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LIVE備忘録 vol.16 【時をかけるメロディー】

『UBC-jam vol.35』 at 所沢航空記念公園 野外ステージ


2024年3月16日 (土)

今季は暖冬だった。
今年の冬はそう締めくくるだろう、と思っていた12月から時は流れ、3月。

1週間の海外旅行から帰ってくれば、グズグズと続く日本の冬にやや喉をやられつつ、未だ終わりの見えない寒さのなか迎えた3月16日。晴天だった。


カネコアヤノ早稲田祭以来、実に4ヶ月ぶりのライブ。小山田壮平に関して言えば10ヶ月ぶりのライブである。




小山田壮平は、昨年ライブアルバムをリリースし、今年の1月に新譜をリリースした。


時をかけるメロディー




THE TRAVELING LIFE』以来4年振りのフルアルバムで、2021年に配信リリースした“恋はマーブルの海へ”から最新曲の“君に届かないメッセージ”まで、ライブでは定番である10曲に加えて、新曲である“コナーラクへ”、“マジカルダンサー”が収録されている。




小山田壮平の良さ、というかインディーズの良さというか、メジャーでは無いアーティストはシングルをリリースしない上に、タイアップ曲などもないためアルバムがまとまっている。
andymori時代のアルバムなんかは特に明確で、例えば2nd ALの『ファンファーレと熱狂』は“ディストピア”でまとまっているし、5th ALの『宇宙の果てはこの目の前に』は、日常の情動が様々な距離感と時間スケールで歌われていて、まさに“宇宙の果てはこの目の前に”だ。


ALでは長澤知之のエッセンスが入るため割愛するが、小山田壮平1stソロアルバムの『THE TRAVELING LIFE』では、アルバムタイトルにあるように“旅”に関するコンセプトアルバムだったと思う。
人生から散歩までの様々なスケールで、あるいは人生を散歩スケールに落とし込んだ歌で構成されていた。なかでも1曲の中でたくさんの表情を見せる“旅に出るならどこまでも”は圧巻で、旅を通して出会う人、景色、情動がめくるめく速さで流れていく。

長々としたり顔で語っているが、何が言いたいのかと言うと、配信によるシングルリリースがなされている曲や5,6年前から歌われている曲などでアルバムの8割以上を占める『時をかけるメロディー』は、所謂コンセプトアルバムではなくなってしまっているのではないかということだ。これまでにほとんどシングルリリースをすることがなくアルバムを作ってきた小山田壮平にとって、ライブで披露されたことのある曲を除くと新曲が2曲のみである『時をかけるメロディー』は、まとめアルバムになってしまっているのではないかという不安があったわけだ。



結論から言うとその疑念は杞憂だった。
あまりにも杞憂だった。
今回のアルバムは、ひとつの旅を多角的に捉えた作品となっていると思う。
旅をしていればごく自然に訪れる出会い別れや心の揺れ動きを、時間の変化と共に見ている感じ。
もう既にリリースされていた曲たちがこうやって混ざるのか、、!
アルバムリリース後、小山田壮平は週8レベルの高頻度でラジオに出演していて、それを聴いているとやっぱり順番にこだわりがあって



そして何よりも大きな変化として、2023年度末に、小山田壮平バンドを支え続けていた濱野夏椰がGateballersに集中するためにサポートメンバーから抜けた。公式的にアナウンスはされていないが、11, 12月頃から「ギターが変わった」というライブレポが散見されるようになり、極めつけは濱野夏椰のインスタ


より、サポートメンバーを辞めたことが明らかだ。

『時をかけるメロディー』のギターテイクは濱野夏椰だが、そこからどれほど変わっているのか。
初期カネコアヤノを支え、小山田壮平バンドを長年支えた濱野夏椰のギター。本人がボーカルギターをつとめる“Gateballers”の楽曲や、カネコアヤノの楽曲(“コンビニ”, “キスをしよう”, “カウボーイ”等)から分かるように、サイケデリックで浮遊感のあるギターは一目で濱野夏椰だとわかる。どれほど変わってしまうのか。





新たなサポートギターは岡愛子。福岡出身のギタリストで、“BimBamBoom”というバンドをやっていたらしい。







まだまだ終わらぬ肌寒さの中でも春の気配がある所沢航空記念公園には、ピクニックをする家族。凧揚げを楽しむ子ども、犬を散歩する夫婦。
道端で行われていたフリーマーケットの様子を一瞥し、近くのカフェで腹ごしらえをして会場へ。



