる。


やう、久しぶりだな。羅列された活字で会うのは何年振りになるだろうか。てんたすだ。
この度は恐ろしくも禍々しい文書によるお目汚しが確定してしまってる。残念だが、確定してしまっている。地元で初めての風俗は、やはりと言うべきか、予定調和と言うべきか、大ハズレだった。賢者タイムになり気分も落ち着いたところで、筆、もといキーボードを執っている。
そして悪いが女子供は寝る時間だ。寝ろ。寝て、起きたら「あぁ、悪い夢でも見てたんだ。気色の悪い夢を。」と忘れてくれ。こんなレポートを読まないでくれ。頼む。


さて、もうブラウザバックは済んだだろうか。それでは地獄の1ページ目を書き始めるとしよう。


―「何が『桜の開花は例年より早い』だ。」
寒空の下、駅のホームに降りた男はひとりごちる。
暦の上では四月というのは春に分類されるが、日が落ちたところで冬の名残が全力で疾走しながら頬を殴ってくる。「雪国の春」という時節を決して逸脱していない現象ではあるが、二十余年を雪国で過ごした男は未だに納得のいかない表情を浮かべ、肩をすぼめて歩いていた。

「しかし、何にもねぇな…寒河江。駅前が八時には真っ暗ってどういう神経してるんだ一体…」

心に神経が通っていない男はそう続ける。




男は駅を後にして宿泊先であるホテルに訪れ、早々にチェックインを済ませると、宿泊施設付近で遊べるような場所を探していた。宿泊期間は三日間。仮に、三日も何も無い空間に閉じ込められたなら、人は容易に気が狂うだろう。私は気が狂う事に心底怯えながら気が狂ったように遊べる場所を探していた。

男は暫く歩いたところで一つの結論に辿り着く。―辿り着くなどと仰々しい語り口ではあるが、歩いたのはせいぜい五分程度だった。五分程度で辿り着けるようなコンビニ感覚の結論だった。軽率に手の届く結論とは裏腹に、胃が捲れ上がるような、絶望を煮詰めた答えに男は項垂れるしか無かった。


寒河江には何も無い。


田舎の比喩や揶揄で声高に語られる“何も無い”ではない。正真正銘の“無”が眼前に広がっていた。点々と明かりが灯る住宅、閑散とした道路、聞こえる川のせせらぎ。全てがうまく組み合わさって、結果“無”になっていた。

「ここに住んでいる人は、何が楽しくてここに住んでいるのだろうか…呪縛か何かか?」

心無い毒を一つ吐き、一呼吸置いてから結論を飲み込んだ男は、しかし顔を顰めることしか出来なかった。当たりを見渡せど家ばかり。こんな事があっていいのだろうか。

「いや、良くない。絶対良くない。」

男は必死に駅周辺を散策した。煌々と光る看板があれば走り寄って「居酒屋かよ」というくだりを十回以上は繰り返した。街灯に集る蛾か何かなのかもしれない。
前言の通り、居酒屋は在る。しかし男が探していたのは賭博か風俗だったので、結局“何も無い”のである。
ひとしきり歩いたところでアドレナリンが切れてきた男を、棚に上げていた空腹が襲う。

「腹減ったな…寒くなってきたし、何でもいいから腹に入れるか…。」

男は歪んだ表情でそう言った。
何でもいいというのは何でもいいという事では無い。男に飢えた女が「誰でもいいから付き合いたい」と言いつつも、不細工な男はそもそも異性というカテゴリから外されている現象と同じで、遠出してまでコンビニの飯を喰らうなどという選択肢は端から無いのである。
駅を一周した所で、ようやくひとつの蕎麦屋を見つけた。苦労の末に見つけた蕎麦屋は駅の目と鼻の先だった。男は盛大に時間を浪費した事を悟った。
しかし店内を覗くと客が一人も居ない。掲げられた「営業中」の看板を見て、またも蛾のように店の前を右往左往飛び回っていると、店員に不審な目で見られ、意を決して店内に飛び込んだ。

「いらっしゃいませ」

良くも悪くも無愛想な店主を軽く会釈をすると、男はカウンター席に着いた。メニューを手に取り、何を注文するか迷っていると、他に客が居なくて暇なのだろうか、じわっとした視線を感じた。足早に注文を決めて蕎麦屋の店主に声を掛けた。

