松尾理論の問題点(その1)…ヒトラーは防げない

「経済理論」らしき記事を昨年のブログ記事からひっぱってくる企画…松尾匡氏らの「そろそろ左派は<経済>を語ろう」を好意的に紹介した後、問題点を指摘したもので、4回続きます。(記事はブログ記事を若干手直ししています)

 薔薇マークキャンペーンや「そろそろ左派は…」の理論は、あくまでも資本主義社会を維持した上でよりよい社会を構築しようとする「息継ぎ政策」である。だからマルクスやレーニンをちゃんと学んだ左翼からは、いろいろ批判・ツッコミもある…これからそこのところを展開する。
 松尾匡氏らの提案するケインズ政策…不況期に財政出動して需要を作り出し、好況期はそれを止め、「引き締め政策」を採るというのは、あくまでも資本主義社会がそのまま継続していくという前提に基づいている。
 
 しかし資本主義社会は永遠ではない。過去に何度も恐慌を起こしている。つい10年前にもリーマンショックという恐慌が起き、多くの労働者が職を失い、路頭に迷った。それどころか、発展した資本主義…帝国主義はお互いにつぶし合う「争闘戦」を行う…90年代日本の「失われた10年」は、冷戦に勝利したアメリカ帝国主義による日本に対する争闘戦の結果でもある。それどころか2度も「帝国主義戦争」たる世界大戦を引き起こしている。
 こうした「資本主義の危機」「資本主義の矛盾」は、単なる需要不足では説明がつかないし、需要を増やせばなんとかなるというものでもない。「利子」を要求して世界中を駆け巡る資本そのものを規制(これが革命だ)しない限り、解決不可能なものである。

 「そろそろ左派は…」の中で松尾氏らは、ヒトラーやトランプのような極右が政権をとらないよう、左派がケインズ政策による「反緊縮」政策をとる必要があると説く。トランプはともかく、ヒトラーが政権を取れた、あるいは国民から一定の支持があったのは、世界恐慌期に緊縮政策をとらず、財政を拡大して雇用を増やしたから…逆にヒトラー以前の政権は、当時のセオリー通り緊縮政策をとった…ということを指摘もしている。
 ヒトラーの時代に「ケインズ政策」という言葉は当然ないわけだが、ヒトラーは一種の「ケインズ政策」をやっていたわけだ。当然、不況は「解消」した。ドイツにおいてはほぼ「完全雇用」が達成されたと言ってもよい。だが、資本主義・帝国主義の矛盾は解消されなかった。ヒトラーは東方への「生存権確保」を目指し、第二次世界大戦への引き金を引いた…他方、第二次世界大戦のもう一つの当事者、アメリカも「ニューディール政策」というケインズ政策をとり、不況は解消したが第二次世界大戦に参戦し、帝国主義間の矛盾解決を行っている。このようにケインズ 政策そのものは、帝国主義戦争を防ぐものではないのである。
  松尾氏らは、ヒトラーでなく、左派が「ケインズ政策」を採って政権を握っていれば、戦争は起きなかったと反論しそうであるが、資本主義・帝国主義の矛盾をそのままにして、争闘戦を続けていれば必ず戦争あるいはそれに近いクラッシュが起こる。歴史にIFはないのであるが、仮にドイツで「左派」(社会民主党なり共産党)が「ケインズ政策」をとって頑張っていたとしても、その先で革命起こして資本主義・帝国主義の矛盾を無くさない限り、どこかで右バネが働いて、ドイツは左の政権のまま、あるいは右派に政権を奪われて「戦争政策」を採ったであろう。
(つづく)


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