andymoriやカネコアヤノ、スピッツの弾き語りをしているこの方を見かけたりしながら、入場口でリストバンドを受け取り座席へ。






考えてみれば初の野外ライブ。
閉じられていない空間で鳴る音楽はどんな感じなのか。

そして対バン形式のライブは実に3回目だ。

インナージャーニー × SULLIVAN'S FUN CLUB
カネコアヤノ × ザ・クロマニヨンズ

に続いて3回目。

音響云々の関係で直前にバンドセットからアコースティックに変わった崎山蒼志、全くリサーチをせずに観ることとなってしまったミツメ、そして小山田壮平。




上手側のスタッフ出入口から普通に入ってくる久富奈良に目を奪われつつ、時間きっかりにライブが始まる。


普通に上手側ステージの裏から出て、客席の後方に向かう小山田壮平、岡愛子、藤原寛に目を奪われて野外の良さを実感している中、Ovationの佇むステージにフラッと現れた崎山蒼志。
ブラウンのトラックパンツに、緑のフルジップスウェットを身にまとって出てきた崎山蒼志は、想像以上に小さかった。
小さかった。というのは色々な意味で。思っていたよりも背が小さかったのはあるが、それ以上にもっと堂々と迫力を連れて出てくるのかと思っていた。

21歳にして確かなキャリアを積んできた崎山蒼志は、驕り高ぶった様子など1ミリとも見せずにあくまでこじんまりとした様子でステージに目を配りながらでてきた。

淡くも深い青色のギターを弾きながら始まった1曲目。

自然光のスポットライトに照らされながら歌う“国”。



かっこよい。スポットライトの中で爆発している崎山蒼志は静かに燃える炎のようだった。


かっこよかった。歌い出せば滲み出るとてつもないオーラ。
なんと言ってもギターが凄すぎるし。
只者じゃなさすぎる。

正直に言って曲は全く知らないため、圧倒されたままどんどんライブが進んでいくが、その豊富なリズム、独特なコード感、そして時折エネルギーとともに後ろに蹴り挙げられる足に釘付けだった。

途中、手拍子を観客に促して歌ったり、なんだか不思議なMCをしたりする姿に、会場の空気は完全に1人の青年に持っていかれていた。


そして最後の曲は“Samidare”。

特に崎山蒼志を追ってこなかった自分にとって、この曲がどういう位置付けなのか正直分からない。
あまりにも有名すぎてもしかしたら本人は歌いたくないかもしれないし、中一の時に作った曲だから、黒歴史なのかもしれないし。

そんな陳腐な想像が付け入る隙もないまま、激しいカッティングと妖しいな歌詞、特徴的な歌声から成る音楽が流れ込んでくる。


進化していた。
何度も観ていた『日村がゆく』の動画とは明らかに違う弾き方で、時折聴こえる自由で激情的なアレンジに観客が湧く。



もう進化しているのね。ずっとずっと。




30分ほどのセット転換の間にミツメのリハーサルが始まる。

そうなんだよな、リハーサル。
野外だったり、対バン形式のライブはリハーサルがある。


リハーサルを終え1度退場すると、再度時間になり、飄々と出てきたミツメ。

1曲目は“ディレイ”。

崎山蒼志とは打って変わってゆったりとしたミニマルな音楽。
浮遊感のあるギターの音に響く歌声。

自分も学生の時にvol.21ぐらいを見に行って、、
と言うブラウンのジャージを着た川辺素のMCに、なんともしみじみと時の流れを感じたりしながら、昼下がりのやわらかい風に彼らの音楽が溶ける。

頭を振りながら揺れるベース(nakayaan)に、ステージ下手側で優しい歌声のギターボーカル(川辺素)、てっきり歌うのかと思えばリードギターを弾くギター(大竹雅生)。ドラム(須田洋次郎)は見えなかった。


着々とゆらゆらと流れ続ける感じ。今まで聞いてこなかったジャンルの音楽です。
夜の高速道路にマッチしそうなのに、昼の公園とも混ざりあっていて心地よかった。

“エスパー”と“ジンクス”が特にピンと来た。






そしてステージ転換を終え、赤いセーターの小山田壮平、金髪が煌めく岡愛子、素敵なニットの藤原寛、アメカジルックの久富奈良が現れる。


ヌルッと始まったリハーサル1曲目は“夕暮れのハイ”。
葉っぱが舞う中歌う小山田壮平。
これなんだよな野外って。
野外ライブ初めてのくせに知ったか振って言うようだが、これなんだよな。
雑音に混ざるクライマックスな音色。

2曲目は“恋はマーブルの海へ”。
タイトなアコギにのせられる小山田壮平の優しい歌声。
リードギターは音源に忠実で、濱野夏椰の時はたしかスライドギターだった気がするから地味に初めてだ。



本番1曲目は“投げKISSをあげるよ“。めちゃめちゃ久しぶりに聴いた気がするこの曲のリードギターも音源通りで、ライブとしてはやはり初めて聴いたかも。
パンキッシュに“アルティッチョの夜”を歌い、ここら辺でこんなMCが。