「肉そば…冷を一つ、それと…雅山流を…」

男は言葉を飲んだ。
(『もっきり』?。なんだそれは?もっきり?とっくりやおちょこではなく?も、も…もっきり??)
男は居酒屋に慣れていなかった。十数軒は並ぶ居酒屋に、近寄れど入店しなかったのはその為だった。チェーン店ではない個人営業の居酒屋というのは、彼女との子供が出来てから挨拶に行く義父の家くらい敷居が高いのだ。しかし、男には行き場を失った感情が溜まっていた為、酒の一つも飲まずに眠れる訳もなく。結局、男はもっきりが何かも分からないまま、もっきりの隣に鎮座する「二合徳利 1700円」に震えて、こう続けた。

「も…もも…もっきりを一つ」

も…もも…もっきり。なんだそれは。
店主は小さく「あいよ…」と。冷蔵庫から雅山流を取り出した。雅山流というのは山形の地酒で、飲み口が非常に軽く、日本酒特有のえぐみが少ない割にボディがちゃんとしていながらも、比較的安価に頂ける日本酒だ。雅山流と何やらもっきりらしい何かを携えて席までやってきた。

(升酒か?)

厳密には違うのだろうが、昔同僚と飲んだことのある、見覚えのある風体だった。

(もっきりって言うんだ…これ)

男は無い胸を撫で下ろすと、店主は升を卓に置き、その升にグラスを収めた。慣れた手つきでグラスに雅山流が注がれる。溢れた酒が升の5分目まで満たしたところで、店主は「どうぞ」と告げた。
縁もゆかりも無い寒河江なる地にて頂く雅山流。グラスの底を伝う酒の滴を眺めながら一口。美味しい。「美味しい…」
美味しい。

雅山流をちびちびとやりながら窓から覗く寒河江駅を見て少し冷静になった男は思った。

(なんで、こんなクソ寒い日に肉そばの“冷”を頼んだんだ?俺は。)

ごもっともが過ぎる。初めて足を踏み入れた場所だけに気が動転していたのだろうか。あれだけ寒空の下を散策したというのに。

「あい、肉そばの冷、お待ち」

店主から手渡しで肉そばの冷を頂いた。何かの手違いで温になってたりしないかなぁなどと万に一つもない可能性に薄ら期待していただけに手に感じる温度は信じられない程冷ややかであった。

(次来る時は温だな)

まだ少しも口にしていない男はそう思いながらも冷たい肉そばを眺める。透き通る醤油ベースのスープに、蕎麦は十割だろうか。しっかりと黒みがかった麺が構えている。麺の上には決して多くはないが存在感を放ち続ける肉と満開のネギが散りばめられていた。男は思わず喉を鳴らすと、まずはスープを一啜り。ずぞぞ。

「えっ…うっまぁ…何これぇ」

ひんやりと舌から喉へ流れるスープは、あっさりという言葉にかまけて薄味で誤魔化す場末のラーメン屋とは一線も十線も画す程しっかりした味付けで、程よく甘い油が絡んでくる。端的に美味い。理想の遥か上を飛び去って行った第一印象に続いて麺も頂く。ずぞぞ。

「えっ…うっまぁ…何これぇ」

高校一年生くらい反抗的な麺が口に運ばれてきた。冷だから出せる弾力なのだろうか、噛めば噛むほど倍の力で歯をこじ開けてくる。予想を超えた美味しさに思わず笑みがこぼれる。飲み込んだ後に鼻から抜ける香りに男の箸は止まらない。すかさず肉も頂く。ずぞぞ。

「えっ(以下略)」

うっまぁ…何これぇ。麺が美味けりゃ肉も美味い。昔山形市で大叔母にご馳走になった鳥中華に似た味に、もはや涙を流しながら肉そばを完食した。あと普通に酒も合う味だった。ずぞぞ。

「ご馳走様でした」

男は代金を支払い店を後にすると体を縮こませながら紫煙を燻らせた。腹が満たされた所で次なる目当ては金玉がすっからかんになる所か。男はあるはずもない風俗を探しに寒河江を練り歩いた。時刻は二十二時。