小山田 「僕と寛は大学がここら辺で」

小山田 「初飲みの思い出はいかがですか?」

寛 「いけなくはないんだけど、なんだかいけないことをしているかんじで」

相変わらずMCでは寛に雑に無茶振りをする小山田壮平。

そうなんだよなここでうまれたんだよな“andymori”は。
早稲田の所沢キャンパスで2人は出会い、“マリファナショップ”を結成して、“BGMS”として“空は藍色”、“トワイライトシティー”、そして“マイアミソング”を生み出して。


そんでたしか寛が「実家もここら辺で、、」みたいなことを言ってた気がするのだが、初めて知った。寛が帰国子女なのは有名(?)な話ではあるけれど。


イントロでハーモニカを吹き損ねて微笑んだ小山田壮平は“16”を歌う。 
濱野夏椰の脱退とともになくなってしまったスライドギターの恋しさを、この曲で再度実感する。


“16”を聴くと感傷にふけってしまう癖を辞めたい。

空がこんなに青すぎるとなにもかも捨ててしまいたくなる
空がこんなに青すぎるとこのまま眠ってしまいたい

16


外。屋根の隙間から見える青空を眺めながら、静かな会場に響く風の音と小山田壮平の歌声。


岡愛子のバッキングが光る“彼女のジャズマスター”は、やっと音源化したロックナンバー。鬼気迫る歌声で歌いあげれば、続く“革命”では一際大きな歓声が上がった。


軽快なギターから始まったのは“コナーラクへ”。
新曲を聴けることをすっかり忘れていた。
いや、良い良い。めちゃめちゃ良い。
19歳でインドに行き自転車でコナーラク寺院へ向かっているときに作曲した、というこの曲。

相変わらずとてつもないメロディーセンスにハーモニカの音が乗せられて、いや、良い良い。

このエピソードにあるように、地味にYouTubeで聴いたことがあった曲ではあったが、改めてリアレンジされるとなおも良い良い。


「実は、前にこの曲をラジオで歌ったことがあって、その録音がYouTubeに違法に上がっていたんですよね(笑)。それをたまたま見つけて、当時のことを思い出したりして。それで『時をかけるメロディー』というイメージにもつながって、収録を決めたんです。きっかけをくれたYouTuberさんには、『すみません。発売までは上げるのやめてください』ってお願いしたんですけど(笑)」

【インタビュー】小山田壮平が新作アルバム『時をかけるメロディー』をひもときながら、旅、人生、そして音楽を語る


地味に音源が3つある“サイン”は全く覚えていないが、歌い終えるとバンドメンバーは退場し、小山田壮平1人に。

K YAIRIのギターを爪弾くと、本編最後の曲は“時をかけるメロディー”。

これがもうとんでもない多幸感というか。春の匂いが混ざるそよ風に揺られる木々と観客。ほのかな太陽光に煌めく緑も息を潜め、跳ねるようなギターの音に耳をすませる。
遥か彼方からやってきたメロディーが、数々の旅の末にたどり着いた所沢航空記念公園に響く。


歌い終えた小山田壮平は、大きな拍手を送る観客にアンコールの手拍子を促しステージ裏へはけていった。


アンコールでバンドメンバーを含め出てくると、小山田壮平は岡愛子に初飲みの話を無茶振りしたり、寛に学生へのエールを無茶振りしたりしていた。



アンコールはもちろんこの曲。
“グロリアス軽トラ”。
そりゃもう最高よ。
天使と人間と悪魔と豚とかぼちゃのお化けが踊る地面に跳ねるひょうきんな歌。

ラスサビ前で「所沢の空の下」と歌えばもう最高。

ベースの音で気持ちよく曲を締めくくると、穏やかな空の下でライブが終わった。




気づけばやや肌寒いことにむしろ清々しい気持ちで会場を出て、超絶リフティング上手上手お母さん&娘を見かけつつ寄った蕎麦屋で食べた天ぷらそばを注文すれば、新年度前最後のライブであることの名残惜しさを、ほわほわの蕎麦とサクサクのエビフライと共に飲み込む。
野外小山田壮平をついに観れた多幸感にさらに心もほわほわになれば、徐々に翳りゆく所沢をグロリアス電車であとにした。




※加筆修正します。





[セットリスト]

崎山蒼志
1. 国
2. 夏至
3. i 触れる SAD UFO
4. ソフト
5. 橙
6. Samidare


ミツメ
~rehearsal~
1. disco
2. 20

3. ディレイ
4. あこがれ
5. 睡魔
6. ジンクス
7. サマースノウ
8. エスパー

小山田壮平
~rehearsal~
1. 夕暮れのハイ
2. 恋はマーブルの海へ

3. 投げKISSをあげるよ
4. アルティッチョの夜
5. 16
6. 彼女のジャズマスター
7. 革命
8. コナーラクへ
9. サイン
10. 時をかけるメロディー (小山田 弾き語り)

~encore~
11. グロリアス軽トラ


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