暫く歩くと交番の近くに雑居ビルのような建物を見つけた。スナックやらカラオケが併設されている傍ら、「salon」という単語が目に入った。英国文化に頗る疎い男だったが、大人になってから「soapland」と「health」と「salon」だけは読めるようになっていた。もう充分、人として終わっている。
(前金6000円でサービスあり…か。ピンサロの可能性を秘めているが、そもそも山形県内にピンサロとかあるのだろうか?)
携帯端末を取り出すと店名を検索した。しかし弾き出された結果は数年前の2chのスレッドだけ。五年前の2chにはハッキリと「ピンサロ」と書いてあった。看板があると言う事は営業はしているのだろうが、果たして今もスタイルは変わっていないのか。スレッドには「あおい」という名前の女の子の悪口で溢れかえっていた。

「何をしたらそこまで嫌われるのだろうか。人間、まぁまぁな事をしない限り嫌われるなんてことは無いのに。」

数多の妄想と思考が交錯する中、古の情報に若干の信憑性を感じつつ、男は淡い期待と6000円を握り締め階段を昇る。

「鬼(デブ)が出るか蛇(ブス)が出るか…フッ」

気持ち悪い事を考えながら気持ち悪い笑みを浮かべる気持ち悪い男は、こう見えて歴戦の猛者であった。吉原でスリーサイズオール100&100kgオーバーの寸胴とまぐわったり、吉原でよく喋るブスの下水の臭いがする膣口を舐めたり、吉原でマグロを捌いたり。吉原ばっかり。通り一遍、この世で味わえるレベルの地獄は渡り歩いてきた。
男にハズレを引くことに対する恐怖は一切なかった。というのは勿論嘘だが、普通に3日くらい溜まっていたから正直何でも良かった。何も無い寒河江という町だからこそ、一軒だけ佇むピンサロに入らない理由を探す方が難儀だったと言える。寒河江ハイになっていたのかもしれない。
男は意気揚々と二階に上がると重々しいドアが鎮座していた。ノブを握り扉を開けば天国か地獄が確定する。この胸の高鳴りは恐怖か、或いは―
ガチャ

「いらっしゃいませ〜(ドスの効いたババアの声)」

終わった。

男は数秒の間に何度も終わりを確信した。天国なんてあるはずも無かった。だって、ここ寒河江だし。何期待してたんだ俺は、と男は痛く反省した。
終わったとは思ったものの、ババアはまだギリ許せるくらいの可愛らしいババアだった。体型は普通だし、多少垂れててもこの際行けるだろと思った。ちなみに男は周りから“B専”などと言われるが、その実、“Bまで行ける”というだけの守備範囲と攻撃範囲が広いオールラウンダーだ。男は、女を語る資格こそ無いが、女に攻撃される分には死角の無い性癖武装を自身に施していた。
などと考えていると、バックヤードから太ましい声が轟く。

「ママー?お客さんー?」

なんて頼り甲斐のある太ましい声なんだ。
脂の乗った肉厚な声に、男は思考を巡らせた。

(なるほど、この人はママか。どおりで歳がイッてると思った。納得納得…ん、今の声は誰だ??)

納得の舞台裏で、得体の知れないもう一人に対する恐怖が背筋を這う。男は増長する不安を押さえ付けながら、ママに案内されるがままに席に着いた。
薄暗い店内、五月蝿いとすら思えるBGM。ふとテーブルに目をやるとウェットティッシュが置いてあった。この時点でピンサロ確定では?と、少しだけ心が踊った。ほんの少しだけ。ウェットティッシュが赤く光っていれば確変(ババア)濃厚だったのかもしれない。男の脳内にはCR寒河江ピンサロ(1/319)の演出が流れていた。
暫くするとママがやってきた。

(か、確変か!?)

などという期待はあっさり裏切られる。

「灰皿はご利用になりますか?」

ババアは喫煙の有無を聞きに来ただけだった。今のスーパーリーチだっただろ、と肩を落としながらも、「お願いします」と男は答えた。後ろに控えているもう一人の影がチラついて震える右手でぎこちなくセブンスターに火をつける。すると、店内が更に暗くなり、心做しかBGMの音量も大きくなった。これからラスボスでも出てくるんか?まだ男には冗談を吐く余裕があった。この時点では。

…ズ…
(…なんだ?…揺れてね?)
シン…ズシン…
(…揺れてるな。地震か…?)

テーブルに置かれた灰皿がカタカタと鳴る。近づいてきている。何かは分からないが確実にこちらに来ている。気の所為と思っていた揺れは徐々に大きくなっていく。少しずつ近づいてくる存在感に男の背すじは凍りついた。

(なんだ??いったい何が来るって言うんだ??)

何かは着実にこちらのテーブルに向かってくる。それもそのはず、この店に客は男一人なのだから。
男は恐怖のあまり、心の中で、まだマシと思えたさっきのババアを呼び続けた。

(マ…ママ。ママ!!ママー!!!マッ

聞き覚えのある声で、今最も聞きたくなかったあの声で、その声の主は太ましくも憎々しい、もとい肉肉しい声で話しかけてきた。
「こんばんはぁ」

(マ゚ァ゛!!!!)

ラスボスのご登場だ。店内BGMをFF6の決戦にして欲しかった。クロノトリガーのボス・バトル1でもいい。
推定100kg。男の視界に写ったのは紛れもなく巨大な質量そのものだった。暗がりですらヒシヒシと伝わる圧力に全身の鳥肌が唸りを上げる。逃げようにも席は1番奥の角。入店した時点で追い詰められていたのは男の方だったのだ。
男は思わず断末魔のような悲鳴をあげそうになったがグッと堪える。どうして視界が不鮮明だと言うのに間違いなくハズレだと分かってしまうのか。目の前の存在は間違いなくハズレで、間違いなくラスボスだった。
圧倒的存在感を目の前に、男の顔は拒絶の一色に染まっていた。拒一色(五翻)。
デカくて可愛くない、ちいかわの対義語みたいな奴が仁王立ちしていた。

しかし男は思い出した。この店で罵倒の標的になっていたキャストが居たことを。数年前の2chで散々言われていた女の子が居たことを。

(この化け物より酷いキャストが居んのかよ。ツラ拝んでみてぇわ、逆にw)

ちょっぴり救われたような気分になり、不意に笑ってしまった男に、女も笑みを浮かべ、こう続けた。

「あおいって言いまーす笑」

(お、

(お前かぁああああああああああ!!!!)

男の感情はもうめちゃくちゃだった。インターネットで罵倒の標的になっていたご本人の登場に声を張り上げたくなる気持ちを押し殺し、男は取り繕った笑顔で挨拶を交わす。

「こんばんは…」

男は最早この店がピンサロでは無いことを祈っていた。ちんぽはとっくにしなしなだった。戦ったら勝てねぇぞこのNPC…と思ったらシンボルエンカウントではなく通行人だったわwみたいなオチを心の底から願った。男はなるべく下の話にならないよう出来合いの世間話で場を繋ごうとした。
しかし女はおしゃべりが下手だった。

(いや、もう、その体でその顔なら会話ぐらい上手くあってくれよ。)

耳に馴染みのないズーズー弁(恐らく山形でも北の方)はこれほどまでに不愉快なのかと痛感した。これは憶測の域を出ないが、めちゃくちゃ可愛い女の子のズーズー弁は可愛いんだろうなと思う。今はノイズ以外の何物でもないのだが。結局言葉なんて言うものは何を言うのかではなく、誰が言うのかなのだろう。現実は残酷である。
のべつまくなしに女から繰り出される異国語に、男は今まで地元の方言で一方的に話してきた各方面に深深と謝罪した。

(方言ぶつけられる気分ってこんな感じなのか。ふーん、最悪じゃん。) 

20分ほど話し、もういやらしい話題が浮いてこないくらいに磐石な基盤が出来上がった。ピンサロで抜かずに帰るという、ある意味最高の贅沢をかましてやろう。今日のレポは「ピンサロ抜かずに帰ってみた」にしよう。そう思ったところで、女は奇襲を仕掛けてきた。

「じゃあ下脱いでください!」

(じゃあ?!何が“じゃあ”なの?!)

磐石な基盤とは何だったのか。将棋で言えば詰み、チェスならチェックメイトだったはずなのに、おもむろに盤面に火を焚べてくる女に、鳩がショットガンを食らったかのようにポカンと口を開けていると、すかさずに女からの追い討ち。

「なにを恥ずかしがってるんですか笑」

その何気ない挑発に、男の在りもしない闘争心に火がついた。

(恥ずかしがってるだ?この俺が?)

男は二つの意味で「舐めるなよ」と言ってズボンを脱いだ。負けが確定した。負けが確定した上でバトルが始まった。負けてるのに。

「仰向けになってください!」

死因は圧死か。窒息死だな。男は諦観の笑みを浮かべながらソファに横たわる。走馬灯のアップロードが始まった。

「どんなプレイが好きですか?私めちゃくちゃサービスできます!」

畳み掛けてくるなよ。どうしてチャイエスと言いピンサロと言い場末の風俗は畳み掛けてくるのだろうか。ムードもクソも無い。もっと、こう、あるだろ。
男は渋々「フェラ」と答えた。
舐めさせてんじゃねぇよ。と、思われるかもしれないが、しかし男は冷静さを欠いてはいなかった。
(イきゃ終わっから。)
歴戦をくぐり抜けてきた男は、このゲームの必勝法を知っていた。もとい、必敗法を知っていた。
(イきゃ終わっから。)
男にとっての“勝ち”とは、命からがら逃げ切ることに、入店した時点で擦り変わっていたのだ。男がここから捲るには、この時間をいち早く終わらせる以外になかった。他人の手コキでイッた事が指折り数える程しかなかった男がこの状況を最短で終わらせるには、断腸の思いでフェラチオを食らうしかなかった。
思考している内に女はイチモツを握った。情けないほどバキバキに屹立したソレを見て、男は
(3日抜いてないからな、当然だ)
と、何やら自分に言い聞かせていた。そしてご希望のフェラチオが始まる。もう何も期待できないような状況だったが、
しかし女はおしゃぶりが上手だった。
伊達にピンサロやってねぇなと男は感心した。だが、いくら丁寧にねぶられた所で暗がりの視界で下腹部に蠢く巨大な影。

(イけるかぁ!!)

心の中の陣内が叫ぶ。
見ようによっては腸を貪られているようにも見える。熊に襲われた人の気持ちを6000円で体験出来るなんてリーズナブルだな…と現実逃避をする男。
イかねば終わらない。イけるはずもない。無間地獄に落とされた私は以前チャイエスで会得した技を使うことにした。
『自分で抜いてると思えばイける』
男は自分でやると一分も持たないくらいには、右手とは長い付き合いをしている。自分でしていると思えばこの状況を打破できると思ったのだ。とはいえ手持ち無沙汰だったので女の胸部に手を差し込む。乳でも揉んでりゃえろい気分になって出ないもんも出るだろうと踏んだのだ。

モミ

モミモミ

普通に腹だった。
(分かるかぁ!)
心の中の陣内が叫ぶ。それでいて質量もわざとらしく喘ぐ。腹に性感帯でもあんのか?と男は必死に笑いそうになりながら目を閉じて下腹部に力を込める。

アン…アンアン…
(……。)

アン…アァ…ン
(…黙れ。)

男が目を閉じれば閉じるほど聴覚からの情報は鋭さを増す。五感の一つを失うと他の感覚が補い合うそうだ。目を瞑った男の聴覚はより多くの情報を獲得しようと張り詰めていた。鼓膜を震わせてくる女の声に男は萎えそうになりながらも必死にイチモツに全神経を通わせた。何だこの時間。男は自分が何をしたいのか、何が出来るのか、何をしたかったのか。何も分からなくなってしまっていた。自己喪失しそうな感覚に襲われながらも漸くその時は来た。

ベァリゥ…プベァ

三日分がやっと出た。今のは出る時の音だ。割と本当に今の音が鳴る。
恐らく、今まで無為に吐き出して来た子種の中で最も酷いゴールにぶち込んでしまった。考えうる限り最も惨い最期だったと思う。質量は秒速でそれらを飲み込むと片付けをし始めた。多分6億匹くらい詰まってたと思う。男はなんだか悲しくなってきた。今までも行き場があった訳ではないのだが、自分の遺伝子が100kg越えの怪物の糧になるなんて男は思いもしなかった。旅立った精子たちに申し訳ない気持ちで一杯だった。

「ごめんよ…」

不意に口に出してしまった謝罪に女は

「大丈夫だよ!ご馳走様!」

と返した。
(お前に言ってねぇよ。そしてご馳走様ってなんだよ。)
6億の遺伝子情報が怪物の血肉という墓場に流出してしまった。

男は何とも言えない喪失感を抱えて店を出た。
幸先という観点から言えば史上最悪であろう。明日からの講義が思いやられる。一気にブルーな気持ちになった。


皆も選挙と風俗に行く時はちゃんと調べよう。










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